カラスとヒーロー

文字数 2,010文字

昔から男子に混じってヒーローごっこをするのが好きだった、ふとそんなことを思い出せるような夢を、さっきまで見ていた気がする。

いつもと変わらぬ天井が半強制的に目に飛び込んできて、目が覚めたんだって理解する。
築何年なのかは知らないがボロボロの天井に不釣り合いなほど真新しいLEDの蛍光灯がぶら下がってる。
おもむろに枕の上へと右手を伸ばす、伸ばした先にあるケースの上蓋に人差し指の爪を滑り込ませ、親指と人差し指に力を入れて蓋を開ける。
中からメガネを取り出して自分の顔の方へと持っていく。昨日から動きっぱなしの扇風機を足で手繰り寄せて止めようとした時に、開いてた窓からパンザマストが聞こえた。

近所の学校から威勢のいい、運動部の掛け声が聞こえてくる。
カラスの鳴く声が聞こえてくる。

メガネをかけると自分の部屋がほんのり赤くなっていることに気づく。窓から差し込む赤い光が部屋の壁を照らして火のように揺らめく。
カラスの鳴く声が近づいて来る。

僕はふと自分の手首を握る、折れてしまいそうだと思う、透けていって消えてしまいそうだと思う。傷が残っていなくて良かった。
カラスの鳴く声が遠ざかって行く。

瞬間的に窓から入ってくる風が机の上のものを騒がしくさせる、埃を被った教科書とビリビリに破かれた身分証明書が音を立てて部屋で鳴く。

鳥にでもなって、羽でも生えて、ここから消えてしまいと願った。

そして僕はメガネをケースには入れずに枕から少し離れた場所に置き窓を閉めて布団を被った。



僕は夢の中で中学の友人にあった。
久しぶりにあった友人に「久しぶり、2年振りくらいかな」と言うと2年どころじゃないよ、10年振りだよ、と今日の集まりが10年振りの同窓会であるということを教えてくれた。
同窓会の会場まではここから少し歩いた所にあると言うので少し歩くことにした、歩いてる間、僕たちは10年振りに会う同級生のことを思い返しながら話した。

真面目な委員長だったあの子は今、街の市役所で働いているらしい。
バスケ部だったあいつはギター片手に東京に行ったらしい。
いつも優しかったあの子は看護師になったらしい。
絵が上手かったあいつは美術の先生になったらしい。
クラスにあまりに馴染めてなかったあの子も、今ではモデルをしてるらしい。
いつも破天荒だったあいつは意外と家業を継いだらしい。
仲の良かったあの2人組は今でも同じ職場で働いてるらしい。

そんなことを話しながら僕たちは歩いた。そして友人が足を止め、ここだよ、と言う。
小さな居酒屋らしきそのドアのドアノブにに手をかけるとこの居酒屋は、いつも父が仕事仲間と、母がPTAの仲間たちと来ていた場所だったということを思い出す。そして今、その居酒屋に僕らが入れる年齢になっているのだ。そう考えると少しだけ緊張して、さらにみんなに会いたくなる。ドアノブを引き、ドアを押し込み僕は中に入った。

ドアを開けるとそこは高校の教室だった。3から5人程度の人間が1つの机に集まって話をしている。僕が入ってくると一瞬だけ空気が変わるが、その後、何も無かったかのように各々が会話を再開する。
僕は自分の机に目をやる、机の上には当然であるかのような顔をして女子が座っている、僕はその席に近づこうとする、その女子が僕の方を見る、その女子はなぜだか僕のバックを持っていて、振り上げてチャックを開け、バラバラと落ちてきて床に打ち付けられた僕のバックに入っていたものを踏みつけ、おはよう、と言った。
僕は「やめてください」と言った、それは喉だけが震えて言葉になってはくれなかった。

そこで僕は目が覚める。


いつもと変わらぬ天井が半強制的に目に飛び込む。
僕は枕元に置いたメガネを掴もうとして、体を少し捩った、布団も背中の間に何がが引っかかっていることに気づいて僕は背中を手で探る。
何かがある、生えている。
僕はケータイを枕元から引きずり出し、カメラを起動してレンズを背中の方に向け、シャッターを切る。手が震える。

そこには羽が生えているのだ。
体に見合った分相応の翼が僕の背中から生えているのだ。

僕は背中の羽を少しだけ動かそうと意識する、しかし、意識などせずとも最初から自分の身体の一部であったかのように羽は動いてみせる、まるで生まれたときから生えていたように羽は動く。
夢の中でも10年振りにあったら羽が生えていた、なんてやつはいなかったな、なんてことを考えてしまえるくらいに脳が追いついていないのだ。
時計を見ると午前2時過ぎ、寝ぼけるにはちょうどいい時間だ。
僕は窓を開けて風にあたり、目を醒ますことにした、窓を開けると強い風が部屋の中に吹き込む、その風に僕の羽が舞い上がり、ヒラヒラと数枚の羽毛が部屋の中を揺蕩う。
僕の羽が現実のものだと捉えるには事足りる体験だった。
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