第22話  奇遇な出会い

文字数 1,493文字

会場を後にして、私達は近くの店でランチをとった。

その後、華子は先に帰った。華子にしたら気を利かせたつもりらしく、それこそ大輪のカサブランカのような笑顔でにっこり笑い、
「じゃあ、私はこれからダーリンと会う予定があるから。」と手をひらひら振って出て行った。

そんなさ、120パーセントの笑顔を振りまく必要があんのかい。この場所で。と私は密かに思った。
はっきり言って融君は華子に見惚れていた。
「はあ・・。綺麗な人だね。」
融君は呟いた。

そうでしょう。・・・そうでしょうよ。ましてや、目の前にいるのが私なんだからさ。
「ちっ」と舌打ちしそうになった。

「美人さんでしょ?先日の居酒屋にいた二人と華子で4人グループ。」
そう言いながら心の中で言う。
うん。見た目はね。それぞれに綺麗だったり、可愛らしかったり。
でもね。それぞれに濃い人達だよ。中味は。中味はねえ。めっちゃ変だよ。皆。

 私と融君は華子が帰った後もそこでお茶を飲んで話をした。
 道行く人達はみんな幸せそうだ。

随分前、何年前だか忘れたけれど、こうやってよく彼と二人でお茶を飲んだなと思う。黙ったまま、道路を行く人や、スマホの画面を見ながら。そんな事を思い出す。

「小夜子さんの様子はどう?」
「相変わらずだね。」
「そう。」

もう何年だろう。
そう思った私の考えを読むように融君は答えた。
「もう2年になるよ。君が一緒に小夜子を見舞ってくれてから」
そうだ。陸が亡くなってもう4年になるのだから。

「元気になったね。宇田さん。」
「ありがとう。いろいろと紛れてね。忙しいから。何とかやっています。」
私は言った。
「うん。良かった。」
彼は優しい目をして笑った。

「前よりいい顔している。・・・当たり前か」
「当たり前だよ。・・・融君は今、何しているの?」
「同じ所で働いているよ。ただ、今は派遣扱い。で、土曜の夜だけ友達の居酒屋に手伝いに行っている。・・・宇田さんは何をしているの?」
「ようやくまともな仕事に就いたよ。中学で講師をやっている」
私はそう答えた。
彼は目を見張った。
「すごいじゃん。あの頃の宇田さんからは想像も付かない」
「へへへ」
「本当に良かった。これでもう大丈夫だね」
融君は自分の事の様に喜んでくれた。
「うん。融君のお陰だよ」
私はそう言った。

忘れていたけれど。
最近、思い出した。
済みません。忘恩の徒で。

彼と出会うことで私の心の布置がちょっと変化した。彼が私のこちこちに固まった心に変化を与えてくれたのだ。
そしてそこから私は変わる事が出来たのだと思う。

「融君はどう?」
彼は「うん?」と言ってちょっと黙った。

「今の会社は海外出張もあるから・・・辞めようかと思って会社にそう言ったら派遣扱いで雇ってくれると言うからずっといる。小夜子を抱えながら海外はちょっと無理だなって・・・。就職した頃はまさかこんなに長く掛かるとは思わなかった。せめて小夜子が意識を取り戻すと良いのだが・・・まあ、仕方ないな。こればっかりは・・。小夜子も早く君みたいに元気になってくれるといいなと思うよ」

私は融君に言った。
「融君。私、ちょっと余裕が出来たから。私でも何か出来る事があったら言って。・・恩返しだから」

「別に俺は君を支えた訳じゃない。俺は俺の都合で君と逢っていたのだから。だからそんな風に思わなくていいんだ。君は自分で立ち直ったのだから。・・でも、また君と出会った事で何かが変わるかも知れない。そう思うんだ。何しろ、偶然な出会いがこれで二度目だからな。・・・これはもう因縁を感じるな。何か有るって」
彼は笑って言った。

「確かにそうかも。これは天の神様の采配かも知れないね」
私も笑って言った。
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