快楽夢

エピソード文字数 1,422文字

 ウォール街。
 アパートの一室。
 台風が吹きすさぶ。
 深夜四時。
 部屋じゅうは粗大ごみだらけ。
 腐臭がただよう。
 至るところに黒いゴミ袋が散乱している。
 だれも助けにはこない。
 ここはまさしく、
 変態女の魔の巣窟。
 
 ふと、気がついたぼくは必死になって五感を研ぎ澄ます。
 なんにも見えない!
 目の前は真っ暗闇だ!
 視覚が完全に遮断されると否応なく、触覚、味覚、嗅覚、聴覚、恐怖心、想像力が掻き立てられる。
 あれっ? なんだこりゃ!?
 ぼくはつるつるした全身タイツの格好をしていた。
 ペニスとお尻にひんやりとした風があたる感触。
 なんてこった!
 恥部をさらけ出しているっ!
 叫び声をあげたくても銀色のダクトテープで口を塞がれていた。
 暴れようと必死にもがいたら肘が壁に激突した。
 じーんと肘が痺れた。
 ここは息が詰まるほど狭い空間だった。
 耳をそばだてる。
 女の荒い息づかい、煙草くさい口臭、汗ばんだ髪の毛の匂い、汗臭い体臭。
 雌ゴリラのような腋臭、微かに香るドルチェアンドガッバーナの匂い、消臭剤の匂い、アンモニアの臭い、おしっこの臭い、うんちの臭い。
 どうやらここは便所のなかのようだ。
 おえっ!
 吐き気がする!
 なんて最悪な場所なんだ……
 しかもぼくは恐竜のようながっしりとごつごつした女の太ももの上に腰をおろしている。
 この女は素っ裸だ!
 プラスチックの便座がみしみしと軋む音を立てた。
 女はどっかりと便座に腰掛けていることを知った。
「どうやら気がついたようね――坊やがあまりにもかわいかったもんだから思わず誘拐しちゃたわ。おーふぉふぉふぉ」謎の女は貴婦人のように勝ち誇った高笑いをした。「このトイレットペーパーが一本なくなるまで、なんどもなんども射精しつづけるのよ、スパイディ。いい、わかった?」煙草で喉をやられたようなしゃがれた声だった。
 スパイディだって?
 もしかして、ぼくはスパイダーマンの格好をしているのか!?
 とつぜん、背後から羽交い締めされて膝の上から床の上に滑り落ちたぼくは足の指でぎゅうっと乳首をつねられた。
 ぼくはいま熟女に犯されている!
 いったい、誰なんだ?
 どんな顔をしているんだろう?
 じわじわとこみあげてくる、羞恥心、嫌悪感、罪悪感、絶望感、敗北感、背徳感。
「わたしの名はマッスル・ウーマン。これまでわたしの足の裏で幼気な美少年たちを何百人も犯しまくり虜にしてきたのだ、おーふぉふぉふぉ」謎の熟女はコホンッと咳払いをしたあと、濃厚な口づけでぼくの唇を奪い耳元でそっと囁いた。「さあ、わたしの軍門にくだるのよスパイディ!」
 熟女の足裏はまるで磁石のようにぴったりとぼくのペニスにへばりつき、ゆっくりと上下にさすりはじめた。
 しわくちゃのざらざらした足の裏の感触。
 皺、臭い、タコ、魚の目、白癬菌、水虫、角質、偏平足、外反母趾特有の親指そのすべてが一瞬にしてぼくを極上のオルガニズムとエクスタシーの世界へと誘う。
「どう、きもちいい?」話しながらも女はペニスをさすりつづける。
 ぼくはうめき声をもらした。
 ああ、きもちいよお!
 
 とつぜん、ジリジリと目覚まし時計が鳴った!
 「あれは夢だったのか――」
 ぽかんと口をあけたまま汗みずくで目覚めたぼくは、蕎麦がらの枕になんどもなんども頭突きを食らわせた。

 
 
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