飛礼同盟
文字数 3,063文字
メガネ君はパソコンの画面を真剣に見ていて、舞の言葉には上の空という感じで答えた。
珍しく神楽舞が話題に喰いついてきた。
最近の神楽舞は運営のシステム改変の指揮を取っていて、規約違反メール自体が来ないような仕組みづくりに専念していた。
その理由は規約違反対応業務が増え続けていたし、その根本にはシステム的不備があるのは明らかであったからだ。
それにネット小説出版サイトの<メガロポリス>の小説投稿サイト化の動きや、IMT.COMの<ネット小説投稿パラダイス>、通称<ネットパラ>の急成長などの環境変化に対応するものであった。
運営業務をスリム化し、余った人材のリソースを新たなサービスに振り向ける。
ネットの<サブサブ動画>などに番組を持ったり、本誌移転や新たなサービス企画も計画中であった。
<作家にたまごごはん>の中核事業戦略を練り直す第二創業期と言えた。
メガネ君の情勢分析はなかなかであった。
恐るべき業務遂行能力で仕事を午前中には終わらせ、午後はネット調査と称してゲームをやりまくってるのだから当然であった。
メガネ君は少し驚いたようで、舞の顔をまじまじと見つめた。
チャラ夫君もカミングアウトしてきた。
ウィンクするのはやめてくれ。
舞は不思議な顔をした。
メガネ君も一応、会社員なのだが、自分のことは除外している。
神楽舞の言葉に他の派遣社員の女の子もうなづく。
みんなグルかよ。
今まで何も気づかなかったメガネ君はうかつすぎる自分を笑うしかなかった。
ネットの世界には強いが、リアルの人間関係にはかなり疎かった。
メガネ君は複垢で潜入している≪YUKI no JYOU≫同盟の同盟チャットの文字を見て驚きの声を上げた。
<刀剣ロボパラ>ではサーバーによってゲームワールドが別れていて、プレーヤーが徐々に減っていくワールドの過疎化を防ぐためにワールドの統合を行っている。
プレーヤーがワールドの掛け持ちをすることは普通で、ここはアイテム集めをするワールド、こちらは本気でプレイするワールドという風に区別してることが多い。
その複数アカウントはワールドの統合によって同じワールドに存在することになり、ひとりのプレイヤーが複数のアカウントを持ち、ひとつを仮想敵同盟にスパイとして送り込むことはよくあることだった。
統合されそうなワールドでプレイして、複垢を作って、ゲーム初期の砦や城を包囲確保する資源消耗の激しい過酷な遠征、重要拠点に砦を築くなどのいろいろな用途に使用するのは常識と言えた。
神楽舞が握手を求めてきた。
何か気恥ずかしいが、メガネ君も舞の手を握り返した。
<刀剣ロボパラ>の第13ワールドの最終決戦に向けて、策謀渦巻くゲーム世界ですが、みんな午前中に仕事終えて、午後からゲームばかりしてる訳ではありません。
ちゃんと真面目に仕事してる人の方が多いです。
いわゆる飲みニケーションの代わりに、社員の交流のためにこういうゲームをするIT企業は意外と多かったりします。
ゲーミフィケーションといって、日常の生活要素をゲーム化して、ウェブサービスのユーザーのコミュニケーションを活性化したり、ゲームによる教育効果を狙ったり、目標達成の仕組みを作りビジネスに応用するなどの研究も行われている。
というメガネ君的な言い訳はこれぐらいにして、話は次回に続いていくのでした。
(あとがき)
このお話、ラストは大体、決まってるのですが、そこまでいく過程は即興ですので、今回も書くまではこういう展開になるとは予想できませんでした。作者でも。
ということで、設定語りが終わって、少しづつ話が動きだしましたが、僕も次回がどうなるか?全く予測は立たないのでした。
あ、『裏切りの同盟』というタイトルかもしれない(笑)