#9

エピソード文字数 917文字

 茶色の袋の底から、ブラックが赤黒い液体が入ったパッケージを取り出し、
「とりあえず二パック」
 そう言って、ヴィーに抱きつかれているケイシーに手渡した。
「これ……」
 ケイシーがパッケージを嗅いでブラックを見上げた。
「ご遺体の血液。凝固しちまってるけど、針さして吸い上げて飲んだら問題ないんじゃないか?」
 いかにもまずそうだというふうにケイシーが鼻にしわを寄せる。
「贅沢言ってる場合じゃないだろう?」
「わかりました……」
 ケイシーが太い針を刺したパッケージに口を付けて、そこから血を吸い上げる。一口飲んで、悲しそうにうなる。
「お、おいしくないです……」
 しょんぼりして首をうなだれた。
「さてと……、今回の依頼主にはなんていうんだ?」
「なかったって言うのかい? そこにあるのに?」
「じゃあ、ケイシーにその指輪をくれって言うのか?」
 ブラックとヴィーの会話を聞いていたケイシーが、
「この指輪は駄目です。僕のものです」
 と首を振る。
 ブラックが肩をすくめる。
「ほらな。それに俺もその指輪に興味がある」
 ブラックが自分のソファに座り、本を取り出して例のページを見せた。
「これに関係する指輪を何も考えずに渡すのはオベロンの秘密を手放すのと同じだ」
「じゃあ、どうするんだ?」
 ブラックがにやりと笑う。
「指輪は見つからなかった」
「ああ……。そうか、石棺は空だったってことだね」
「そういうことだ」
「いいんですか……?」
 不安そうにケイシーが口を挟んだ。
「僕のために」
「おまえのためじゃない。オベロンの謎のためだ」
 ブラックは本を閉じて断言した。
「さてと、問題は妖精の門の場所だな」
「まぁた、金にならない探索か……」
 ヴィーも口ではそう言いながら、気分が高揚してくるのを感じていた。
「まずは、問題の起点に戻ること」
「謎の糸口はそこにある、だね」
 ブラックの言葉にヴィーは続けた。
「エドの言葉だな……」
「兄貴は謎解きが好きだったからね」
 二人の視線がケイシーに注がれる。
「え? な、なんですか?」
 凝視されてケイシーがうろたえた。
「さてと、覚えている限り話してもらおうか」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ヴィヴィアン・ブーリン(通称、ヴィー)


スコットランド・エディンバラに住む、オカルト何でも屋。安いからと言って地下室を借りて住んでいる。ケイシーは居候。

背中に掛かるくらいの長さのまっすぐな苺色の赤毛にヘーゼルの瞳。背は170センチくらい、やせ型。二十一歳。職業無職。高校中退した後、悪友と今の仕事を始めた。友人のブラックはエンバーマーで家業を継ぎ、日頃は葬儀屋をしている。夜はオカルト何でも屋として、ヴィーと依頼された墓荒らしや幽霊屋敷などの調査をしている。とにかく気味の悪いことが大好き。暑がりなので、冷たいもの大好き。死体愛好者かもしれない。(何度も死体と寝たいとブラックに頼んでいる。そのたびにブラックは敬虔に断っている)

メサイア・ブラックモア(通称、死体屋ブラック)


ブラックと呼ばれたがる。信心深い両親に変な名前を付けられたと思っている。自分の名前が大嫌い。小柄168センチで痩せの筋肉質。やや暗い色の金髪。長髪。瞳の色は薄いブルー、興奮すると濃くなる。二十五歳。秀才肌で、エディンバラ大学卒。人文科学専攻。ヴィーの兄と親友だった。ヴィーとは幼なじみ。実家が葬儀屋のため、エンバーマーの資格を持っている。

イアン・ケイス・フィッツロイ(ノーサンバーランド卿)(通称、ケイシー。ケイスは洗礼名)


ノーサンバランド伯爵の最後の一人だが、訳あって毒殺される。庶子。スコットランド貴族。アニックにうち捨てられた墓廟があり、そこに眠っていた。不本意な死によって、無念の死を遂げたためヴァンプ(魔物)として蘇る。

アニックの寂れた納骨堂に安置されていた棺桶から、ヴィーによって蘇らされてしまう。たまたま石棺で怪我した指から流れた一滴の血によって。ヴィーからケイシーと呼ばれる羽目に。眠りについたときケイスは二十六歳。しかし、力をなくしたケイスの姿は十六歳程度。ヴィーにからかわれ、なめられている。

十六歳のケイシーは華奢で背も160センチほど。力を得たケイシーは185センチ、肩幅も広く非常に優美な男に変身。肩までの巻き毛の黒髪に赤い瞳。

ブラッディ・ホットスパー


史実では戦死したとされる。スコットランド王リチャード二世に反旗を翻したせいで、ノーサンバーランドにおける爵位を失うことになる。向こう見ず(ホットスパー)と呼ばれるほどの戦争好き。何度も重傷を負うが、奇跡的にいつも蘇っていた。しかし、それはホットスパー自身が悪魔と契約し、不死身の体を手に入れていたためだった。

オベロン・サークレット


1700年代にエディンバラを中心に暗躍した魔術師。とある魔術書を残して、歴史から消えたが、オベロンの残した秘宝を探すものが後を絶たない。

写本だがその魔術書を持っているブラックも、オベロンの秘術を研究する一人。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み