第22話 中学校2年生 林間学校 2

文字数 4,797文字

 C区画に行き、担任の女の先生に到着の報告をする。先生は春香を心配して声をかけるが、春香が明るく「大丈夫です」というと安心したようだ。
 すでに班のみんなはテントの設営に取りかかっているので、それを手伝うようにと言われた。

 テントは男子と女子とで別れていて、それぞれが一張(ひとは)り3人ずつだ。
 俺たちの区画に行ってみると、鈴木と長岡が四苦八苦してテントを設営しようとしている。
「あれ? 女子たちは?」
ときくと、どうやら女子用の区画で自分たちのテントを張っているようだ。張り終わったら、一度、こちらに来て夕飯の準備に取りかかるそうだ。
「春香はどうする?」
ときいたが、
「うん。みんなの所に行くよ」
といった。一人で行かせるのに心配だったが器用に靴からかかとを出し、半脱ぎで歩いて行った。

「さてと」と言って鈴木と長岡を振り返り、俺もテント設営にとりかかる。
 二人ともファミリーキャンプでのドームテントの設営の経験はあるが、三角テントの設営がわからずにとまどっているようだ。

「ほら、しっかりポールを支えて!」
と指示を出しながら、ペグを打ち込んでロープを張っていく。フライシートとテントの間に空間が空いていることを確認して、最終的に各ロープの張りを確認する。

 テントが完成すると、早速鈴木と長岡が中に入って歓声を上げている。二人とも、ウォークラリーの疲労がたまっているようで、そのままテントに寝転がっているようだ。

 それを見ながら俺は近くにある大きな石を拾ってきて、かまどの準備に入った。
 ここのキャンプ場は直火OKなので、それぞれの班でそれぞれがカレーを作ることになっているのだ。
 荷物から自分の折りたたみの椅子を取り出してテントの前に置いた時、遠藤さんが一人でやってきた。

「どうした?」
ときくと、テントがうまく立てられないらしく手伝って欲しいとのこと。
「お~い! 鈴木。長岡。女子がテント立てる手伝いしてってさ」
と言うと、テントの中から力ない声で返事が返ってくる。
「う、う~ん。疲れた」「わ、わかった」
 たよりない返事に、こりゃだめだと俺はため息をついて、
「じゃ、俺行ってくるから」
と言って、遠藤さんと一緒に女子の区画に向かった。
 行ってみると、周りの女子達も四苦八苦しているようだった。

 俺は、てきぱきとポールにテントを通して、フライを重ね、一つずつポールを立てると片岡さんと遠藤さんにしっかり持っててとお願いした。
 ペグハンマーを手に、ロープを張ってテントを固定していくと、次第に三角テントが完成していった。
 最後にフライシートと本体の空間、そして、各ロープの張り具合を確認して完成する。
「よし。これで完成だ」
と言うと、女子たちが歓声を上げた。
「できた! さすが夏樹君ね」「やったね」
と、俺に礼を言ってテントに入っていった。最後に春香が、
「ありがとうね」
と言うので、だまってその頭を撫でる。
「じゃ、先に戻って火の準備してるから」
と、先に自分たちのテントへ戻った。

 テントに戻ると、まだ二人はテントの中でごろごろしていた。
「戻ったよ」と声を掛けるが、どうにもまだ元気が出ないらしい。……これは早めに何とかしないと本格的に熱中症になるかもしれない。
 俺は火の準備をすることを伝えて事務所棟に向かった。
 そこでかまどに使う(まき)と杉っぱをもらい、戻ってくる途中で水場によりペットボトルに新しい水を入れた。ついでにバケツに水を汲んで、転ばないように気をつけながら戻る。
 薪と杉っぱ、バケツをかまどのそばに置いて、自分のリュックから塩を取り出すとペットボトルに入れてシェイクする。
 テントに行き、
「二人とも大丈夫か?」
ときくと、鈴木も長岡も「だるい」というので強引に塩水を飲ませた。これでだいぶ楽になるはずだ。二人にはまだ休んでおくように言っておく。……これで駄目なら保健の先生に来てもらうしかないなと、少し不安になった。

 片岡さんがやってきて、すでに水場でカレーの野菜を洗ったりカットする作業に入っているとのことだ。
 俺が「こっちは火の準備をしておく」というと、片岡さんは水場へ戻っていった。
 俺は、大きめの石と木の枝を拾ってきて、かまどの前にしゃがみ込んだ。
 薪の束を解いて細身のものを選別し、まずは杉っぱをかまどに入れる。
 ライターで火をつけるとすぐにメラメラと燃えだしたので、拾ってきた枝をポンポンとかぶせていき、枝に火が燃え移った頃に細身の薪を3本ほど投入した。
 空気を送りながら、順調に火がついているのを見て、太めの薪をかまどに立てかけて湿気を飛ばす。
 その時に片岡さんが網を持ってやってきたので、それをかまどの上に固定した。

「もうすぐで野菜を切り終わるから、飯ごうと鍋と一緒に持ってくるね」
といって片岡さんが水場に戻っていった。
 俺は急いでテーブルを作るべく木の枝を並べ、その上に筋交いになるように2本の木の枝を置き紐で固定する。少し手で力を加えてみて大丈夫そうだと確認し並べた大きな石の上に置いて、即席のテーブルの完成だ。
「強度的に不安はあるけどな」
 そうつぶやいて、再びかまどの前に座って火の様子を見る。
「お待たせ~」
春香がそう言いつつ飯ごうを持ってきた。遠藤さんはお鍋を持ち、片岡さんは切り分けた食材を入れたトートバックを持ってきている。
 三人ともお手製のテーブルを見て目を輝かせている。
「おお! なんかサバイバルみたい!」
 俺は、飯ごうなどをとりあえずテーブルの上に置いてもらった。
 問題はみんなの座るイスがないってことだ。石を拾ってきてもいいけど……、
「悪いけど、遠藤さんと片岡さんは自分たちの座る椅子を持ってきてくれない?」
とお願いすると、遠藤さんが、
「わかったわ。春香の分も持ってくるよ。……春香、カレーを先に作ってて」
と言って片岡さんと歩いて行ってくれた。

 春香が腕まくりをするまねをして、
「良し! じゃ、夏樹。悪いけどお鍋を網において」
と言うので、俺は指示通りに鍋を網に載せ、春香と場所を交替した。
 春香が、
「サラダ油。……はい。タマネギ。……はい」
と言うので、テーブルの上から言われたものを手渡してやる。
 鍋を熱してサラダ油を引いてタマネギを炒める。ジュッという音が聞こえる。
 春香が鍋を見ながら、
「う~ん。ちょっと火が強いよ」
と言う。俺は「ちょっとまってろ」と言って、木の枝で燃えている薪をばらして火力を抑える。
「うん。それくらいでいいよ」
 春香がそう言いながら、ヘラでタマネギを炒めてる。
「ふんふんふ~ん」と春香が鼻歌を歌い始めた。機嫌良さそうな春香を見ながら、俺は注意深く火の様子を見続けた。
 片岡さんと遠藤さんが戻ってくる頃に、ようやく鈴木と長岡も出てきた。
「お! 二人とも、もう大丈夫か?」
と声をかけると、二人とも「ああ」「悪い」とか言ってるので、ゆっくりイスに座って水でも飲んでろと言っておいた。

 春香の作っているカレーは、すでに肉、ジャガイモ、にんじんを炒め終えて水を投入している。
 そのタイミングで薪をくべて火力を強め、網の端っこの方に2つの飯ごうを載せた。

 カレー鍋が沸騰してきたので春香がアクをすくい取り、ルウの元をポンポンと入れてかき混ぜる。
「夏樹。ちょっと火を弱めて」
と言うので、薪の位置を調整して飯ごうの方に当たるようにする。
 だんだんとカレーの良い香りが漂い始め、しばらくすると飯ごうも吹いてきた。

「もうちょっとだね」
「お米はあと15分くらいかな? カレーの方は?」
「こっちもそれくらい」
 飯ごうのふくのが収まってきたので、ひっくり返して蒸らしに入る。

 俺は、春香の作っているカレー鍋をのぞき込んで、
「良い感じだな。うまそうだ」
と言うと、春香がにひひと笑い、
「でしょ? これは期待できそうだね」
と言う。ふとテーブルの方を見ると残りの四人で話し込んでいたので、
「そろそろできるから、そっちの準備してくれ」
と声を掛けると、遠藤さんと片岡さんが慌てて紙のお皿とスプーンの用意を始めた。

 飯ごうを蒸らすこと10分。もう充分だろう。
 春香と俺は目を合わせて頷いた。
「完成よ」「完成だ」
といって二人でみんなの方を振り向くと、みんながパチパチパチ……と手を叩いた。

 鈴木が、
「お前らがつきあってんのは知ってたけど、夫婦の食卓にお呼ばれしているみたいだな」
と言うと、遠藤さんも「本当ね。慣れてるって感じ」と言った。
 片岡さんが、
「小学校の頃からこんな感じだったのよねぇ。うらやましいな」
と言い、長岡も「確かに」と言葉少なめにつぶやいていた。

 春香が「え? え?」と言っているのをスルーして、俺は飯ごうのご飯を紙皿に盛りつける。
 そのお皿に春香がカレールウをかけて、一人一人に渡した。

「「「いただきまーす」」」

 うん! うまい! お米の炊き具合も丁度いい。
 春香と目を合わせてうなづく。
「旨い!」「お米もおいしい!」
 林に囲まれたキャンプで食べるカレーに、俺たちは昼間の疲れも忘れて、機嫌良くおしゃべりをしながら食べていた。

 ふと他の班を見ると、カレーに失敗したのだろう班がどよ~んとした様子で食べていたり、火が強すぎたのだろうか、「お米が焦げてる!」という叫び声が聞こえたりしている。

 先生が写真を撮りながら見て回ってきた。
「ん~。いい匂い。……ここの班は上手にできたみたいね?」
と言った。みんなでピースする写真を撮って貰った後で、先生が「ひと口ちょうだい」というので春香がカレーを分けてあげた。
「うん。おいしい。誰が作ったの?」
と言うと片岡さんが、
「カレーは春香ちゃんでお米は夏樹君です」
と言った。鈴木が笑いながら「夏樹夫妻の力作です」というと他のみんなも笑った。
 先生は微妙な笑顔で、
「ふうん。夏樹夫妻とな?」
と言うので、春香が赤くなってアワワと言い出した。それを見て、先生が吹き出して「まあまあ」とか言いながらお隣へと歩いて行った。

 夕食後、班長は集合となったので鈴木が事務所棟へと向かった。暗くなっているがキャンプ場には所々に電灯がついていて、歩くのに苦労するほどではない。

 俺はかまどに砂をかけて火を消して、念のためしばらくイスに座って様子を見る。……パーコレーターとかあればコーヒーも入れられるが、さすがにそれは持ってきてはいない。
 女子は順番にシャワーを浴びるってことで、順番が来るまではテーブルを囲んでおしゃべりをしていた。
「あ~あ。それにしても今日は疲れたわ」
遠藤さんがそういうと長岡が、
「ホントだよ。……一体だれだよ、ウォークラリーなんて考えた奴は」
とぼやく。珍しく片岡さんも
「ホントにね。あれはきつかった」
と愚痴を言っている。春香も左足を気にしながら、
「靴ずれしちゃうし、どうなるかと思ったわ」
と言うが、すぐに遠藤さんが、
「あなたには夏樹君がいるから心配ないじゃん」
と突っ込まれていた。春香が「そうだけど」とつぶやくと、遠藤さんと片岡さんが「はあぁぁ」とため息をついた。
 片岡さんが、俺に、
「それにしても夏樹君は、こういう野外活動にすごい慣れている感じがするね」
「あはは。知識だけだよ、知識だけね。そんなにたいしたもんじゃないさ」
「ふうん。でも夏樹君ならどこでも生きてけそうね」

 それは買いかぶりだよ。道具とかあれば、ある程度の長い期間は大丈夫だろうけどね。

と、その時、鈴木が戻ってきた。
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登場人物紹介

夏樹。『君と歩く永遠の旅』シリーズ、「時をこえて、愛する君のもとへ」主人公。

後に考古学者となる。チベットの某聖域で霊水アムリタの力によって神格を得て、時間を遡行して幼なじみの春香のもとへと――。

春香。『君と歩く永遠の旅』シリーズ主人公。「時をこえて、愛する君のもとへ」ヒロイン。

夏樹の幼なじみ。互いに好意を持っていたけれど、意気地がなくて告白できずに宙ぶらりんの関係のままだった。父親を亡くして悲惨な運命のうちに命を落とすも、霊水を飲んだ夏樹が時間遡行して――。

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