文字数 877文字



~雅環菜~

「はい、では、最後は吹奏楽部の紹介です」

 生徒会の司会者が言うと、真ん中に立つ顧問が指揮をして、チューバ担当の私はプォーっと低い音を出す。

 チューバは金管楽器で最も低い音を担当し、全体を支えるため、ミスは許されない。

 新入生が入学して二週間、今日は部活動紹介が行われるため、一年生と各部活の紹介者が体育館に集まっている。

 吹奏楽部は総員15名程度で小規模、一楽器につき一人~二人で、人数を欲していた。

 三年生が引退してしまったら、ゴロッと人数が減るため、顧問に部長も勧誘に必死。

 お腹に力を入れながら、マウスピースで音階を吹いていく。

 ドドレレ、ソーファソ。

 チラリと床に座る一年生を見ると、つまらなそうな顔をしている生徒が大半のようで、ドキッとする。

「皆さん、是非、吹奏楽部に遊びに来て下さい」

 部長の言葉の後に、全員で頭を下げると、その場は解散となった。

「凄く緊張した」

 片付けながら、フルート担当の千歳唯(ちとせ ゆい)がホッと息を漏らした。

「フルートはセンターだもんね」

 おっとりしていて可愛らしい唯ちゃんは、繊細なメロディーを奏でるフルートにピッタリだ。

 一方で、身長145センチで、楽器で一番大きいチューバを吹いている私は、演奏中、よくチューバで体が見えない、と言われてしまう。

 でも、チューバのどっしりと周りと包み込むような音に惹かれ、私は中学の頃からチューバ奏者として、吹奏楽部に所属していた。



 一旦自分の教室から鞄を取ってくると、すぐに南校舎三階にある音楽室に向かう。

「お疲れ様です」

 四月、春の陽気に包まれ、室内はポカポカ西日に照らされている。

 チューバは部屋に入って右前方、日当たりのよいポジション。

 私は肩から鞄を下ろすと、準備室から大きなチューバケースと楽譜を持ってくる。

 さて、今日は何から練習しよう。

「あの、見学いいですか?」

 ──と、考えていると、数人の見知らぬ生徒が音楽室を訪ねてきたではないか。


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  • 『プロローグ』

  • 1
  • 第一章 『ふわり春風になびく髪』

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 第二章 『思い出には、目を伏せて』

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 第三章 『胸を駆け巡る恵風』

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 第四章 『二人だけの、音楽室』

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