Aの補足 文字数足りない

文字数 3,963文字

「まともに、動かせるのは1隻だけか。」
これからこなす難行を思うとラッセルの気分は
強烈に重かった。新しい船の名前は決めた。

 とりあえず、ハルバリア王ウルージに謁見だ。

 「共にキリスト教徒から逃げてきた者ではありませんか!」
グラツィアは誇り高きバルバリア王に侮辱とも取れる言葉を叫んでいた。

 ラッセルは内心(あちゃー)などと思いつつ、グラツィアの発言を聞いていた。

 彼らは、いちおう海賊。だが国王でもある。
ウルージ王とその弟 赤ひげハイレディンだ。

 「逃げてきただと、ふざけるな!」
ウルージ王は激昂して怒り狂いながら、吐き棄てた。
女で無ければ確実に殺されていただろう。

 それをなだめる温厚な弟ハイレディン。
そのグラツィアが誰か紹介したい人がいる、らしい。

 「こちらは、イングランドのジョンラッセル殿です。」
ラッセルはヴァチカンの高速艇に振り回され、
情報戦で敗北している、イスラムを知っていた。
グラツィアのおかげで、命をかけた芝居を打つ必要が
ありそうだ。(あー怒ってるよ)

 「失礼だが、貴殿、身分は?」
かつては平民の貿易商だったが、今騎士だ。
しかし、元平民の騎士だと明かすと、
ウルージは怒髪天を突く勢いで暴れだした。

 「なめられたものだ。海賊とそしられようと
オスマン帝国の要衝アルジェを治めるバルバリア王に
イングランドは、一介の騎士を使節として送るのか!」
周囲のいかにもと言う古強者の船乗りがウルージを押さえ込む。

 王弟ハイレディンがあわててウルージに報告する。
「しかし、スレイマン大帝の書状、侍従医ハモンの推薦もあります。
ハモン殿のは懇願と言っても良いでしょう。しかもかのスィナン・パシャは
彼女の家来です。」

 ウルージの意志ははっきりしている。
「それがどうした!それはグラツィア女史にであって、
この騎士殿とは無関係だ。」

 落ち着きを取り戻したウルージは礼を失せぬ程度に
平民騎士ジョン・ラッセルを軽蔑していた。
イングランドはなんと言う失礼な国家だ。
国王は逝かれ野郎か。

 すると、不敵にもラッセルは笑い出した。
「ふっ、巷では噂になっておりますぞ。
ヴァチカンのスパイ船に振り回され、
海賊行為もままならぬとか、船は不足している。
私は必要でしょう。」

 さすがのウルージも、騎士ラッセルが生命を賭している事は分った。
だから男として挑発に乗ってやることにした。
「ふん、無礼な奴だ。貴殿に高速情報艇の拿捕ができると言うのだな。
言って置くが、1度失敗すれば、その命貰い受ける。」

 「いいでしょう。あなた方の協力があれが今すぐに可能です。
あいにく私の船は1隻でね。恐怖で支配し使役するガレー船の時代は
終わりです。それでは真のチームは生まれない。」

 「兄じゃ、協力は俺がしよう。」

 「分った、お前が行け。」

 「だが、これは海の男としてではなく、王としての疑問だ。
なぜ同じキリスト教徒が、我々ムスリムに協力する?」

 「疑問はごもっともです。陛下。」
ラッセルとしてもこれを説明できねば、
協力どころの話では治まらないだろう。

 「イングランドはトルデシャリスの枠から締め出されました。
これは海洋国家にとって致命的、しかもイスパニアはベルナンブコで
銀を、ポルトガルはケープで金を発見した。」
ラッセルは続けた。

 「今までは、教会が金を管理し、純度が変わらないため、
安定しており強かったのです。地方領主が銀を扱い、含有量をごまかして
流通させ、庶民も銀で商業取引をしている。生活の基盤である銀が
大量に持ち込まれ暴落すれば、すさまじい、物価の高騰です。」

 「ここからはグラツィア女史からの知識でもあるのですが、
フッガー家はいくつかのキリスト教領主を教皇庁から離反させようとしている。
彼らの目的は金の流入による金の暴落です。大航海時代にレコンキスタ、
目的はご存知ですか?」

 「いや、知らん。」
ウルージは荒くれ男の欠片もない態度、
完全に、オスマン帝国のバルバリア王という立場で聞いている。

 では、

 「イスラムの握るアジア、アフリカの交易ルートを無視し、無力化すること
そして、ヴァチカンの威信回復のため、再度エルサレムの奪還を図ることです。
バルバリア王国にはイスパニアの銀を沈めて頂きたい。」

 「不可能だ。航路の特定が出来なければどうしようもない。」
ウルージは苦しげに言った。

 「いえ、ヨーロッパの陸路は自殺行為、セウタ海峡を押さえればいい。
地中海に持ち込ませなければ決定打とはなりえない。」

 ウルージは感心しながら言った。
「ムムム、正論だ。」

 それから、グラツィアとラッセルは歓待を受けた。
ラッセルはイスラム教徒は酒は飲まないと知識として知っていたが
海賊は飲むようだ。頭の隅にメモしておいた。
(まあ、酒を飲めば、口が軽くなるからな。
単なる歓待というわけではないだろう。)

 ウルージのガレー船は浅瀬で待機していた。
「ハイレディン提督、本当に高速艇は浅瀬に来るんですかい?」
副官の船乗りが言った。

 「信じるしかあるまい。」
ハイレディンは答えた。ラッセルの命がかかっているのだ。
彼の行くその道の先を見てみたい、そう思える人物だ。
ラッセルの幸運を信じるしかないだろう。



==第5話==(戦闘シーンなので短め)
 ヴァチカン高速艇は何の警戒もせず、航行していた。
風下に巨大な船影があることも気がつかないほどに
油断していた.

 「伝令、風下に船影。」

 「例のバルバリア海賊か。」
船長が尋ねた。
「いえ、大型帆船です。船名ミドルトン号。」
「確か、英語で、ぱっとしない と言う意味か?聞かない名だな。」
船員達はその意味を知ると笑い出した。
だが、見張りは違った。
「速い、航路に入ってきます。」
見張りが報告するよりも速い速度でラッセルは行動を起こしていた。

 「ダッキング航法です。」
 「何だと、あれは100人近い人間がひとつになってできる
高度な技術、バルバリア海賊などではない、おそらく列強の正規海軍だ!」

 「逃げるにも逃げられません。交戦許可を!」

 ミドルトン号艦上
 「ヤード引き込み面舵いっぱい、船首風上ヨーソロー。」
 「おうっ、ヤード戻せ。」

 「敵、ミッシングステー。」

 ラッセルは勝ちを確信した。
 「葡萄弾、水平射撃、カルバリン右舷全門撃てっ!」
 「直撃8 至近弾3」
 「敵反撃ありません。」

 ヴァチカン高速艇

 「船員を狙っているぞ。糞ッ高威力のカノン砲は上にしか撃てない。
やられた、失策だ、逃げるぞ。
幸い敵喫水線は深い、浅瀬に逃げ込め。」

 (大航海時代の大砲は砲撃すると反動で
大砲が船に突っ込んできて壊れたり、
人が挟まれたり潰されて死ぬので、
簡単に撃てるものではないのです。)

 「提督、す、すぐそばに ガレー船、接舷されます。」
高速艇は複数の乗員を含め拿捕された。

 ハイレディンは、ラッセルのミドルトン号に向け、力強く手を振った。
「まさか、本当に浅瀬に追い込むとはな。末恐ろしい。」

 アルジェに帰還した、ラッセルとハイレディンはお互いの肩をたたきあった。
ヴァチカンの情報艇の乗員を尋問した結果、有益な情報が得られた。
それにこれで海賊業を再開できる。兄じゃの機嫌も直るだろう。

 「ラッセル殿、私の使役しているキリスト教徒の奴隷で
気に入った奴がいれば、乗組員として連れて行ってもいいぞ、
ガレー船とはいえ熟練の奴らだ。役に立つだろう。」
ハイレディンは大声で笑った。

 「感謝する。」
ラッセルはそう言うと船員のスカウトに向かった。

 提督!そう言うと副官がハイレディンに耳打ちした。
「この船の情報を持っていけば、ラッセル殿をスレイマン大帝に
認めさせうるかも知れんな。たいした御仁だ。」

 グラツィアは、ハモンに向けて、手紙を書いていた。

 「大帝陛下、グラツィア・ナスィより書状です。」
ハモンが手紙を差し出す。

 「なぜ、イブラヒムのいるところで?」
 疑問に思ったが手紙を開く。

 「血か、血をインクとしているのか。」

 サドラザムのイブラヒム
「ユダヤ人が血のインクとは、我々を侮辱しているのか!」

 「お待ちください!」
スィナンはハモンに指示されたものを持って
声を上げた。

 「何だ、申せ、スィナン。」

 「これは、我がイスラムに逃れてきた者たちから受け取ったものです。
血の書状、ここにあるだけで300枚以上、わずか6年の間にです。
おそらく、まだ幼い頃から。」

 スレイマン大帝は少し考え込み、発言した。
「わかった、イングランドへの支援、前向きに考えよう。」

 大公イブラヒムはヴァチカンとつながっていた。
悪い予感はしたが言うしかなかった。
「ヴェネチアとの同盟はどうなされるのですか?」

 大帝は宣告した。
「インド航路の発見、我は与り知らぬ。
ヴェネチアは知っていて隠した、裏切りだ。
貴様、生きておられると思うなよ。」

 「ひぃっ。」
そう言うとイブラヒムは腰を抜かして倒れ込んだ。

 「我は思う、この血の書状の重みに嘘はないとな。」

 これにより、オスマン帝国とイングランドの同盟は成った。

 稀代の海賊にしてオスマン海軍創設者ハイレディンと、
イングランド救国の英雄ジョンラッセル、
そして、ティベリアの乙女グラツィアナスィのお話です。











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