04
文字数 6,014文字
僕が宣言すると、海道さんは軽い拍手をしてくれる。
キャラクターシートを前にシャーペンを手にした海道さんが僕の話に耳を傾ける。
僕はひさしぶりのGM業と、同い年の綺麗な女の子との会話に緊張しながらも話をすすめる。
ちょっとだけ声色をつくって子どもを演じる。海道さんの目がちょっとだけ笑ったけど、気のせいだと自分に言い聞かせて続ける。
「子どもが言うには、妹と森へ入ったところ、ゴブリンと遭遇したらしい。それで逃げる最中に大切な妹とはぐれてしまったと言っています。村の大人たちはゴブリ ンを恐れて森には入りたがらないので、途方に暮れていたところらしい。ちなみに子どもたちは孤児らしく身なりもあまりよくない」
海道さんは優しい目で子どもをたしなめるように言う。
その言葉にちょっと笑いそうになってしまう。剣さんが剣に誓うだなんて。
ちゃんとシロードになって演じてくれている。
海道さんが僕の貸し出したふたつのダイスを真面目な顔で振るう。白地に黒い点を背負った六面のサイコロは3と5の数字を上に向けた。
それを聞いた僕は手元の控えておいた、シロードの知力の数値とスキル内容を確認しつつ告げる。
回復量が地味なのは、魔法でもないのに、草を張っただけで傷口が塞がっていくのはどうかと思うから。
あれ、ここは「よろしく」じゃなくて「お願いします」だったかな。
まぁいいか。
ふぅ、まずは冒険の導入完了。
場面を森に移さないと。
場面を森に移さないと。
「ゴブリンはこの世界ではメジャーなモンスターだね。だからゴブリンのことは一般的な知識として持ってる。
背が低くて粗野で乱暴な人型の怪物。村人よりは強いけど、駆け出しとはいえ戦士のシロードなら問題なく勝てる。
ただ一度に複数匹を相手にするのは危ないと思ったほうがいい。あと人間の共通語は通じない」
海道さんの振ったダイスは、目が減って2と4だった。
ここで、戦闘に慣れておいてもらいたい僕はそう答える。
海道さんは勢いよくダイスを振るう。だが、気合いの入りすぎたダイスは勢いよく机をとびだしてしまう。
僕は反射的に手を伸ばし、それをキャッチする。
海道さんはダイスを受け取ると、今度は机から落ちないように振りなおす。
しかし、振りなおしに気合いが抜けてしまったのか、出目は赤いひとつめ目が並んでいた。このゲームでは1《ピン》ゾロとは単なる一番小さい数字というだけではない。ファンブルといって通常ではありえないミスをしたことになるのだ。
海道さんはダイスを手に戻し、臨戦態勢をとる。
僕はゴブリンの数値と照らしあわせて必要な数値を決め海道さんに告げる。
キャラクターシートの武器のダメージが書いてある場所を指して誘導する。このあたりはダイスを連続して振ることになる。ダイスをあまり振らないでいいようにちょっと調整の必要があるだろうか。
僕はその数字を聞くと、反撃予定だったゴブリンの行動を変えることにした。
シロードは勇敢に言うけど、巣穴までいくと1対多数になるんじゃないかな。まぁ、逃げる先は巣穴じゃないんだけど。
「では、逃げるゴブリンを追いシロードは森を走る。さっきも言ったけど、森は人の手が入っていないので走りにくい。でも、それはゴブリンもおなじなので逃げられることはなかった。
そのままゴブリンを追っていくと、少し拓けた場所に出まる。そこには丸太で造られた小屋が建っていた」
僕の台詞を聞いた海道さんが怪訝な顔をする。そこで初めてプレイの流れがとまった。
シロードは男っぽいしゃべり方だったけど、彼女の場合普段からそういうしゃべり方なので気づかなかった。
キャラクターシートに性別の欄をつけ忘れたか。あとで修正して付け加えておかないと。
戦闘がはじまるとシロードが先制し、魔法使いとの間に立ちふさがるホブゴブリンに傷を与える。
だが、魔法使いとゴブリンたちからの反撃を受けるとシロードはグッとそのHPを減らした。
だが、魔法使いとゴブリンたちからの反撃を受けるとシロードはグッとそのHPを減らした。
言いながらも、チラリとシロードのキャラクターシートを覗く。HPはすでに半分になっている。
やばい、このままだとあっという間にデッドエンドだ。これでは楽しんでもらうどころじゃない。予定を繰り上げよう。
「それは魔法の呪文だった。ホブゴブリンの後ろに控えた魔法使いの呪文と、詠唱の雰囲気で別系統だと察することができます。そして魔法が発動すると魔法使いの顔色が変わる。魔法使いは口を金魚のようにパクパクさせるが声は出ていない」
海道さんはダイスを握る手に念を込める。そして、机から落ちないよう気をつけながらも「乾坤一擲」と力強くダイスを振った。
現れた目は6がふたつ。
ここ一番というところで最高値を振るなんて、なんて勝負運の強い。
おっと、そうだ説明をしないと。
ちなみに最初のロールは嘘発見ではなく、変装を見抜けるかのロールだった。見破られたらどうしようかは深く考えてなかったけど。
「小屋の中は思ったよりも片付いてるね。中には机と魔法文字で記された書物がある。さらには凝った造りの鳥かごがぶら下がってて、中に人形サイズの人影がみえた。
少女は鳥かごに駆け寄るとその蓋を開ける。中からでてきたのは半透明の羽をもった妖精。サイズちがいの体で抱きしめあって互いの無事を喜んでる」
どうも、自分の実力が足りなかったことが不満らしい。そういうバランスでシナリオを組んだのは僕なので、反省されてもしかたないのだけど。