第66話 2ヶ月と3日目 7月28日(火)

文字数 578文字

 敢えて今日は遠い所にバイトを入れた。
 しかも単純な肉体労働の仕事を。
 何故なら一日中あることを自身の脳に刷り込みたかったからだ。
 そう昨日から懸案の、競馬やパチンコをすると「必ず負けて金を取られるから怖い」、と、
言う恐怖心を繰り返し胸中で呟くことだ。
 そして恐怖心を植え付けて狂った自分の脳を騙すのである。
 狂った脳は治せないが、騙すことは出来る。
 理論上可能な試みだと思う。
 初めての試みで効果の程は明日にならないと分からないのだが、何か今からドキドキする。
 この気持ちは何なんだろうか。
 馬券を買ってゴール前を迎えたり、パチンコで当たるかどうかを見ているときとは全く違う感覚で、競馬やパチンコのドキドキを負のドキドキとするならば、これは正のドキドキだ。
 言うならばこれで競馬やパチンコと決別出来るかも知れない、人生を取り戻せるかも知れないドキドキなのだ。
 何故今迄こうした機会に恵まれなかったのだろう、と、後悔頻りだ。
 でも今考えるに「楽して金を稼ぎたい」と言う欲望が、恐怖心を凌いでいたように思う。
 やはり煩悩を捨て恐怖を感じなからも克服する。
 それか依存症の極意のように思う。
 何か宮本武蔵的な剣豪の境地のような。
 妙な気分である。
 今日の無事を感謝しつつ明日の無事も同時に確信する。
 今日からはそれで行く。
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