リンドム編(2)

エピソード文字数 2,272文字

階段の踊り場を折れて2階を見上げると、そこには確かに明かりがあった。上がってみると、ほぼ中央のナースステーションに、そこだけ異空間のように灯りが点いていた。

5、6人の看護婦と、短髪の丸顔の男。仕事をするでもなく、立ち話をしている。

ノートンは、この病院の事務長であるステイスという男を訪ねろと言った。彼に訊けば何かわかるのだろうか?

上がって来た三人にいち早く気づいた丸顔の男が、スタスタと近づいて来る。

「どちら様でしょうか? 診察でしたら申し訳ありませんがこちらではもう」

「いえ、俺達はステイスっていう人を探しに」

「ステイスなら私ですが?」

良かった。目的の人物にスムーズに出会うことができた。ナギはホッとした。

「俺達、ノートンっていう人に言われて来たんです」

グラディがそう言うと、ステイスは三人を灯りのともるナースステーションに導きながら、よく通るテノールで答えた。

「ノートン? ああ、存じておりますよ。さあどうぞこちらへ」

ステイスは三人をナースステーションの中に案内する。看護婦達は相変わらず仕事をせず、デスクにもたれて三人が入って来るのを見ている。

「か、患者さんはいないんですか?」

ランスが訊く。

「ええ、みんなこの国を出て行ってしまいましてね。私どもだけ残務整理でこうして残っているのですよ」

そうなんですか。グラディはステイスの話を聞きながら、なぜか息苦しさを禁じ得なかった。嫌な汗が滲み出てくる。本能が、何かを、

「……で、どのようなご用件で?」

ステイスがグラディに振り向く。

振り向いたステイスの顔が
突如、貝のようにパカッと口を開けた。

人間の口ではない。顔の大きさに、パックリと口が開いている。

ステイスはグラディの肩を掴み、その頭にかじりつこうとした。ひるむグラディ。駄目か!?

咄嗟。ランスの体当たり。ステイスは倒れ尻餅をつく。

何? 何? 混乱するナギは、すぐに自分にも危機が迫っていることに気づいた。

看護婦達が、カパアッと口を開いてナギに襲いかかる。

キイキイ! リョータが飛びかかり、ナギは看護婦の手を逃れた。だが、三人は既に囲まれている。

「くそっ! モンスターだったのか!」

襲いかかるステイス。ええい! ランスがその腹を槍で貫く。飛びかかる看護婦を、グラディが斬る。

しかし。
ステイスも看護婦も、すぐに起き上がり再び襲って来る。くそっ! 斬る。突く。それでも敵は起き上がる。

「こいつら、不死身だ! きりがない! 逃げよう!」

グラディは目の前の看護婦をさらに斬り、隙を作る。走る。だが、看護婦の伸ばした腕がナギの髪を掴む。

「きゃあ!!」

「ナ、ナギちゃん!」

ランスが槍を突き出す。だがナギを避けたために看護婦を外してしまう。勢いあまるランス。槍の切っ先は敵を外して、床に突き刺さる。

ところが。ナギの髪を掴み、その頭を丸かじりしようとした看護婦がいきなり力を失いドサリと倒れた。何故だ? 床に突き刺さる槍を抜こうとして、ランスは咄嗟に気付いた。

「グ、グラディ! こ、こいつら影だよ! 影の方がほ、本体だ!」

そうだ。ランスの槍は看護婦の床の上の影を突き刺していたのだ。

影だ! ランスはさらに追ってくる看護婦の後ろに回り込み、その影を突く。グラディがステイスの足元の床を切り裂く。

モンスター看護婦、そしてステイスは倒れ、動かなくなった。

「影が体を操ってたのか……」

剣を収めるグラディ。終わったか?いや。三人の耳は闇から響いてくる足音に気付く。

「まだまだいるみたいだ。こっちに向かって来てる。逃げよう!」

三人はナースステーションを飛び出し、階段を駆け下りた。

病院を飛び出す。再び闇の世界だ。手がかりの人物は既にモンスターと化してしまっていた。ここから、どうする?

「どっちみちここにいても危ない。どこか安全なところを見つけよう」

三人は意を決し歩き出す。しかしすぐに、

「うわあ!」

「? どうした、ランス?」

「あ、足が! わあ!」

ランスの体が、転げた。

「ランス!?」

「あ、足が! くそっ!」

ランスは槍を抜き、自分の足元を突き刺した。やみくもに何度か突き、ようやくランスは自由になった。

「か、影のモンスターが潜んでいるよ。こ、この闇の中じゃ、ふ、不利だ」

「ちくしょう、敵がどこにいるかわからないなんて」

そう言ったグラディの体がいきなり闇に包まれる。影のモンスターがグラディに襲いかかったのだ。

グラディは剣を抜き、闇に斬りかかる。ランスが闇を突く。グラディが闇を斬る。

光。光だ。闇が相手では圧倒的に不利だ。ナギは近くの家に魔壊銃ビューラを向けた。

「ごめんなさいっ!」

魔法弾発射。火の魔法。家はたちどころに燃え上がる。同時に照らし出される闇。三人を取り囲む影どもが、露わになった。

「ありがとうナギ!」

グラディが、迫る影を次々斬り倒す。ランスが槍を振り、影をなぎ倒す。ナギもビューラを構え、光の魔法弾を放った。光とともに消え去る影。

「うわあっ!」

油断した。影はどこからでも現れるのだ。足元から突如現れた影に、グラディが捕らわれた。飛び散る血しぶき。影の鋭い爪が、グラディの右胸を切り裂いたのだ。

「きゃあ! グラディ!」
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登場人物紹介

ナギ ……本篇主人公。16歳。失踪した兄を探すため、冒険の旅に出る。

パセム……ナギの兄。ナギを守るためにゾンビと戦い、行方不明になる。

アビス……ナギの親友。元気よく、いつもナギを励ます。パセムを慕っている。

フロス……ナギの親友。明るく好奇心旺盛で、人なつこい。

ムジカ……ナギの親友。おっとりした少女だが、天才的ピアニストでもある。

グラディ……ナギの幼なじみで、連邦一の剣士。一子相伝の雷剣の使い手。

ランス……グラディの親友で、連邦一の槍使い。口下手でどもるところがある。

エジェット……グラディの祖父で剣の師匠。

リン……黒いゴスロリの黒魔法師少女。右頰にコウモリのタトゥがある。

ピンセル……リンと一緒におり、空間の隙間を走る車を操る。喋らない。

リョータ……メルカートおじさんの家で出会った七色インコ。

ノートン……真実を伝えるベリテートのジャーナリスト。

悪魔……???

ルナ……ハティナモンで出会った不思議な女の子。回復魔法が使える。

ティマ……連邦とは海を隔てたモルニ国出身の女の子。ネピオルネスのスコラに通う。真面目でしっかり者。

アミィ……ティマの親友で、同じくモルニ国出身。活発で明るい性格だが、スコラはさぼりがちになっている。

レン……リンの姉で、数少ない白魔法師。様々な回復系魔法を使う。誰よりも優しいが、変わり者な一面もある。

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