プロローグ
文字数 1,611文字
小学生の頃、友達何人かと一緒に学校の七不思議を探そうという話になった。私は見てなかったけど、前日にそういう内容のテレビ番組が放送されたらしいからその影響だろう。オカルトはまぁ好きな方だった。信じる信じないとかじゃなく、在ったらいいなと想像するのが好きで、だから七不思議探しにはワクワクしていた。
そういうわけで夜に学校に忍び込む…なんてできるはずもなく、放課後に探索を始めることになった。手当たり次第に女子トイレのドアをノックしても返事などなく、階段や教室が増えるなんてことも当然ない。疲労からもう乗り気でなくなっていた私は、何か見つけないと気まずいなぁ、と焦り始めていた。一通り探索し終わり、最終的に先生に頼んで鍵のかかった音楽室や家庭科室も見ることになるが、釣果のないまま最後は理科室を探索することに。
目的は準備室の隅に置かれている人体模型と骨格模型。少しでも動かないか、先生も含め全員が注目する。が、やはり小学生、5分と経たず飽きてしまう。一人が離れるのを皮切りにそれぞれが別の所を探索し始めた。
時刻はもう夕暮れ時で、校舎から音が消えたように感じるほど静かだった。自分たちのほかに残っている生徒はいるのかと、準備室の窓から外を眺めていたその時
「奈菜ちゃんっっ!!」
と私の名前を叫ぶ声が背後から聞こえた。
何事かと振り向くと、私の名前を叫んだその子は私の方を涙目で見つめ震えていた。キョトンとしていると、集まってきた皆も私を見て固まったように動かず、先生ですら
「ぅおっ」
と声を漏らして驚いていた。よくよく皆の視線を辿ると、私を見ているのではなく私の隣を見ているようだった。つまり、振り返って半身 である私の背後だ。そこにはさっきまで全員で見つめていた、人体模型と骨格模型がある。
皆が何に驚いているのかわからなかったため呆けた様子でサッと背後を見ると、無機質な骸骨の細い腕が私の肩近くまで伸びてきていた。結構近くて驚きのあまり固まってしまう。部屋に長く短い沈黙が流れたのち、その骨格模型の腕はまるで何事もなかったかのように元の位置までブランと垂れた。
そこから理科準備室は大騒ぎになった。部屋から飛び出し逃げる子、腰を抜かして床にへたり込む子、ひたすらに泣き続ける子、どうしたらいいのか戸惑う先生、そして棒立ちの私。やがて職員室にいた先生たちが駆けつけなんとか事態は収拾された。
騒動の後、保護者会や役員会が開かれ、件 の骨格模型は結局捨てられることとなった。また、一緒にいた先生は監督不行き届きとかなんとかで保護者から責められてしばらく休みをとることとなった。これに関しては今でも本当に申し訳なく思っている。まさかここまで大事 になるとは…。
あの骨格模型の腕を動かしたのは、私なのだ。
七不思議探しで何か結果が欲しかった私は、特別教室の鍵を開けてもらうために先生を呼びに行った職員室で透明のナイロン線をくすねていた。ナイロン線を服で隠し持ちながら使う機会を伺い、理科準備室の骨格模型が使えると思いついた。「引っ掛けて引っ張るだけ」とてもシンプルだからバレるんじゃないかと思っていたが、夕方の暗さが妙に雰囲気を出していてイタズラの域を越えてしまったようだ。結果は最悪の事態。私は自作自演だとは言い出せず、あの騒動は本物の七不思議として知れ渡ってしまった。
あの事件以来オカルトものには極力触れないようにしていた。悪ノリをしないようグループの付き合いも避けるようになったため友達と接することが少なくなってしまったが、友達を失うことよりも、これ以上重い思いを背負いたくないという気持ちの方が強かった。
私はもう、何かに胸を躍らせたり突飛なことをしたりはせず、平穏に過ごす。
そう決めたはずだった。しかし……。
高校一年生の夏、私は見つけてしまった。
その日、その不思議と出会い、私は物語が再び動き出すことを確かに感じた。
そういうわけで夜に学校に忍び込む…なんてできるはずもなく、放課後に探索を始めることになった。手当たり次第に女子トイレのドアをノックしても返事などなく、階段や教室が増えるなんてことも当然ない。疲労からもう乗り気でなくなっていた私は、何か見つけないと気まずいなぁ、と焦り始めていた。一通り探索し終わり、最終的に先生に頼んで鍵のかかった音楽室や家庭科室も見ることになるが、釣果のないまま最後は理科室を探索することに。
目的は準備室の隅に置かれている人体模型と骨格模型。少しでも動かないか、先生も含め全員が注目する。が、やはり小学生、5分と経たず飽きてしまう。一人が離れるのを皮切りにそれぞれが別の所を探索し始めた。
時刻はもう夕暮れ時で、校舎から音が消えたように感じるほど静かだった。自分たちのほかに残っている生徒はいるのかと、準備室の窓から外を眺めていたその時
「奈菜ちゃんっっ!!」
と私の名前を叫ぶ声が背後から聞こえた。
何事かと振り向くと、私の名前を叫んだその子は私の方を涙目で見つめ震えていた。キョトンとしていると、集まってきた皆も私を見て固まったように動かず、先生ですら
「ぅおっ」
と声を漏らして驚いていた。よくよく皆の視線を辿ると、私を見ているのではなく私の隣を見ているようだった。つまり、振り返って
皆が何に驚いているのかわからなかったため呆けた様子でサッと背後を見ると、無機質な骸骨の細い腕が私の肩近くまで伸びてきていた。結構近くて驚きのあまり固まってしまう。部屋に長く短い沈黙が流れたのち、その骨格模型の腕はまるで何事もなかったかのように元の位置までブランと垂れた。
そこから理科準備室は大騒ぎになった。部屋から飛び出し逃げる子、腰を抜かして床にへたり込む子、ひたすらに泣き続ける子、どうしたらいいのか戸惑う先生、そして棒立ちの私。やがて職員室にいた先生たちが駆けつけなんとか事態は収拾された。
騒動の後、保護者会や役員会が開かれ、
あの骨格模型の腕を動かしたのは、私なのだ。
七不思議探しで何か結果が欲しかった私は、特別教室の鍵を開けてもらうために先生を呼びに行った職員室で透明のナイロン線をくすねていた。ナイロン線を服で隠し持ちながら使う機会を伺い、理科準備室の骨格模型が使えると思いついた。「引っ掛けて引っ張るだけ」とてもシンプルだからバレるんじゃないかと思っていたが、夕方の暗さが妙に雰囲気を出していてイタズラの域を越えてしまったようだ。結果は最悪の事態。私は自作自演だとは言い出せず、あの騒動は本物の七不思議として知れ渡ってしまった。
あの事件以来オカルトものには極力触れないようにしていた。悪ノリをしないようグループの付き合いも避けるようになったため友達と接することが少なくなってしまったが、友達を失うことよりも、これ以上重い思いを背負いたくないという気持ちの方が強かった。
私はもう、何かに胸を躍らせたり突飛なことをしたりはせず、平穏に過ごす。
そう決めたはずだった。しかし……。
高校一年生の夏、私は見つけてしまった。
その日、その不思議と出会い、私は物語が再び動き出すことを確かに感じた。