翻訳者

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かってにかきこむ わるいこ だれだ

高座に向けて喪服姿の男が歩を進める。
にこやかでいかにも絵に描いたような笑みを絶やさずに、けれど顔色はひどく悪い。
きっと、顔立ちは三日連続葬儀場で会う時の玉木宏その人だろう。
やぁやぁ、地球の若人諸君、元気にやっておられましたかい。
おっと、こいつは失礼しましたなぁ、月や火星、冥王星人の方がいなはる可能性を失念しておりましたぁ。
……(^▽^)/
一方、客席ではタキシード姿の男がしきりと手を振っていた。
いかにも人好きのする、人馴れした男だったが、今宵の主演を務める囃家「口舌院怪談」が演目の前座に呼んだ芸人だろうか?
両手から花。
白い紙吹雪、けれども周囲の観衆は眉をひそめるばかり。

ほう。
まぁまぁちょいちょう、どうや?


(*^▽^*)
時にレジェンド君でしたっけな?
どしたん君? 目の玉は家に置いてきたんかいな?
師匠の言葉に、不思議そうに小首を傾げるマジシャン。
目の位置に指を差し入れて、なにかどろりとした感触を感じたか。
慌てて、シルクハットの位置を直す。

ぱっ、と手を離すと定番の鳩がくるっぽ―と鳴いていた。
思わず息を呑む、周囲の客。
まぁ、君もこんな場所(ショバ)に来たんや。
茶でもしばきにこっちこいや。
と、それともな。随分足が遅いやないの?
魂ぁ、縮こまらせてんのでっしゃろか? 男の子だのに、付いてるもんあるんかいな?

(⌒∇⌒)
遅々として、とは言えど一歩一歩歩を進めるレジェンド・マジシャン。
かくいう間に、二本の蝋燭の火をじぃっと眺め「こらかまわん」と零す口舌院の怪談さん。
時に、口舌院怪談は七不思議にちなんで、七人いるというが、この怪談がどの怪談であるかは往々にして、誰も知らない。
もしかすると、当の本人たちでさえも。
……なんてな?

おいおい、どしたね、レジェンド・マジシャン君ちゃん。
足が遅い遅い思うたが、もうね、這ってるやないの。
どしたん? 何か悪いモノでも食うたん?
ぺっしなさい、ぺっ、ぺっ、

ぺっ!
そうそ、そうそそそそそ。
胃の中身も胃もぜ~~んぶぶち撒けたれや。
どこか、茶色く粘ついた液体が震える子供の足下に滑る。
座っていて、なお転ばせるようだった。

饐えた吐瀉物のにおい。
吐き気は伝染するし、ぐちゃぐちゃになった行き先を這うように男が進んでいるとくれば猶更だった。
老若男女、誰も彼も目を離せない。

なぜなら、言葉は、怪談は、どこにいても響いてくるからだ。
肝が据わっとらんなあ、青少年。
五臓六腑が無くとも……
( ^)o(^ )
肝っ魂が無くとも……
あっ、あかん、これ言うたらあかん奴や。
\(^o^)/
ま、いいやろ。
前座はこれまでっつーことで。

言葉と共に、マジシャン姿の男は掻き消える。
タキシードも、転び出た眼球も、胃の腑から、心の臓まで撒き散らした肉、吐瀉物と血に塗れた汚れは綺麗さっぱりに取り払われた。

まるで、最初からなかったかのように。
ベッドの下に斧を持った男がいたりとか、行きずりでセックスしてエイズの世界にようこそたー、都市伝説(アーバンレジェンド)もまー色々でしょうが、ボクの手管だとこんなもんでございますっと。
魔人口舌院怪談によるレジェンド・マジシャンの再現でごぜーます、よっと。
そういって、口舌院怪談は蝋燭の火を一本ふっと掻き消した。
そして、残る一本の蝋燭を手に取ってやおらに立ち上がると言った、
それでは、ボク自身の語りに移らせてもらいやす。
時に、百物語をご存知ですかい?

そうそ、一夜の間に百怖い話を語るとなるっつーあれのことやね。
まー、でも何も起こらないって言ってるお客さんもいらっしゃることやし、今日はそれを実証してみたいと思います。
もうね、百語り終えてしもうて今宵は百二話目よね。

さっきのぼっちゃんは種も仕掛けも、って言いかけてずっと止まっとったケド、種も仕掛けもあるとしたら、百物語そのもので説明が付くた―思わんかいなー?
だって、お客さんらみーーーんな、
死んどるもん。
あ、ボクは生きとるよ。
だって、ボクは幽霊になろうがなるまいが金にならんことは一切合切せん性分やさかい。
こうして、騙りで作った幽霊を使って客商売させてもらっとるわけです。

え? 地球が隕石で吹っ飛んどるのに商売も糞もないだろーて?
寝ぼけとるんわ、そっちやわ。
今の御時勢、月にも火星にも冥王星にもぎょーさん人はおるんです。

そいでは、トークメーカーにおるお客さんのためにもお話のオチを付けるとしましょーか。
そこまでです!!
怒号は鮮明に。
その言葉はなおさら届いた。

「ふっ」

蝋燭を吹き消す音とともに偽りの幽霊たちは消えてなくなった。

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登場人物紹介

名前:口舌院怪談(くぜついん かいだん)
性別:男性
設定:



詐術師の家系「口舌院家」の噺家にして葬儀屋。38歳。

喪服姿に黒縁眼鏡、薄笑いを浮かべた口元と全く笑っていない目が特徴的。一人称は「ボク」。

関西圏中心の訛りを含んだひょうきんな喋り方をするが、本人が纏う圧倒的な陰気さが逆に不気味さを強調する。


上方で真打落語家として活動しており、怪談噺を語らせれば右に出るものはいないという実力者。

金に非常に汚い性格で香典から中抜きするのは日常茶飯事、副業として幽霊や死体を裏社会に横流しして稼いでいる外道。財布の紐も堅いが、悪銭身に付かずと言うべきか予定外の支出が多すぎて一向に貯金が増えないのが悩みらしい。


特殊能力:苦々重苦(ジュークボックス)

言霊から幽霊の贋作を作り出す。 

聴衆の没入度や筋立ての完成度によっては生前の人格を限りなく再現することが出来るが、怪談の解釈によって成り立つ創作上の存在でしかあり得ず、それ自体は何の力も持っていない。


他者の認識をかく乱・改変することに長けた口舌院の例に漏れず、あまりに真に入った噺はそこにないはずの死体をあると騙り、生前葬を本物の葬儀に代えてしまうことも不可能ではないという。


作者:翻訳者

名前:レジェンド・マジシャン


性別:男性


特殊能力:『種も仕掛けも』


古今東西、多種多様な手品を操る。


トリックなのか、魔人能力なのか。それを知るのは彼自身のみ。




キャラクター設定:多くのファンがいるにも関わらず、現在まで名前すら判明していないマジシャン。分かっている特徴は、若い男性であることと、黒いタキシードに身を包み、胸元に蝶ネクタイをつけているということ。


不定期で「マジックショー」を開催し、そのフィナーレとして「レジェンドマジシャンvsイカれた魔人」というマッチングを行う。ショーのチケットは高値で取引されている。



相手を倒したい理由:「It’s show time!」


作者:木家

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