第二話 memory (7)

文字数 804文字

 拝啓 滝川 一颯様

 暑さも峠を越えたようで、朝夕の風に秋の気配を感じるようになりましたが、そちらにはまだ暑さが残っていますか。
 もう颯くんとさよならをして、二年が経ちました。
 颯くん、あなたはいま、どうしていますか。
 颯くん、私はやっぱり、颯くんを心から消してしまうことが、どうしてもできそうにありません。
 あなたに逢いたい。
 日々、そんな想いを、ただつらつらと募らせています。
 颯くん。
 あの日のことを、今日はお話したいと思います。
 最後のデートの、前日のことです。
 私は一人で未来に行きました。
 理由は、マスターにあるお願いがあったからです。
 それは颯くん宛に、お手紙を預けることでした。
 マスターは快く承知してくださいました。
 ただ、そこには一つ条件があります。
 あくまで、あなたが未来を訪れた時にそっと渡して欲しいというものです。
 決してマスターから、あなたにわざわざ渡して欲しいとは頼んでいません。
 そこには、私があなたに黙っていたことを全て書き連ねています。
 当時の私には、それをあなたに直接話す勇気はありませんでした。
 ですから、あなたが未来を訪れることに一縷の望みを込めて、マスターに手紙を託しました。
 でも、あなたから便りがないということは、いよいよ私はそれを諦めなくてはならないのだと思います。
 颯くん、あなたが私のことを忘れても、私はあなたをいつまでも想っています。
 想い続けます。
 だって、パズルを組み立てることしかなかった私の退屈な人生に、あなたは熱中できる恋というものを与えてくれた。
 それは冷えてはいけない私にとって、なによりのあったかい贈り物だったんです。
 颯くんはパズルを作る私をすごいと言いましたけど、私にはそれしかできなかったんです。
 なんのことか、わからないですよね。
 詳しいことは今度お話します。
 今日はここまでにします。
 またお便りしますね。

 かしこ

 新城 夏帆

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み