◆01それは心に起こる-Ⅰ 裁かれる女
文字数 1,459文字
男の手が体を
あと少しの
夜が明ける前に男は帰る。それまでは、みすぼらしい天井を眺め、前金で受け取ったわずかな対価の使い道を考えよう。
まずは麦。
七日におよぶ仮庵祭の間もずっと一人で薄い
わたしのことなどまるで
男は熱い息を吐き、また体をのせてきた。
律法に反するのは知っている。でもほかに、どうやって生きろというの。
幼い頃わたしの親を殺した強盗は?
助ける顔で体を売らせ、上前をはねた老女はどうなの?
なぜ彼らは罰せられないの。
わたしだって一応は、まともに働こうとしたんです。刈り入れの手伝いや、家事の下働きでもさせてほしいと、何軒も訪ねて回りましたよ。だけど、夫のある女は
どうかあなた、教えてください。わたしはどうしたらよかったの。
いけない。
男の前で涙を見せたら、余計に見下されるだけだ。
この男が再び果てて帰ったら、壁に印を一つつける。それまでは泣いてはいけない。
百か、二百か、壁に刻まれた
今までにした恋の数、一本のアーモンドの木に咲く花の数、かなわなかった夢の数。都度、適当に答えるけれど本当は、流れついたこの空き家でわたしを買った男の数、わたしの犯した罪の数。
男はもうじき果てるだろう。
そのときだった。
腐りかけた板の扉が乱暴に開き、誰かが家に入ってきた。
一人ではない。二人、三人。
わたしを買った男は跳ね起き、素早く自分の衣を拾って逃げた。四角い尻が、一瞬、灯火に浮き上がり、外の闇に消えていく。
わたしは湿った寝床で半身を起こし、薄汚れたウールの上着で肌を隠した。
「女。
ランプを持った男が言った。見たところ、神殿の下役たちだ。
わたしはため息をつき、ほつれた
外に出ると、朝の光が差していた。
見上げれば、街並みの向こうに神殿の丘がかすんでいる。てっぺんに白い巨大な壁がそびえ立ち、明けた空に映えている。あそこへ引っ立てられて裁かれる。そう思ったらほっとした。
富める者もわたしも同じ。みんな同じだ。
怖い?
そう、怖いけど、怖い以上にほっとする。
陰府にはわたしを
そうでしょう、あなた。