白い狂気

文字数 632文字

 彼は丘の上に立つ、兵士たちは十字架を丘の中央にそれを立たせ、彼を磔とした。
 逃げ出せぬように両手を広げさせ、その掌に杭を打ち込み十字架の虜とした。

 空気が止まったように全ての目が彼に集約された。彼は最後に何も言わなかったと思う。しかし、全ての人が彼と目があった。そして理解した。

「始まりだ」

 十字架を取り囲む7人の兵士が一斉に槍を突き刺した。絶命するまで何度も何度も突き上げる。

 私は一部始終を見ていた。民衆から発する暗黒の雲は丘の中心で渦を巻き、彼の元に集約されてゆく。ものすごいスピードで吸い込まれてゆく。なにかとても怖い。それは悪意で暴力の塊のようなもの。

 その最後の黒が、するりと吸い込まれたその瞬間に、彼はニッコリと笑い生き息絶えた。

 数十秒の沈黙の後に、空が白く光を放った!まるで空全体が太陽になったように!世界の全てが強い光に照らされて。影さえも消し去るほどに。

 それは圧倒的な幸福感を与える狂気のようなものだった。私は気が狂ってしまいそうな怖気に顔を歪める。

 なんだ、なんだなんだ!いったいなんなんだ!

 お前はどこに行くのだ!どこに向かおうとしているのだ!

 世界は白に包まれる。

 どこだ!どこだ!どこにいる!






「私はここにいるさ」

 目を開けるとイエスちゃんがいた。
 元の世界に戻って来たのか。身体の興奮でガタガタと震えてしまっている。

「大丈夫だよ、私が全て飲み込んでやるさ」

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