第2話

文字数 964文字

私は、カウンターキッチンで友人と子どもたちのためにおやつを用意した。

何しろ巨大地震の後は開いているお店も少ないうえに、物流も途絶えてしまっているから、用意できるものも限られてしまうのだ。

今日用意したのは、そんな中でようやく手に入れたとっておきだ。

はい、どうぞ。
うわあ! パンだぁ!
本当だ! すごいじゃない、これ。どこで売ってたの? コンビニは割と開いてるんだけど、パンとか牛乳っていくら探してもないのよ?
実はさ、実家の近くに総合病院があるじゃない? その病院の中に入っている売店に売ってたのよ。きっと普通のコンビニとかと違って、あまり皆行かないんじゃないかな?
じゃあ、私のお土産はこれ! じゃじゃーん。
やだ! これ工場が被災したとか言ってなかった? 家は毎週宅配してもらってたんだけど、震災以降品物が入ってこないって聞いたわよ。
実はさ、乳酸菌飲料が手に入らないってSNSでつぶやいたら、東京に住んでる大学時代の友人が送ってくれたのよ。牛乳も入れてくれてさ。ずっと音信不通だったんだけど、向こうから声かけてくれたの。助かるわあ。ああ、あっちは別工場で作ったものが流通してるんじゃない?
ハイみんな。和室のテーブルの上で食べてね。
子どもたちはうれし気に声をそろえて「はーい!」と返事をした。震災前ならロールパンなんかおやつに出そうものなら、文句を言ったに違いない。だけど今日子どもたちは、パンを食べられることがうれしくてしょうがないらしい。
ごめん。私なにも用意できなかったわ。
何言ってるのよ。アッコんとこはヒデくんまだ小さくて大変なんだし、変な気を遣うことないのよ。
そうそう。お互い様よ。マミは私が旦那と喧嘩して家出した時、黙って何日も泊めてくれたじゃない。
ちょい待ち。私それしらないんだけど!
観月はそのころ、ヒサくんが生まれたばっかりくらいで、忙しかったからね。
そうそう、あの頃は私まだ独身でバリバリ働いてた頃よ。
私たちはお互い顔を見合わせて、笑いあった。

小さな子どもの面倒を見るというのは本当に大変で、当時私は、独身でバリバリ働いているマミがうらやましいなんて思ったりもした。

けれども今は、ヒサももうすぐ小学生で、だいぶしっかりとしてきた。小さな子どもを抱えてこの震災を乗り越えなければならないマミの方が、きっと大変なんだと思う。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

私。こと観月。幼稚園年長さんの息子がいる。中学まで神奈川で育つがその後福島に移り住み福島で結婚。

自宅でピアノ教室を開いていたのだけれど、地震のために通ってこられる生徒さんが激減。開店休業状態に。

今回のお話は3.11の後、少しばかり落ち着いたころ。高校時代の友人であるアッコとマミが、観月の家に集まった時のお話し。

私はアッコ。三歳の息子がいる。出産を機に退職したんだけど、そろそろ仕事を見つけたいなあと思っていた矢先の大震災。外出もできず、職探しも中断中。

私はマミ。娘は小学一年生。事務職をしていたのだけれど、震災のために今は自宅待機中。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色