第19話「10本全部折られる所まで行ったら、もう折られる方が悪いと思うっす」

文字数 2,796文字

~前回からのあらすじ~

ついにギルドのリーダーと1対1で話す機会を得た山田。

和解交渉のはずだが、山田の態度次第では一触即発の事態も。

果たして交渉の行く末やいかに。

(バタン)……
1年と3ヶ月と21日ぶりか。ヨミド




……そのようだな
ふーん。そうかそうか。

1年と少し経っても活版屋の小僧みたいな顔しとんなお前

それで、交渉をしに来たとか言っていたな。

ギルドに歯向かうような行動を取っておきながら

対等な立場でいるつもりなのか?

対等とか思ってへんよ。どう考えたってウチの方が上やから
相変わらず不遜な物言いだな。

ここにはギルドの精鋭が集まっていることを忘れたのか?

言い方を考えろ。さもなくばアナグレタがお前の仲間を始末するぞ

(アナグレタ……ああ、暗殺者のお姉ちゃんのことね)
カイカやったらそう簡単には死なへんよ。

ってか、前に会った時の事をよう考えてから喋ったほうがええで。

お前はウチに借りがあるやろ。親を助けてもらった借りが

借りがあるのは個人としてだ。今のお前は罪人。

私はギルドのリーダーとして……

個人は関係ないんやったら私怨でガタガタ突っ込んでくるのやめぇや!

言葉遣いとかそういう話をしにきたんちゃうねん!

んな事いまどうでもええやろ! シバくぞ!

……
……
まぁいい。その件は置いておくこととする
あっそ
アナグレタの報告によると免罪に値する物を持ってきたそうだな。

本来なら免罪など考えないが、状況を考え話を聞こう

そう。これあげるから、追いかけてくんのはやめぇって話
(やあ。ぼく魔導書!

 ククク、再び舞い戻ってきたぞ! ただの本が3度に渡る出演!

 やがてレギュラーの座を奪い、ゆくゆくは主役になってくれるわ!)

その本にどんな価値がある?

よほどの物でない限り免罪はあり得ないぞ

なんでウチがあのお姉ちゃんに本の価値を言わんかったかで分からん?

この本がお前の手元に行くって誰かにバレたら、お前が困るからやで

どういう意味だ
この本、背表紙に著者が書いてへんやろ。それで著者が分からん?
……
……まさか……アネア・エアクオウか?
そう。ウチの師匠や。名前忘れてるから、本に名前も書かんかった。

で、この魔導書は師匠の研究がズラリと並んどる。

これを全部理解して、かつ使えるようになれば最強クラスの魔法使いや

……!
で、それを仲間にも教えたったら、強力な軍隊ができるやろうな。

国を動かせんで。まあ、使いこなせたらの話やけど。

……こんなん誰かに知られたらマズいやろ? ウチに感謝してや

……
これをお前にやるわ。その代わりウチとカイカを見逃す。

それで終わり。受ける? 受けへん? 選びや

……何を企んでいる
ふふん。何が? 本を渡すだけやったら割に合わんとか言う?
分かりきったことを言うな。

魔導書の価値が高すぎる。お前たちを見逃すだけでは割に合わん

ふっふっふ。よう分かってるやん。

たしかにこの内容やったら高すぎるよなあ

そうだ。まだ何かあるんだろう。言うなら言え
(バッ)これが本の内容。見てみ
……暗号か?
そう。この本は全部暗号で書かれとる。

これを解こうと思ったら長い時間がかかるし、解ける保証もない。

いわば半分不良品やからこの値段って訳や

なるほどな。たしかにエアクオウの暗号なら難解だろう
どうしても言うんやったらウチが解き方を教えたってもええんやで?

ヨミドじゃ解かれへんかもしれんしなあ

断る。いくら金を取られるか分かったものじゃない
チッ
……
で、どうすんの。受けるか受けへんか
……
どうせギルドのリーダーで終わるつもりもないんやろ。

より上を目指すためにはこの魔導書、喉から手が出るほど欲しいはず。

ウチを見逃して師匠の魔導書が手に入るんやったらこの取引安すぎよ

……
ウチが嫌いやとか、リーダーとしての体面とか、ギルドの掟とか。

そういうのに縛られるか、お前にとって必要なこれを得るか。2つに1つ

……
……
――分かった。その条件で見逃そう
よし。交渉成立やな




……エアクオウにこの本を渡す許可は取ってあるのか?
取ったよ。こっち来るついでに会ってきた
そうか
もう行っていい? 交渉は終わったやろ。

別にお前とお喋りしたい訳ちゃうねん

……好きにしろ。だが、出る時は左手を上げながら出ろ
おー怖い怖い。ウチが出た時に左手上げてへんかったら始末するように

あのお姉ちゃんに言い含めとんのやろ? 交渉失敗の合図として

お前相手だと何が起こるか分からんからな
あっそ。じゃあウチ、帰るから
――いや、ちょっと待て
……なに?
お前に仕事の相談がある。高い戦闘能力がないと任せられん仕事だ。

もし成功すれば、高い報酬を用意する

高い報酬って、どんくらいよ?
それはまだ確定していないが、数年は食う物に困らない程度にはある
それって急ぐん? ウチ、1回師匠んトコ行かなアカンねん
早めに解決したい仕事だが、今すぐという訳ではない。

数日考える時間くらいは与えてもいい

ふーん。考えとくわ
話は以上だ
あっそ。じゃあ帰るわ。あとなヨミド
なんだ
師匠な、お前のこと全然覚えてへんかったで。可哀想やな!

ほなな~(バタン)

……最後まで嫌な奴だ





(ガチャッ)
おっ
!……交渉は成立したんっすね?
せやで。これでウチらはお咎めなし、晴れて自由の身や
ああよかった。これで一安心だな
これもウチのおかげやで。カイカ、ちゃんと褒めてや
いやよくやったよ。お前のおかげだ
ちゃうちゃう。もっとこうよーしよしよしよし! って
やんねーよ。なんで本当に犬を褒める要領で褒めさせようとしてんだ
お2人がお許しを受けて何よりっす。

今後は自分のターゲットになるようなことはしないで欲しいっすよ

とか言って、ウチと本気で戦いたいとか思ってんのちゃうん
思ってないっすよー。もう勝てる気しないっす
そうか。で、カイカは色仕掛けとどれくらい戦ったん?
してないっすよ?
指10本折られた
折ってないっすよ!?

10本全部折られる所まで行ったら、もう折られる方が悪いと思うっす

はっはっは! んじゃ、そろそろお暇するわ。

お姉ちゃんも元気でやりや。暗殺者やから無理かもしれんけど

最後まで冗談がキツいっすね。そっちも元気でやるっすよ
それじゃあ、お元気で
ええ、お元気で




―ギルド支部前―


さて、交渉も無事に終わったし。ウチらもお別れ――
山田、その前に
ん?
1つ聞きたいことがあるんだよ。

あの魔導書は凶悪な魔法もあるって言ってたよな

せやね
それを悪用されないように、

うまく切り抜ける方法があるとも言ってたよな。

その方法が何なのか教えてくれよ

おーおーおー。そういえば言うてなかったな。そら気になるわ。

ええで。教えたるよ

うん
……次話でな!!
次回に回すんかい
なんだかんだ交渉は成立し、晴れて自由の身となった山田とカイカ。

「悪用をどう避けるのか」というカイカの疑問は次回に持ち越し。

暗号で書かれているようだが、山田の様子から察するにまだ何かあるようだ。

次回、とりあえずの最終話。ちなみに魔導書はもう出番がない。

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登場人物紹介

山田太郎

元道具屋の店主。高レベルな魔法の腕を持っているが、

なぜか関西弁の守銭奴とやけに現代的な性格。

「ドカベンって呼んでもええで」と言ったり、

偽名で岩鬼正美を名乗るなど、某野球漫画に謎のこだわりあり。

カイカ

冒険者の戦士。腕前に自信があったので難関ダンジョンに挑戦してみたものの、準備不足で傷薬がなくなりピンチに陥るちょっとしたマヌケ。腕は確からしいが、コミュ力がないと山田にディスられている。

ハイロ・アナグレタ

第3話より登場。酒場の看板娘らしい。

たちの悪い冒険者に絡まれていたところを山田たちに助けてもらう。

美人さんだが、なぜか「~っす」という語調で話す。

師匠(アネア・エアクオウ)

第9話より登場。凄腕の魔法使いで、山田の師匠。

100年以上生きているらしいが若々しく、「魔女」らしい風貌。

しかし魔法以外の事は99%忘れてしまうらしく、100年前どころか

昨日のことすら記憶が怪しい。山田いわく「後期高齢者」

ヨミド

第19話より登場。ギルドのリーダーで、魔法使い。

厳格な性格で、プライドが高いような発言が見受けられる。

第一章の山田とカイカはヨミドと会うために旅をしているが、

その役割を考えると、たぶん彼がメインヒロインなんだと思います。

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