第2話 古いLPレコード(二)

文字数 659文字

 そのレコードのセットを買ってくれたのは、母でした。

 どういうきっかけで買ってくれたのかは、よくわかりません。
 覚えているのは、ある日突然家にレコードたちがやってきて、わたしはたちまちその(とりこ)になってしまったということだけです。

 レコードに対するわたしの執着ぶりは、親の眼にも異常に映ったらしく、母は後々までこのことを話題に(のぼ)せたものです。

 当時のわたしは、幼稚園に行く前に必ずお気に入りの一話を聴き、幼稚園から帰ってからまた聴き、お休みの日はレコードをとっかえひっかえ、心ゆくまで聴き入っていたのでした。

 レコードからするすると立ち昇ってくる、あの色とりどりの〈声〉に、〈声〉が語ってくれる物語に、わたしは身も心もすっかり奪われてしまっていたのです。

(世界は、なんと面白いお話に満ちているんだろう!)

 まるで熱に浮かされたように、わたしが全身全霊で感じていたのは、たぶんそういうことだったのだろうと思います。

 レコードの中には、日本の昔話のようなものも入っていたのかもしれないのですが、よく覚えていません。あの頃のわたしのお気に入りは、全て外国の物語でした。

 あのスマートとは言い難い、やたらにかさばるレコード・プレーヤー。それは文字通りの魔法の箱であり、その箱から溢れ出す〈声〉を通して、わたしは――大袈裟に言えば、〈世界〉の広さに初めて触れていたのかもしれません。

 あの時、わたしの眼に映っていた〈世界〉は、わくわくする冒険や、お腹を抱えて笑うような愉快な出来事に充ち満ちて、きらきらと輝いていました。

 
 
 

 

 

 
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