5日目
文字数 438文字
今日を含めて、僕の時間はあと三日。不思議なくらい心が穏やかで、こんなにも潔く諦められるものかと清々しい気持ちでいる。他人が聞いたら、説教に加え熱い拳も飛んでくるかもしれないけれど。
自分の時間は有限であると気づいた時、腹が決まった。あとはやりたいことを、やるだけだ。
その日は三日月の綺麗な夜だった。なんとなく風を求めて部屋を出る。夜風にあたりながら、適当に彷徨う深夜二時。寝静まった街に、僕ら以外のひと気はない。
ふと前方の物陰で小さな何かが動くのを視認する。歩みを止めず動向を窺っていると、それは猫だった。漆黒の毛並みに、紅い首輪。物怖じせずこちらにやってきて、僕の足元に体を寄せて鳴いた。膝を追って手を伸ばすと躊躇なく懐に入ってきて、大人しく抱かれ、僕の胸元にじんわりと温もりを広げた。
「ねえ。今どんな表情をしているか、自分でわかるかい?」
「……さあ。この子もひとりで可哀想だなっていう哀れみでも出ていましたか」
「いいや」
彼は猫ごと僕を包み込んだ。
「命を慈しむ目をしているよ」
自分の時間は有限であると気づいた時、腹が決まった。あとはやりたいことを、やるだけだ。
その日は三日月の綺麗な夜だった。なんとなく風を求めて部屋を出る。夜風にあたりながら、適当に彷徨う深夜二時。寝静まった街に、僕ら以外のひと気はない。
ふと前方の物陰で小さな何かが動くのを視認する。歩みを止めず動向を窺っていると、それは猫だった。漆黒の毛並みに、紅い首輪。物怖じせずこちらにやってきて、僕の足元に体を寄せて鳴いた。膝を追って手を伸ばすと躊躇なく懐に入ってきて、大人しく抱かれ、僕の胸元にじんわりと温もりを広げた。
「ねえ。今どんな表情をしているか、自分でわかるかい?」
「……さあ。この子もひとりで可哀想だなっていう哀れみでも出ていましたか」
「いいや」
彼は猫ごと僕を包み込んだ。
「命を慈しむ目をしているよ」