第2話 絵描きと執筆者
文字数 1,805文字
◇◇◇千鶴が連絡を取る数十分前◇◇◇
「……。相変わらず連絡は来ないか……。せっかく出来のいい作品を、たいあっぷで公開してるのに……」
パソコン画面に空っぽの通知ページを表示させ、まじまじと見つめているのは、フォロワー6千超えのイラストレーター〈白峰琴葉〉。
ポップ画をはじめとしたデザインを得意としている。初投稿したイラストで、フォロワーが集まったが、そのほとんどが絵師。
たいあっぷ成立には、小説の執筆者が必要。でも、そのような人は誰もいなかった。
――ポロロン。
鳴り響く通知音。画面を切り替えて目を通す。サイトページに追加された、申請メール。続くように届くメッセージ。
『はじめまして、八ッ坂千鶴と言います。私のイラストレーターになっていただき、ありがとうございます』
初めて自分の絵に計り知れない興味を持ち、たいあっぷ申請してくれた救世主。彼女……。もしかしたら彼かもしれないが、とても嬉しかった。
「こちらこそ……。はじめまして……。白峰琴葉です。精一杯務めさせて頂きますので、挿絵等で希望があれば、教えてもらえると、とても助かります…………。送信」
声に出しながら慣れないパソコンをタイプする。イラストはノート・スマホ・パソコンの三刀流。必要となる工程に合わせて、細かく使い分けている。
まずはキャラクターの下書き準備。共有項目からキャラリストをひらき、希望の容姿を確認する。
「へぇ~。面白い組み合わせじゃない」
真っ先に覗いた一番下のキャラ設定。その中の髪色には、テンプレカラーではなく、フリー入力欄の〝サフランピンク〟。〝ショートヘアにパーマ〟をかけるという内容。
しかし、自分が描くには情報が少なすぎる。パーマとはいえ絡まっているのか、とかしやすいサラサラパーマなのか? それだけでも表現が変わってくる。
「千鶴さん。このことに関して、詳細を教えてもらえるでしょうか?」
『わかりました』
特に顔を大きく描くと、手入れの有無が生まれるのだから、絶対聞いておいた方がいい。それより気になったのは、千鶴の可愛い獣のアイコンだった。
「千鶴さん。あなたが使っているそのアイコンは、誰が描いたんですか?」
『このアイコンですか? 私が自分で描きました。可愛いですよね』
返信が来たのは、たった数十秒後。あまりにも早いタイプ速度に、劣等感が重くのしかかる。
「たしかに可愛いですね。人物画も描けるのではないでしょうか?」
まずは相手を知ることから。これが重要な役目を果たしてくれる。互いの相性チェックだ。
『それなのですが。私、背景とモンスターしか描けないんです』
なんたる偏りっぷり。画力あるんだから、練習すればいいじゃない。心の中で爆発した、相手に向けての反発心。継続することが難しいのだろう。
きっちり完結してくれるのか、不安で仕方がない。それよりキャラの詳細を聞いて、ノートにラフ画を書かないと‼
ラフ画というのは、色よりも線画よりも重要な試し書き。私はラフ画で相談して、デザインが決まれば線画に書き換えるタイプ。
「はじめに、主人公のラフ画を写真で送るので、少し待っていて下さい」
『了解しました。パーマと書いていますが、一応ストレートもお願いします』
「かしこまりました」
簡単に相談を終わらせ、スケッチブックを取り出し、鉛筆を滑らせる。輪郭・瞳・髪型。文章で簡単に説明できても、入ってくるは曖昧なヒントのみ。想像力が大切だ。
加えて、相手のことを考えながら、依頼に沿った作品にさせるのも、基本の一つ。
「お待たせいたしました。3点ご用意したので、確認お願い致します」
『ありがとうございます。早速見ますね』
画像が確定したら、線画抽出アプリで読み込み、ペイントアプリに登録。デジタル線画を作成する。
完成後にもう一度見てもらって、服の色を相談。希望の色をカラーサイトで検索し、ペイントアプリに導入していく。
「これでベタ塗りは終わりね。あとは陰影をつけていけば…………」
――ポロロン‼
「DM? 何かあったのかしら?」
ダイレクトメールを表示して確認する。そこに書かれていたのは……。
『夜分すみません。やっぱりストレートでお願いします』
今更遅い修正注文だった。
「かしこまりました……。今すぐご用意しますので、少々お待ち下さい」
画面越しのたいあっぷ。二人の主人公が書籍化を目指すという、険しい道の冒険が始まった。
「……。相変わらず連絡は来ないか……。せっかく出来のいい作品を、たいあっぷで公開してるのに……」
パソコン画面に空っぽの通知ページを表示させ、まじまじと見つめているのは、フォロワー6千超えのイラストレーター〈白峰琴葉〉。
ポップ画をはじめとしたデザインを得意としている。初投稿したイラストで、フォロワーが集まったが、そのほとんどが絵師。
たいあっぷ成立には、小説の執筆者が必要。でも、そのような人は誰もいなかった。
――ポロロン。
鳴り響く通知音。画面を切り替えて目を通す。サイトページに追加された、申請メール。続くように届くメッセージ。
『はじめまして、八ッ坂千鶴と言います。私のイラストレーターになっていただき、ありがとうございます』
初めて自分の絵に計り知れない興味を持ち、たいあっぷ申請してくれた救世主。彼女……。もしかしたら彼かもしれないが、とても嬉しかった。
「こちらこそ……。はじめまして……。白峰琴葉です。精一杯務めさせて頂きますので、挿絵等で希望があれば、教えてもらえると、とても助かります…………。送信」
声に出しながら慣れないパソコンをタイプする。イラストはノート・スマホ・パソコンの三刀流。必要となる工程に合わせて、細かく使い分けている。
まずはキャラクターの下書き準備。共有項目からキャラリストをひらき、希望の容姿を確認する。
「へぇ~。面白い組み合わせじゃない」
真っ先に覗いた一番下のキャラ設定。その中の髪色には、テンプレカラーではなく、フリー入力欄の〝サフランピンク〟。〝ショートヘアにパーマ〟をかけるという内容。
しかし、自分が描くには情報が少なすぎる。パーマとはいえ絡まっているのか、とかしやすいサラサラパーマなのか? それだけでも表現が変わってくる。
「千鶴さん。このことに関して、詳細を教えてもらえるでしょうか?」
『わかりました』
特に顔を大きく描くと、手入れの有無が生まれるのだから、絶対聞いておいた方がいい。それより気になったのは、千鶴の可愛い獣のアイコンだった。
「千鶴さん。あなたが使っているそのアイコンは、誰が描いたんですか?」
『このアイコンですか? 私が自分で描きました。可愛いですよね』
返信が来たのは、たった数十秒後。あまりにも早いタイプ速度に、劣等感が重くのしかかる。
「たしかに可愛いですね。人物画も描けるのではないでしょうか?」
まずは相手を知ることから。これが重要な役目を果たしてくれる。互いの相性チェックだ。
『それなのですが。私、背景とモンスターしか描けないんです』
なんたる偏りっぷり。画力あるんだから、練習すればいいじゃない。心の中で爆発した、相手に向けての反発心。継続することが難しいのだろう。
きっちり完結してくれるのか、不安で仕方がない。それよりキャラの詳細を聞いて、ノートにラフ画を書かないと‼
ラフ画というのは、色よりも線画よりも重要な試し書き。私はラフ画で相談して、デザインが決まれば線画に書き換えるタイプ。
「はじめに、主人公のラフ画を写真で送るので、少し待っていて下さい」
『了解しました。パーマと書いていますが、一応ストレートもお願いします』
「かしこまりました」
簡単に相談を終わらせ、スケッチブックを取り出し、鉛筆を滑らせる。輪郭・瞳・髪型。文章で簡単に説明できても、入ってくるは曖昧なヒントのみ。想像力が大切だ。
加えて、相手のことを考えながら、依頼に沿った作品にさせるのも、基本の一つ。
「お待たせいたしました。3点ご用意したので、確認お願い致します」
『ありがとうございます。早速見ますね』
画像が確定したら、線画抽出アプリで読み込み、ペイントアプリに登録。デジタル線画を作成する。
完成後にもう一度見てもらって、服の色を相談。希望の色をカラーサイトで検索し、ペイントアプリに導入していく。
「これでベタ塗りは終わりね。あとは陰影をつけていけば…………」
――ポロロン‼
「DM? 何かあったのかしら?」
ダイレクトメールを表示して確認する。そこに書かれていたのは……。
『夜分すみません。やっぱりストレートでお願いします』
今更遅い修正注文だった。
「かしこまりました……。今すぐご用意しますので、少々お待ち下さい」
画面越しのたいあっぷ。二人の主人公が書籍化を目指すという、険しい道の冒険が始まった。