再会4

文字数 1,234文字

晋は供述を終え、ふぅーっと肩をすくめその顔はリンゴのように真っ赤だった。
 結局の所、晋は不貞ギリギリだった。 同僚と酒を飲み、互いにまだまだ長ーい夜を想像したあたりで文成と遭遇。突然の遭遇と後ろめたさから白けてしまった不貞ギリギリ男とその同僚は飲みかけのハイボールを胃に流し込み互いに家路を辿ったそうな。
 「けどよくそこまで行って帰ったな。 なんか悪い事しちゃった? いや良いのか」
 「あれな、白けちまってのんびり帰ってたら嫁から電話が来てさ。最近いろいろと当たってゴメンね。気を付けて帰って来てね。って言うわけよ。そんなん聞いたら愚痴ってたのが申し訳なくなってさ。」
 確信した。なんだかんだ晋は嫁が好きなんだ。前から晋が言う可愛い女性はどこか嫁に似ていた事を思い出した。結局は今でもこの通り晋は嫁にゾッコンだったようだ。
 「なんだ。離婚したら盛大に慰めようとしたのにな」
 「お前、人の事よりまず自分だろ。そんなに厳ついと女も寄って来ねぇのかな」
 「いやー俺こないだ彼女出来ちゃってさー。マジ可愛いんだよこいつがさぁ・・・」
 「晋、疑惑はあったけど。何事もなさそうで良かったよ。仕事がなくなったのは痛いけどな」
 「頼むよホント。あの日以来嫁もなぁんか感づいてるっぽくて今は大人しくしてんだから」
 「おい! 聞けよ! 俺の話!」
 文成は惚気ると長い。最終的にはお前も早く彼女くらい作れよとお決まりの流れがもう見えてきた。ここは盛大にスルーしておくことにした。
この3人と年を取り、それぞれ別の道で生きているがたまに再会すれば学生の頃の様に笑える。この大事な距離感が心地良かった。 

開始の時間が近くなり、懐かしい顔ぶれが揃ったあたりか。
会場は今か今かとグラスを手にし興奮気味の会場の中。
ホールの入り口からあの日憧れた今はすっかりと大人びた想い人がめいいぱいのおめかしをして、背筋を伸ばし、級友に愛くるしい笑顔を振りまくその姿に私は電撃を喰らった。
あの頃の面影を残した狐のように愛くるしい目元を添えて級友との再会に花を咲かせていた。
彼女との再会こそ今日のメインイベント。司会の再会を祝う祝辞すらそっちのけに目の前のビールを流し込んだ。どう声をかけようか。しかし彼女は今となっては人妻となり他の男など立ち入る事を許さぬ不可侵の存在となってしまった。ホール上のシャンデリアの光が彼女の薬指に嵌めた指輪の光がより一層、彼女の魅力を押し上げ、キラリと輝く銀色は虫よけの飾りにも見えた。その輝きは己の幸せを具現化したものなのだろう。私は幸せを手にし、どうか私のこの上ない幸せに土足で立ち入らぬようお願いします。彼女の指輪が周囲に語り掛けたようにも思える。この町は冬になれば豪雪地帯と化し、前も見えぬほどの地吹雪が舞う。それゆえこの国を象徴とする花の開花は遅い。

 
 線路沿い、穏やかな陽気に急かされた桜が咲き始めたころ。彼女は、桐は結婚した。

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登場人物紹介

恵助 しがない探偵 主な仕事は浮気調査と人探し。 学生時代の初恋の女性を忘れずにいる。

桐  恵助の初恋の女性。今春年上の男性と結婚。とあることから恵助に依頼する。

晋  恵助、桐の友人。 隣県に移住した。妻子有。

文成  恵助、晋とは旧知の仲。筋肉隆々の男。

李依  桐の近所に住む学生。桐とは姉妹に近い程仲が良い。今どきの子らしく物言いが鋭い。恵助を疑う。

沢城 恵助にペット探しの依頼をした女性。恵助より2、3年上。ちょっと抜けてる?

一徳 桐の夫 疑惑の張本人。

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