104 クラッキング

文字数 3,036文字



「ところで、その、さっきの殴りあいの件なんだけど、あれはちょっと訳ありっていうか、俺、どうしてもあいつを……だから分かってるとは思うけど、俺は別に死ににいこうとしてあんなことしてたんじゃなくて、それにそんなこと微塵も考えてなかったし、なのにどうして?、しかも二人で来ちゃってるし……」

「……ちなみにだけど、カーズにも最初研修みたいのがあって、その時は二人で行くし、他にも二人以上で出向く場合(ケース)もあって、例えば心中とか練炭なんかで集団……てか、なんか話が()れちゃった。別に私達はね、“ウンナナルーティーン”をまたRT

ーティーンさせに来たんじゃないよ、そもそも私達、仕事じゃなくて単純(シンプル)に“ナナルー”に会いに来ただけだから、そしたら偶然、さっきの場面に遭遇して……でさ、そん時のあれなんだとは思うけど、ナナルーの顔んとこに少し汚れみたいのついちゃってるから、私拭いてあげるよ」

 この時を以て、どうやら呼び名はナナルーで落ち着いたらしく、それを受けうな(ユ)は、“なんだかモンスターを討伐するゲームに出てくる、獣人みたいな呼び方だな、てか、まさかあのハンカチで拭くんじゃないだろうな、余計汚れるだろ”と心内にて気にしつつ、そんな心配をよそに、ハートのエースは変身バッグからポーチを取り出すと、その中からコットンやら何やらでうな(ユ)の顔を触り始め、それも束の間、うな(ユ)の顔のお手入れ?、は早々に完を迎えていた。

「ぁ、あの、しつこくてあれだけど、ありがとう、俺さ、このメイクっつうのがなかなか上達しなくて、自分だけだとうまく直せなかったよ、ほんと何から何まで……それで、ただ会いに来ただけだって言ってたけど、俺がRTLにいた頃のこと考えると、カーズがそういう行動とるのって規則違反とかになんないのかな?……まぁ、俺はもう会うことはないって思ってたから、久々二人に会えて、素直に嬉しいんだけどさ」

「……ちょっと大げさ、メイクもさ、汚れてんのをただ取っただけで、言うほどのことじゃないし……それと、確かに通常だったら規則違反かな、降格どころか契約満了突きつけられるかもね……はぁーあ、あのねナナルー、さっきお返しとかって言ってたけど、私はいいよ、ほんと何もいらない、でもラブえもんにはなんかあげたら?、どうせあいつ、女の子から何か貰ったことなんて一度もないだろうし、きっと喜ぶよ」

 そう返したあと、ハートのエースはほんの一瞬だけ笑顔を見せ、しかしすぐにまた神妙な面持ちへと顔つきを変えてしまい、その後も悄然(しょうぜん)としたままのハートのエースを見ながら、“そういえばハートのエースが今みたいに笑ってるとこって、あんま見たことなかったな、基本ふてくされてるし、でも折角可愛いんだから、普段からもっと笑えばいいのに”とうな(ユ)は思ったりとしつつ、そのまま癖にでもなったかのように眺め続け、一方、ハートのエースは此度も長らく見られていることに、“本当にただ会いに来ただけなんだけど、やっぱ説得力に欠けるよね”と、うな(ユ)とは少し違ったことを思い、そこで何かしら開き直ると再び話を始めていた。

「私が遠慮がちにしてるとナナルーも余計戸惑うみたいだし、私もこのまま黙っておくのも……さっきはさ、ナナルー大変だったけど、実はこっちもいろいろとあって大変っていうか……うちの会社でね、今ちょっとトラブルが起きちゃってて、ナナルーも覚えてるとは思うけど、RTLに連れてこられた人達ってスタディルームでの滞在期間が決まってるでしょ、それで、そのあとのことなんだけど、その三年を過ぎてしまった人達って、RTL内の様々な部署に振り分けられて働いてて、例えばリサーチルームでオペレーターやってたり、調理場で食事を作ったり、他には未成年者が受ける授業の講師とか、なるべくその人達が三年の間に学んだことを活かせるような所に配属するんだけど、まぁ悪い言い方しちゃうと、うちの会社に閉じ込めてそのまま働かせてるっていうか……それで、つい三日ほど前のことなんだけど、その人達の誰かが会社のシステムをクラッキングして、そしたら働いてる人達全員、自分達が寝泊りしてる部屋から出て()なくなっちゃって、同じように未成年者の人達やスタディルームの人達も閉じこもっちゃって、当然こっちがその扉を開けることも出来なくなってて、たぶんだけど、だいぶ前からかなりの人数で計画を進めてたんじゃないのかなって思うんだけど、で、その人達が、クラッキングしたシステムを利用して私達に連絡してきて、“自分達全員をこの施設から開放しないと、RTLの機密事項を世界中に公表する”って言い出して……そのあと、うちの社長はどうしたかっていうと、“解放なんて到底聞き入れられない、まぁ、君達にとってはその情報のみが唯一の頼みの綱、よって外へばらまくといったことも現時点では安易に行えないだろう、さて、ここからは互いに持久戦といこうか”って、なんかの台詞みたいに余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で皆に伝えて、そしたら閉じこもってる人達が案の定籠城し始めちゃって……私達は誰も働かなくなっちゃったから仕事になんないし、そもそもシステムが正常じゃないし、で、そのあとまた社長がさ、今度は軍隊みたいな人達をたくさん連れてきて、そしたら籠城してる人達に、“これより、ほんの僅かでも世間に情報漏洩が見受けられれば、あらゆる手段を以て制圧にかからせてもらう”ってもう滅茶苦茶なこと言い出しちゃって……それからはずっと膠着状態っていうか、籠城してる人達はそこまで想定してたのかは分かんないけど、自分の部屋から他の人達とも連絡を取れるようにしてたみたいで、食糧なんかも準備してて、ただ同じようにカーズの部屋でも食事は摂れたから助かったんだけど、それに私達の部屋は逆に扉のロックが掛かってなくて普通に出入りできたし、それであのゲストルームがあったでしょ、そこにカーズの皆が自然と集まって、今日の朝にはほとんど揃ってたかな、それで皆と今後のこととか話してたら、そん時私達の所に

って名乗る人が現れて、あ、うちの社長って私達(わたしら)ん中じゃジョーカーって呼ばれてて、で、その人なんだけど、よく見ると社長と顔が瓜二つでね、もしかしてクローン?、とか考えてたら、その人が何か話をしだして、どうやらその人がホログラムドアとかの開発者らしくて、でね、“会社のシステムは乗っ取られているが、ひとまず君達がホログラムドアを使えるよう、今からリカバリーするので、このままここで待機をしておくように”って言ったらすぐ出て行っちゃって……そん時にさ、私ラブジャン見かけて、それでなんていうか、

と最後に会った日のことを思い出して……そりゃ私は担当じゃなかったけど、なんかね、無性に会いたくなったっていうか、そしたらいきなりラブえもんが、“そんな浮かない顔して、らしくないな”って言ってきたから、“急に声掛けないでよっ!!、ビックリすんじゃんっ!!”てまず文句を言ってから、そのことを話してみたら、“俺が連れてってやろうか”って言い出して、ラブえもんって“頭文字RE(イニシャルリー)”っていう病気を患っててさ、それこそリカバリーやリホスト、リライトやリビルドってオチなんだけど、あ、一番肝心なリプレイス忘れてた……で、ゲストルームからとりあえず出て行って、そしたらまだドア使えないはずなのに本当に通路のとこでドア出しちゃって……」



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