第4話
文字数 978文字
誰もいないエレベーターの中で、高野内は自分の右の頬を優しく撫でる。帰り際に、エイラがそっとキスをした事を思い出すと、自然と顔が緩んだ。
ジャケットの右ポケットからカードが出てきたのは、高野内らが下船した後の事だった。きっと、キスをされた時に入れられたに違いない。カードのメッセージにはこう書いてあった。
『素敵な探偵さん。またどこかでお会いしましょうね』それには赤いハートマークが添えられてあった。
きっとエイラは高野内が来ることを予想していたのだろう。靴跡もワザと残したのかもしれない。そしてエイラの正体を暴き、決して他言しないことまで――。
彼女の方が一枚上手だったのかもしれない。
釣り堀のあるフロアに戻り、小夜子を探す。
堀の周りには、どこにもいなかったので、奥の屋台へ足を向けると、小夜子はテーブルに腰かけて、口元を隠しながら爪楊枝を動かしている。皿には魚の骨が山盛りになっていた。
「随分遅かったわね。待ちきれなかったから、釣った魚は全部食べちゃったわよ。……ねえ、どこに行っていたの?」
「まあ、ちょっとね」高野内は言葉を濁した。
「もしかしてエイラさんのところでしょう? 全く抜け目ないんだから」
ドキリとして目を丸くした。小夜子の感は鋭い。だが、エイラのもう一つの仮面が、怪盗シャッフルだったとは微塵も思わないだろう。
「それよりも、いくら魚はカロリーが低いとはいえ、こんなに食べたらまた太るぞ。お前、ここにきて体重増えたんじゃないか?」
「余計なお世話よ。お腹いっぱいだから、今夜の夕食は要らないかも」
「おいおい、俺はどうなるんだ」
「そんなの決まっているじゃない」
小夜子は当然と言った顔で釣り竿を指さした。
「あなた、ヌンチャクだけでなく釣りも得意なんでしょう?」
確かに以前、そう自慢した事があった。当然、それも口から出まかせだったが、ここはあえて触れないでおくことにした。
高野内を残して小夜子がさっさと部屋に帰ったのを見計らうと、釣竿を置いてこっそりとハンバーガーを食べた。だが、部屋に戻ると、待ち構えていた小夜子には、大漁だったと語った。彼女は白い目を向けながら、口元に赤い物が付いているのを指摘すると、高野内はこう切り返した。
「知らないのか? 焼き魚にケチャップをつけて食べるのが流行りなんだぜ」
ジャケットの右ポケットからカードが出てきたのは、高野内らが下船した後の事だった。きっと、キスをされた時に入れられたに違いない。カードのメッセージにはこう書いてあった。
『素敵な探偵さん。またどこかでお会いしましょうね』それには赤いハートマークが添えられてあった。
きっとエイラは高野内が来ることを予想していたのだろう。靴跡もワザと残したのかもしれない。そしてエイラの正体を暴き、決して他言しないことまで――。
彼女の方が一枚上手だったのかもしれない。
釣り堀のあるフロアに戻り、小夜子を探す。
堀の周りには、どこにもいなかったので、奥の屋台へ足を向けると、小夜子はテーブルに腰かけて、口元を隠しながら爪楊枝を動かしている。皿には魚の骨が山盛りになっていた。
「随分遅かったわね。待ちきれなかったから、釣った魚は全部食べちゃったわよ。……ねえ、どこに行っていたの?」
「まあ、ちょっとね」高野内は言葉を濁した。
「もしかしてエイラさんのところでしょう? 全く抜け目ないんだから」
ドキリとして目を丸くした。小夜子の感は鋭い。だが、エイラのもう一つの仮面が、怪盗シャッフルだったとは微塵も思わないだろう。
「それよりも、いくら魚はカロリーが低いとはいえ、こんなに食べたらまた太るぞ。お前、ここにきて体重増えたんじゃないか?」
「余計なお世話よ。お腹いっぱいだから、今夜の夕食は要らないかも」
「おいおい、俺はどうなるんだ」
「そんなの決まっているじゃない」
小夜子は当然と言った顔で釣り竿を指さした。
「あなた、ヌンチャクだけでなく釣りも得意なんでしょう?」
確かに以前、そう自慢した事があった。当然、それも口から出まかせだったが、ここはあえて触れないでおくことにした。
高野内を残して小夜子がさっさと部屋に帰ったのを見計らうと、釣竿を置いてこっそりとハンバーガーを食べた。だが、部屋に戻ると、待ち構えていた小夜子には、大漁だったと語った。彼女は白い目を向けながら、口元に赤い物が付いているのを指摘すると、高野内はこう切り返した。
「知らないのか? 焼き魚にケチャップをつけて食べるのが流行りなんだぜ」