2020年4月14日

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2020年4月14日
 昨日と打って変わって、朝から快晴で、気温も高い。

 イランの通信社『Pars Today』は、2020年4月12日20時36分更新「新型コロナ 世論調査;アメリカ人の3分の1が実験室由来と回答」において、新型コロナウイルスの犠牲者が米国でマイノリティに偏っていることにより陰謀論が信じられていると次のように伝えている。

アメリカを拠点とする調査会社・ピュー研究所が、先日行われた世論調査において、回答したアメリカ人のうち29%近くが新型コロナウイルスが実験室で発生した可能性が高いと考えているという結果が出たことを明らかにしました。
この報告によりますと、調査を受けた人のうち、43%は新型コロナウイルスが自然発生的に表れた、23%は「人為的に」実験室で作られた、また6%はおそらく「偶発的に」実験室で発生した、と答えています。
同研究所のホームページでは、回答者の中でも最終学歴が高校卒業である若年層において、ウイルスが実験室で発生したと考える割合が高いことが指摘されています。
この世論調査は、アフリカ系・ヒスパニック系のアメリカ人も高い割合で新型コロナウイルスが実験室で発生したと考えていることを示しています。調査結果は、ヒスパニック系では40%、アフリカ系では34%の人々が、この可能性を信じているとしました。

 感染者数がマイノリティに偏っているとしたら、それは経済状況や生活環境に起因するとして従来の政府の政策に問題があると改善を彼らが要求するならわかる。しかし、この事態を陰謀論で捉えることは健全な思考ではない。陰謀論が信じられるには背景がある。
ジェイムズ・ティリー(James Tilley)英オックスフォード大学政治学教授は『BBC NEWS JAPAN』2019年2月18日更新「陰謀論――なぜこれほど大勢が信じるのか(Why so many people believe conspiracy theories)」において陰謀論の心理学を解説している。

 『アメリカの陰謀論(American Conspiracy Theories)』の著者ジョー・ウシンスキー(Joe Uscinski)米マイアミ大学教授は、少なくとも100年前からつねに社会の背後で通奏低音のように陰謀論が響いていたと述べている。陰謀論は社会に無数にあるので、誰もが一つくらいは信じている。「誰でも少なくともひとつは、陰謀論を信じている。もしかするといくつかは信じているかもしれない」。「理由は簡単だ。世間には限りなく膨大な数の陰謀論が出回っている。その全てについて、信じているかどうかアンケートをすれば、誰でも『はい』と答えるものがいくつかあるはずだ」。

 実際、2015年に英ケンブリッジ大学の調査において、5つの陰謀論についてアンケートをとったところ、ほとんどのイギリス人がどれかについて「信じている」と答えている。ちなみに、それらは、「世界を支配する秘密結社が実は存在している」や「人類は実はすでに異星人と接触している」である。ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジジの心理学者クリス・フレンチ(Chris French)教授は「実際に人口統計データを見ると、陰謀論を信じる人というのは、社会的な階級や性別や年齢を問わず存在することが分かる」と言う。

 陰謀論を信じるかどうかにイデオロギー上の違いは認められない。世の中には自分を陥れようとする陰謀が存在すると信じる比率は左右共に変わらない。「陰謀論的な考え方をしやすいという意味では、右も左も変わらない」とウシンスキー教授は話す。「ブッシュがツインタワーを破壊したと信じる人はほとんどが民主党支持者で、オバマが出生証明書を偽装したと信じた人はほとんどが共和党支持者だった。その割合は、どちらの党もほぼ同じだった」。

 陰謀論に囚われる心理についてフレンチ教授は「自分たち人間は、物事にパターンや規則性を見出すのが得意だ。しかし時にそれをやりすぎて、特に意味も意義もないところに、意味や意義を見つけた気になってしまう」と説く。「それに加えて私たちは、何かが起きると、それは誰かや何かの意図があって起きたことだと、思い込みがちだ」。

 テイリ―教授はそれを次のように要約している。

要するに、何か大きな出来事があると私たちはそこにまつわる偶然に気づき、偶然ではなくこういうことなのだと物語を作ってしまう。その物語には「善玉」と「悪玉」が登場するので、物語は陰謀論となり、自分が気に入らないことは何もかもが悪者のせいだということになる。

 政治学者のラリー・バーテルス(Larry Bartels)米ヴァンダービルト大学教授は興味深い陰謀論を紹介している。教授によると、1916年にニュージャージー沖で人が相次ぎサメに襲われた事件の際に、陰謀論が広まる。これは映画『ジョーズ』の原案になったことで知られている。サメ襲撃の影響を最も受けた地域において、当時のウッドロー・ウィルソン大統領の支持率がかなり下落したと教授は言う。大統領がサメ対策を怠ったから事件が起きたというわけだ。しかし、映画『ジョーズ』でも描かれた通り、ビーチの人食いザメ対応は地方自治体に責任と権限が第一にあり、連邦政府ではない。「私たちは得てして、そうあってほしいと自分が望むことの裏づけになるように、何を信じるかを決めがちだからだ」と教授は指摘する。

 バーテルス教授の発言を引きつつ、テイリ―教授は陰謀論を受容する心理を次のように説明する。

「私たちは得てして、そうあってほしいと自分が望むことの裏づけになるように、何を信じるかを決めがちだからだ」とバーテルス教授は言う。
情報が増えても大して役には立たない。
「こうした偏見に最も影響を受けやすいのは、最も情報に注意している人たちだ」
ほとんどの人にとって、政治に関する事実関係を正確に把握する必要などないのだ。自分の1票は政府の政策を変えたりしないので。
「政治についてたとえ自分の考えが間違っていても、自分は困らないからだ」とバーテルス教授は言う。
「ウィルソン大統領はサメ襲撃を防止できるはずだったのにと思うことで、自分は楽になる。とすると、そんなことはなく自分が間違っていたとしても、自分の思い違いで自分が受けるダメージよりも、ウィルソンのせいだと思うことで得られる心理的満足感の方が、かなり大きいというわけだ」
結局のところ、私たちは事実に照らして正確でいたいのではなく、私たちは楽になりたい、安心したいのだ。
だからこそ、個別の陰謀論は生まれては消えていくものの、陰謀論そのものは私たちが政治を語る上で決してなくならない。

 新型コロナウイルスをめぐる陰謀論にも同様の背景がある。「事実に照らして正確でいたいのではなく」、それを信じることで「楽になりたい、安心したい」。社会における諸問題は原因が複雑で、それに関連する構造を明らかにすることしかできない。そのような曖昧な説明では安心感は得られない。一方、陰謀論は原因を明確に示してくれるので、なぜという問いの探求を進める必要がない。ただ、陰謀論は善悪二元論の構造をしている。だから、それは分断された社会の下で、特に人の心を虜にしやすいのだろう。

 夕食には、回鍋肉、豆腐とニンジンの中華スープ、豆と野菜のサラダ、食後は紅茶、干し柿。屋内ウォーキングは10124歩。都内の新規陽性者数は161人。

参照文献
ジェイムズ・ティリー、「陰謀論――なぜこれほど大勢が信じるのか」、『BBC NEWS JAPAN』、2019年2月18日更新
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-47275005#
「新型コロナ 世論調査;アメリカ人の3分の1が実験室由来と回答」、『Pars Today』、2020年4月12日20時36分更新
https://parstoday.com/ja/news/world-i60707

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