第19話「10本全部折られる所まで行ったら、もう折られる方が悪いと思うっす」
文字数 2,796文字
~前回からのあらすじ~
ついにギルドのリーダーと1対1で話す機会を得た山田。
和解交渉のはずだが、山田の態度次第では一触即発の事態も。
果たして交渉の行く末やいかに。
ふーん。そうかそうか。
1年と少し経っても活版屋の小僧みたいな顔しとんなお前
それで、交渉をしに来たとか言っていたな。
ギルドに歯向かうような行動を取っておきながら
対等な立場でいるつもりなのか?
対等とか思ってへんよ。どう考えたってウチの方が上やから
相変わらず不遜な物言いだな。
ここにはギルドの精鋭が集まっていることを忘れたのか?
言い方を考えろ。さもなくばアナグレタがお前の仲間を始末するぞ
(アナグレタ……ああ、暗殺者のお姉ちゃんのことね)
カイカやったらそう簡単には死なへんよ。
ってか、前に会った時の事をよう考えてから喋ったほうがええで。
お前はウチに借りがあるやろ。親を助けてもらった借りが
借りがあるのは個人としてだ。今のお前は罪人。
私はギルドのリーダーとして……
個人は関係ないんやったら私怨でガタガタ突っ込んでくるのやめぇや!
言葉遣いとかそういう話をしにきたんちゃうねん!
んな事いまどうでもええやろ! シバくぞ!
アナグレタの報告によると免罪に値する物を持ってきたそうだな。
本来なら免罪など考えないが、状況を考え話を聞こう
そう。これあげるから、追いかけてくんのはやめぇって話
(やあ。ぼく魔導書!
ククク、再び舞い戻ってきたぞ! ただの本が3度に渡る出演!
やがてレギュラーの座を奪い、ゆくゆくは主役になってくれるわ!)
その本にどんな価値がある?
よほどの物でない限り免罪はあり得ないぞ
なんでウチがあのお姉ちゃんに本の価値を言わんかったかで分からん?
この本がお前の手元に行くって誰かにバレたら、お前が困るからやで
この本、背表紙に著者が書いてへんやろ。それで著者が分からん?
そう。ウチの師匠や。名前忘れてるから、本に名前も書かんかった。
で、この魔導書は師匠の研究がズラリと並んどる。
これを全部理解して、かつ使えるようになれば最強クラスの魔法使いや
で、それを仲間にも教えたったら、強力な軍隊ができるやろうな。
国を動かせんで。まあ、使いこなせたらの話やけど。
……こんなん誰かに知られたらマズいやろ? ウチに感謝してや
これをお前にやるわ。その代わりウチとカイカを見逃す。
それで終わり。受ける? 受けへん? 選びや
ふふん。何が? 本を渡すだけやったら割に合わんとか言う?
分かりきったことを言うな。
魔導書の価値が高すぎる。お前たちを見逃すだけでは割に合わん
ふっふっふ。よう分かってるやん。
たしかにこの内容やったら高すぎるよなあ
そう。
この本は全部暗号で書かれとる。これを解こうと思ったら長い時間がかかるし、解ける保証もない。
いわば半分不良品やからこの値段って訳や
なるほどな。たしかにエアクオウの暗号なら難解だろう
どうしても言うんやったらウチが解き方を教えたってもええんやで?
ヨミドじゃ解かれへんかもしれんしなあ
どうせギルドのリーダーで終わるつもりもないんやろ。
より上を目指すためにはこの魔導書、喉から手が出るほど欲しいはず。
ウチを見逃して師匠の魔導書が手に入るんやったらこの取引安すぎよ
ウチが嫌いやとか、リーダーとしての体面とか、ギルドの掟とか。
そういうのに縛られるか、お前にとって必要なこれを得るか。2つに1つ
……エアクオウにこの本を渡す許可は取ってあるのか?
もう行っていい? 交渉は終わったやろ。
別にお前とお喋りしたい訳ちゃうねん
……好きにしろ。だが、出る時は左手を上げながら出ろ
おー怖い怖い。ウチが出た時に左手上げてへんかったら始末するように
あのお姉ちゃんに言い含めとんのやろ? 交渉失敗の合図として
お前に仕事の相談がある。高い戦闘能力がないと任せられん仕事だ。
もし成功すれば、高い報酬を用意する
それはまだ確定していないが、数年は食う物に困らない程度にはある
それって急ぐん? ウチ、1回師匠んトコ行かなアカンねん
早めに解決したい仕事だが、今すぐという訳ではない。
数日考える時間くらいは与えてもいい
師匠な、お前のこと全然覚えてへんかったで。可哀想やな!
ほなな~(バタン)
せやで。これでウチらはお咎めなし、晴れて自由の身や
ちゃうちゃう。もっとこうよーしよしよしよし! って
やんねーよ。なんで本当に犬を褒める要領で褒めさせようとしてんだ
お2人がお許しを受けて何よりっす。
今後は自分のターゲットになるようなことはしないで欲しいっすよ
とか言って、ウチと本気で戦いたいとか思ってんのちゃうん
そうか。で、カイカは色仕掛けとどれくらい戦ったん?
折ってないっすよ!?10本全部折られる所まで行ったら、もう折られる方が悪いと思うっす
はっはっは! んじゃ、そろそろお暇するわ。
お姉ちゃんも元気でやりや。暗殺者やから無理かもしれんけど
最後まで冗談がキツいっすね。そっちも元気でやるっすよ
1つ聞きたいことがあるんだよ。
あの魔導書は凶悪な魔法もあるって言ってたよな
それを悪用されないように、
うまく切り抜ける方法があるとも言ってたよな。
その方法が何なのか教えてくれよ
おーおーおー。そういえば言うてなかったな。そら気になるわ。
ええで。教えたるよ
なんだかんだ交渉は成立し、晴れて自由の身となった山田とカイカ。
「悪用をどう避けるのか」というカイカの疑問は次回に持ち越し。
暗号で書かれているようだが、山田の様子から察するにまだ何かあるようだ。
次回、とりあえずの最終話。ちなみに魔導書はもう出番がない。
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