第118話 言付
文字数 2,223文字
ユウトは役場に向けラーラ達と共に足を進めている。戦闘を歩くユウトの斜め後ろの位置を歩いていたラーラは速度を上げてユウトに並ぶと声を掛けた。
「少し話をしてもいいかしら?」
「うん?ああ、いいよ」
ユウトは目深く被ったマントフードの隅からラーラを見上げて答える。ラーラは合った目を正面に向けて話を続けた。
「あなたのその黒い毛皮はもしかして生きたクロネコテンなのかしら?」
「その通りだけど、そのことに何かあるのか?」
ユウトも正面に向き直りユウトとラーラは歩調を合わせて進み続ける。
「すごいわね。これは商人としての考えなのだけどクロネコテンの毛だけでも売ってみない?希少価値からすれば少量でもなかなかの額で売れるの。販路は私で調整するけどどうかしら?」
「なるほどな。セブルはどうだ?」
ユウトがそう言うとフードの縁で毛皮に成りすましていたセブルから耳がにゅっと形作られユウトに答える。
「うーん。ユウトさんの命令ならやりますけど・・・」
「やっぱり気乗りはしないよな」
「そうですね・・・生え変わりの時期はあるのでその時になら」
ユウトはふっと笑って答えた。
「ラーラ。すまないけど今のところは遠慮しておくよ。保留ということにしておいてくれないか」
「ええ、それで十分よ」
ユウトと力まず答えラーラもそれを了承する。
ちょうどその時、前方から男が一人駆けてくるのがユウトには見える。ユウトにはその男に見覚えがあった。そしてその男とふと目が合い男の目的が自身であることを察する。敵意を感じない男にユウトは立ち止まって男が近づくのを待った。
「ユウト様ですね?」
ユウトの近くで立ち止まった男はユウトを正面にとらえて確認する。男は息切れ一つせずに丁寧に尋ねた。
「確かにその通りだ。何か用か?」
「ヨーレン主任から至急、役場に向かわられるようにと言付かっております」
その知らせにヨーレンの方で予定外の出来事があったのではとユウトは想像する。
「わかった、言付けありがとう。
ラーラ、少し急ごうと思うけど大丈夫か?
ヴァルはどうだ?」
男に対して了解の返事をしたユウトはその流れでラーラとヴァルに話を振った。
「問題ないわ。ノエン、お願い」
ラーラに声を掛けられたノエンはラーラを軽々と抱きかかえる。
「我、問題無シ」
ヴァルもユウトに答えた。
「よし、じゃあ少し急ごう」
そう言ってユウトは走り出す。人通りもある道だったためユウトは小走りに役場を目指した。
言付けを伝えた男はユウトを先導するように前を走り声を上げて歩行者に注意を喚起する。ユウトは後方のヴァルに目をやると大きく身体の角度をつけて前傾姿勢を取り地面をスライドするようについてきていた。器用に花冠を落とさず速度を上げている。ラーラを抱えるノエンも苦も無く駆けていた。
すでに役場を目指していたこともありすぐに到着する。ユウト達を先導していた男は「こちらです」と手で指し示し役場内でユウト達を案内した。そして大きな扉の前に立ち止まり部屋を叩く。荒々しさはなくうるさくない程度の丁寧さにユウトは一人感心した。
間もなく扉越しにマレイの合図が聞こえる。男はユウトの目の前の扉を開いた。
ユウトは開いた扉の先にいる人物たちに少し驚き、腹のあたりが緊張で強張るのを感じる。和やかとは言えない冷めた空気が立ち込めているようにユウトは感じた。マレイがいることはわかっていたがレイノスとディゼルの存在には心の準備が間に合っていないことを自覚する。決めきれないユウトの心の置きようをユウトは急いで探して足が動かなかった。
「あっ・・・私はどうしましょう、か」
中の様子を確認した様子のラーラはできればここは引いておきたい、という気持ちをユウトには感じ取れる。
「ラーラもいるのか。商談の好機だぞ、同席しておけ」
マレイに見つかり声を掛けられたラーラは腹をくくったように一歩前に出る足音をユウトは聞いた。
ユウトも思いかけない状況で緩んでしまった気持ちの糸を張り直す。胸を張るように大きく息を吸い込んで息を留めると力強い足取りで部屋に入った。
個別にギルドと騎士団への説得と調整を考えていたユウトにはこの状況に幸運とも不幸とも思える。この機に話しをまとめ上げ、決戦を行うためのコマをすべて揃えてしまおうと心に決めた。
足取りを確かにヨーレンの横までくると席に着く。ラーラはユウトの隣の席に着きノエンとヴァルはその後ろの壁沿いに待機した。
「みんなはどこまで話を聞いている?」
ユウトはヨーレンに声を掛け、ヨーレンは昨日のロードと初対面したところまでを語ったことを教える。ユウトはうなずきマレイ、レイノス、ディゼルに目線を移した。
「まず最初に紹介させて欲しい。こちらはクエストラ商会のラーラ。これから起こる事態に対してオレと協力関係をになることなった」
哨戒されたラーラは小さく頭を下げる。
「クエストラ商会?君はポートネス商会ではないのか?」
ディゼルが不思議そうに尋ねた。
「はい。この度、私と弟のノエンはポートネス商会から新たに設立するクエストラ商会として独立することとしました。どうぞよろしくお願いいたします」
「期待しているぞ。クエストラ姉弟」
ラーラの挨拶にマレイが声を掛けるも、マレイの言葉にはどこか皮肉めいた印象をユウトは受ける。
「ご期待に答えてみせますよ」
その印象を裏付けるかのようにラーラは棘のある口調でマレイに言葉を返した。
「少し話をしてもいいかしら?」
「うん?ああ、いいよ」
ユウトは目深く被ったマントフードの隅からラーラを見上げて答える。ラーラは合った目を正面に向けて話を続けた。
「あなたのその黒い毛皮はもしかして生きたクロネコテンなのかしら?」
「その通りだけど、そのことに何かあるのか?」
ユウトも正面に向き直りユウトとラーラは歩調を合わせて進み続ける。
「すごいわね。これは商人としての考えなのだけどクロネコテンの毛だけでも売ってみない?希少価値からすれば少量でもなかなかの額で売れるの。販路は私で調整するけどどうかしら?」
「なるほどな。セブルはどうだ?」
ユウトがそう言うとフードの縁で毛皮に成りすましていたセブルから耳がにゅっと形作られユウトに答える。
「うーん。ユウトさんの命令ならやりますけど・・・」
「やっぱり気乗りはしないよな」
「そうですね・・・生え変わりの時期はあるのでその時になら」
ユウトはふっと笑って答えた。
「ラーラ。すまないけど今のところは遠慮しておくよ。保留ということにしておいてくれないか」
「ええ、それで十分よ」
ユウトと力まず答えラーラもそれを了承する。
ちょうどその時、前方から男が一人駆けてくるのがユウトには見える。ユウトにはその男に見覚えがあった。そしてその男とふと目が合い男の目的が自身であることを察する。敵意を感じない男にユウトは立ち止まって男が近づくのを待った。
「ユウト様ですね?」
ユウトの近くで立ち止まった男はユウトを正面にとらえて確認する。男は息切れ一つせずに丁寧に尋ねた。
「確かにその通りだ。何か用か?」
「ヨーレン主任から至急、役場に向かわられるようにと言付かっております」
その知らせにヨーレンの方で予定外の出来事があったのではとユウトは想像する。
「わかった、言付けありがとう。
ラーラ、少し急ごうと思うけど大丈夫か?
ヴァルはどうだ?」
男に対して了解の返事をしたユウトはその流れでラーラとヴァルに話を振った。
「問題ないわ。ノエン、お願い」
ラーラに声を掛けられたノエンはラーラを軽々と抱きかかえる。
「我、問題無シ」
ヴァルもユウトに答えた。
「よし、じゃあ少し急ごう」
そう言ってユウトは走り出す。人通りもある道だったためユウトは小走りに役場を目指した。
言付けを伝えた男はユウトを先導するように前を走り声を上げて歩行者に注意を喚起する。ユウトは後方のヴァルに目をやると大きく身体の角度をつけて前傾姿勢を取り地面をスライドするようについてきていた。器用に花冠を落とさず速度を上げている。ラーラを抱えるノエンも苦も無く駆けていた。
すでに役場を目指していたこともありすぐに到着する。ユウト達を先導していた男は「こちらです」と手で指し示し役場内でユウト達を案内した。そして大きな扉の前に立ち止まり部屋を叩く。荒々しさはなくうるさくない程度の丁寧さにユウトは一人感心した。
間もなく扉越しにマレイの合図が聞こえる。男はユウトの目の前の扉を開いた。
ユウトは開いた扉の先にいる人物たちに少し驚き、腹のあたりが緊張で強張るのを感じる。和やかとは言えない冷めた空気が立ち込めているようにユウトは感じた。マレイがいることはわかっていたがレイノスとディゼルの存在には心の準備が間に合っていないことを自覚する。決めきれないユウトの心の置きようをユウトは急いで探して足が動かなかった。
「あっ・・・私はどうしましょう、か」
中の様子を確認した様子のラーラはできればここは引いておきたい、という気持ちをユウトには感じ取れる。
「ラーラもいるのか。商談の好機だぞ、同席しておけ」
マレイに見つかり声を掛けられたラーラは腹をくくったように一歩前に出る足音をユウトは聞いた。
ユウトも思いかけない状況で緩んでしまった気持ちの糸を張り直す。胸を張るように大きく息を吸い込んで息を留めると力強い足取りで部屋に入った。
個別にギルドと騎士団への説得と調整を考えていたユウトにはこの状況に幸運とも不幸とも思える。この機に話しをまとめ上げ、決戦を行うためのコマをすべて揃えてしまおうと心に決めた。
足取りを確かにヨーレンの横までくると席に着く。ラーラはユウトの隣の席に着きノエンとヴァルはその後ろの壁沿いに待機した。
「みんなはどこまで話を聞いている?」
ユウトはヨーレンに声を掛け、ヨーレンは昨日のロードと初対面したところまでを語ったことを教える。ユウトはうなずきマレイ、レイノス、ディゼルに目線を移した。
「まず最初に紹介させて欲しい。こちらはクエストラ商会のラーラ。これから起こる事態に対してオレと協力関係をになることなった」
哨戒されたラーラは小さく頭を下げる。
「クエストラ商会?君はポートネス商会ではないのか?」
ディゼルが不思議そうに尋ねた。
「はい。この度、私と弟のノエンはポートネス商会から新たに設立するクエストラ商会として独立することとしました。どうぞよろしくお願いいたします」
「期待しているぞ。クエストラ姉弟」
ラーラの挨拶にマレイが声を掛けるも、マレイの言葉にはどこか皮肉めいた印象をユウトは受ける。
「ご期待に答えてみせますよ」
その印象を裏付けるかのようにラーラは棘のある口調でマレイに言葉を返した。