◆第三十九話 過去への行軍

文字数 523文字

 草木に覆われた坂道をテオートルたちは歩いている。彼一人ならばもっと早く進めるが、老人たちはそうもいかない。ナメクジが這うような速度で森を縫って、斜面を少しずつ登っていく。
 水を多量に含んだ木を切り、水分を補充する。持って来た乾燥果実を口に入れて栄養を取った。思った以上に時間がかかっている。しかし、他の者を置いて行くわけにはいかない。神への直接の貢ぎ物は多い方がよい。可能な限り脱落者を出さないように、仲間たちを率いていく必要がある。
 老人の一人が、テオートルに話しかけてきた。
「我らが王よ。我々は生贄になることを選びました。あとのことは頼みましたぞ」
「心配は無用だ。あの場所には何度も近づき、神の力を感じている。生贄を捧げ、神が顕現したら、あとは交わるだけだ。神の力を使い、入植者たちを一人残さず、島から駆逐する」
 話しかけた老人は、満足そうにうなずいた。テオートルは自信に溢れた笑みを返す。父が考案して、生き残りの先住民たちが実践した呪術は必ず成功する。それが本物であることはよく知っている。憎い差別主義者たちが暮らす島は、一気に滅びるだろう。
 全ての者に死を。テオートルは、これまで溜めてきた恨みと怒りを思い出し、拳を握った。
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