運命の女

文字数 1,594文字

……ミチル、先浴びていい?
いっしょに入る?
……ダメ。またエッチな気分になっちゃう。
じゃあどうぞ。
佳純は今日二度目のシャワーを浴び、俺も入れ替わりに汗を洗い流す。
佳純は俺の運命の女だ。ずっと探していたんだ。
彼女に告白された時、そう気づいた。
俺は占いが好きだ。
占いは後ろを振り返らない。常に前を見ている。
ウジウジせずに、深く考えずに、明るく人生を生きて行こうというメッセージだ。
物なんか捨てなくたって、本当は前を向いて生きていけるんだ。
……あ、ちょっとダメだな、まだ根に持ってるのか。反省。

忘れよう。
明日はラッキーデーって書いてあったしな。何があるのか楽しみだ。
俺は占いのそういう所が大好きなんだ。
だから、難しいのじゃなくて簡単な奴がいい。子供の頃だと動物占いとか信じてた。
もちろん今だって信じているし、さっきなんかも佳純に泣いて頼んで、ボロボロになるまで読み込んだ俺の人生の書を捨てるのを思いとどまらせた。
雑誌に載っているのとか、TVで朝にパッとやるのとか、そんな占いも凄く良い。直感的に今日どうすればいいのかを教えてくれる。
そして、そういうのを毎日毎日追っかけて見ていると、センザイ意識とか、シンソー心理とかに何かが貯まって来て、ある日お告げが訪れる。
ホントだよ。
大学だってそれで決めた。他にも色々。
――運命の女を求めよ、「黒き女」を。
いつだったか忘れたが、多分、中学くらいの時か、そんなお告げがあった。
だが、何が黒ければその女なのか全然わからなかった。
アソコなのか?
そう思った時もあった。
そういう女を探し回っていた時期もあった。
だから、佳純が告白してきたとき……。
そう、あの時も、俺は別のお告げを受けて物凄い努力をしていた所だった。色々と大変だった。
そんなとき、彼女に告られたのだ。
本当はそれどころじゃなかったんだ。
それに、それまで特定の誰かとそういう関係になったことのなかった俺としては、もし彼女と付き合うのなら、他の女の子たちとの交際がどうなるのかという懸念もあった。
いや、そんな大した数じゃないよ? いくらイケメンだからって、ヤリチンじゃないんだから、誤解しないでね。
具体的な人数はプライベートなので差し控えさせてもらうが、まあ、常識の範囲内の……とはいえ、数人の女の子と割り切った関係をしていたのだ。
だから、告白されたとき、俺は迷った。
けど、それまで彼女をジュンと呼んでいた俺に、彼女が「ちゃんと名前で呼んで」と言ったとき、俺は痺れた。
「佳純って呼ぶのよ……」
忘れられない。
まだ一週間前のことだからだけど。
いや、そうじゃない。俺は気づいたんだ。
イシガミカスミ。
そのとき、俺はたまたま彼女にしがみついているような体勢だった。(何をしていたのかは、プライベートなのでこれも差し控えさせてもらう)
佳純を取るか、それとも……という究極の選択を迫られたことにより、俺には佳純の本当の姿、俺との関係を抜いた、純粋な彼女だけの真実の姿に思いを馳せることになった。
「ジュン」ならぬ「イシガミカスミ」「シガミ」ついている俺。
つまり、イシガミカスミからシガミ(俺の部分)を抜くと……。
イカスミだ!
イカスミは黒い。黒い女だ。
はっきりとわかった。天啓のように閃いた。
佳純こそ、俺の運命の女だったんだ……!
つい最近のことなのに、もう遠い昔のことのように思える。思い出みたいだ。
さっきのエッチが良かったからかな。
そんな気分でシャワーを終えて浴室を出ると、俺の運命の女が微笑みを浮かべて待ち構えていた。
第二ラウンドよ……
そう言ってケータイを突きつける。女の子たちの名前がずらりと並んだ俺のアドレス帳を。
……これも断捨離するの。
失せ物注意。大切なものをなくさないように、白と紫の色の、小さなラッキーアイテムを身に着けよう。
(そういえば、ストライプの歯磨きチューブ……)
(風呂の中に持って入るのワスレテタ……)
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登場人物紹介

石神佳純(いしがみ・かすみ)
通称:ジュン

大学三年生。
彼氏ナシ。しかし……?

城戸充(きど・みちる)
通称:ミチル

佳純と同じゼミに在籍するイケメンプレイボーイ。
彼女ナシ。しかし……?

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