第10話

文字数 3,243文字

 もうかれこれ二〇年以上の付き合いの知人。歳は私より一〇近くは上だと思う。
 今回のコロナ騒動で給付金や貸付など、個人事業主にとっては今しか金を借りれない絶好の機会に恵まれた。だが、悲しい事に手続きの煩雑さと数の多さに指をくわえて見ているだけの知人。パソコンで調べりゃ簡単だろというのだが、生憎、パソコンって何? ってな具合。
 仕方ねえな教えてやるか…… 。
 知人の家に行くと娘のパソコンがリビングの机の上に鎮座していた。一五インチの薄いノートパソコンは二年前に買ったものらしく、表の天板には娘の好みらしき漫画のシールがベタベタと貼ってある。一応、娘に聞いて調べたらしいのだが、コロナ予防や関係ないものばかりで行き着けなかったようだ。え〜い、面倒くせえ、紙と書く物用意しな、今から言うから。
 と、正式名称と手順、連絡先等を教え、あと用意すべき必要書類を伝えた。
「ところで自分のパソコン位もったら? 最近の連中はスマホで何でも済まそうとするが、キーボードや画面、仕事で使うんならパソコンじゃなきゃ不便だろ。買ったら? 俺の中古で使ってないパソコン安くで譲ろうか? 」
 
 その後、しばらくして「パソコンをもう一台、娘が欲しがってるし買おうかな…… 」といってきた。
 ところで娘さん何してんの? と聞くと「パソコンで漫画を描いている」らしい。へえ、最近、たまに耳にするクリエーターってやつかい? いつも家にいて描いているらしいのだが、私は一度も娘の顔をみた事がない。ある意味、何十年も知っている家なのだが、二階から降りてきた娘を見た事さえないのだ。おかしいな…… 。歳の頃からいえば二〇代半ばってところだろうに。
 
 その後、色々と質問してくる知人なのだが、要領を得ない。取り敢えず娘本人と話をさせろ、埒が明かない。
 
 翌日、私は知人の家に使っていないパソコン三台持って出かけた。(ちなみに私は他にマック機、WIN機、LINUX機の三台使っている。だが、決してパソコンオタクではない。用途で使い分けてるだけ)
 リビングに入ると娘がソファーに座っていた。小柄で華奢で大人しそうな子だ。ってよりちょっと暗い。
 私は「初めまして○○です」って風にちょっとあらたまった挨拶をした。彼女は無言のまま頷くだけだった。ほぼ予想通りだな。恐らく彼女は”引きこもり”だろう。
 コミュニケーションの苦手な人間にはそれなりの話し方がある。必要以上に踏み込むと警戒された上、そのうち拒絶される。彼女のような人種は、個人として認められている、もしくは評価されていると思わせる事が大事だ。後は抜け目なく意向を伝えるだけ。
 
 相変わらず曖昧な返事、ちょっと飽きるとスマホをいじり始める。全てが予想通りの行動。まず一度も目を合わせようとしないのでいつも斜めを見ている感じ。こりゃ酷えな。
 年齢からすれば会社勤めをして、友達と夜遊んだり、彼氏がいても不思議ではない。でも家から出ないのだからそれは無理だ。
 
 聞けば彼女は一人っ子のようだ。そうだな、最初の子供は病気をすれば死ぬんじゃないかと心配し、常に親はハラハラする。それが二人目ともなれば「今までの気苦労は何だったんだろう? 」って位ヘッチャラになる。少々、病気になった位で子供は死なない。只、見ていると一人っ子の親は永遠に心配し続けるようである。産まれた子の性別に関わらずだ。
 
 私が子供の頃、もう幼稚園を卒業する頃には親と出歩くのさえ嫌であった。さすがに幼稚園児が夜遊びはしないが「男の子が家の中にいるな。友達と外で遊んで来んかい」って具合であったので、親子で歩いていると友達に恥ずかしいって感じだった。家は飯食って寝る所。でも最近の子は家の中に楽しみがあるので、外に出たがらない、やがてコミュニケーション下手になるのかもしれない。しかし、全ては親の責任。
 
 その後、一連のやり取りの後「どっちがいいですか? 」と娘に言うと「こっち」と指差したので、初期化や設定をして引き渡した。
 
 もし、私がこの子の父親だったら? …… ゾッとする。今までの育て方に猛反省し、絶望し、起死回生策をとことん考えるだろう。子に対する愛情はどこの親も変わらない。全ては親の資質の成れの果て。突き放せる愛こそが至上の愛と…… 今の親は考えねえよな。
 
 知人は悪いことをする人ではないのだが、何故か人に嫌われる。相手が何かを話すと必ず反論を付け加える。それが浅はかな知識であったり、諦めめいた話が多い。先日もある商品を出荷していて、わざわざパレットに載った商品の梱包を外し、四t車に平積みしていた。トラックのドライバーも嫌そうである。(当り前だ、時間がかかる上に面倒)
「そんな高々三〜四種類の商品、パレットごと積んで現場で下ろせばいいじゃん」
 と言うと「現場にパレットを置いて来れんのじゃ、仕方なかろうが」と言う。
 それなら運送会社と交渉してパレットを持って帰らせればいいじゃないか? と言うと「価格が高くなる」と言う。
 運転手にそうなの? と聞くと「さあ? 」と言う。そこで運転手に会社に聞いてみてよと言うと、知人は「駄目なもんは仕方なかろうが」と言ったので、ちょっとカチンときた。
「工夫するのは当り前だろ。ドライバーさんも嫌がる作業を延々としてたって駄目だろ」
 と言ったのだが、先方との取り決めでパレットを置いて来れないの一点張り。
 
 そういえば目の手術をしなきゃいけないから金がかかると言っていたので「高額医療の申請したら? 」と教えたのだが、その後「あまり安くならんかった」と言う。「高額医療は月ごとの上限額が決まるので二度の手術が必要なら同月に終わるように医者に頼めば? 」と言うと「医者が忙しいから無理じゃ」と反論。しばらくすると「時間をあけた方がええんじゃ」と違った事を言う。つまりは聞いてねえだろって話。少しは教えてやった事を感謝くらいしろよ。
 
 結局、空気の読めない親だと虐められっ子を育てやすく、それをひたすら守ったとしたら子供は喜んで引きこもりに育つ。悪いのは親。普通の子を育てるのさえ困難な時代なのだろうか? 
 
 見渡してみろよ、優しさ、平等、挙句の果には繋がり、感謝、勇気元気…… 正義の皮を被った偽善者だらけ。はっきりいえば優しさとは弱さの裏返し、馬鹿ほど人が良さそうにみえるが馬鹿なので恩返しはしない。おまけに馬鹿にはケチも多い。旦那が優しいという嫁はいざとなったら役に立たない腰抜けだとやがて思い知る。
 歌番組を見ていると「君は君のままでいいんだよ。きっと分かってくれる人はいるから」なんて平気で歌っている。まあ、大昔から商業主義の売れればいいやって歌は多かったのだが、マイノリティを励ます歌に支えられたひ弱な精神衰弱者がマジョリティと化している狂った時代。歌を歌っているこいつらは悪人である。将来、彼ら彼女らは部品としても存在できない位のはみ出しとなり、修復不能となるだろう。若い子が何故、無能なのかと言うと何か注意されるとすぐ顔に気分が出る。昔なら「すぐ気分を顔に出すと馬鹿に見える」といわれたものだ。まともに挨拶もコミュニケーションも出来ないし。スマホの中にしか人生がないのであれば今後生きる意味があるのだろうか? 。
 
 学校で習う授業は将来全く役に立たない。(これは全世界共通‌認識)出来ればディベート、事業計画書、金融機関からの金の借り方でも教えた方が将来の為だが、日本の公務員教師には無理だろう。文字の読み書き、語学、歴史などの教育は必要であるのは間違いないし、教育以外でも知性や感性は大事。今、世界中で言われている「日本人の若者は空気を読む能力がない無能者」ってのは特に危惧すべき問題。まあ、結論からいえば私達親の世代が馬鹿だったのが、一番の反省すべき点なのだが。
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