第101話  お互いの初めて 5

エピソード文字数 3,218文字


 ※


 颯爽と現れた魔樹は俺を見るなりものすごい剣幕で迫る。

 美優ちゃんが泣かされたのを聞きつけ、きっと俺をボコりに来たのだろう。


 最早いい訳など出来ないし、するつもりもない。

 美優ちゃんを泣かせたのは事実だし、悪いのは……俺なのだ。

美優に何をした。答えろっ!

 その時、ふとこんな考えが頭を過ぎる。

 俺が美優ちゃんにやったのは……

襲い掛かった。その後は背後から絞めて……

 何故こんな風に、馬鹿正直に言ったのだろうか?


 分からない。

そうか……分かったよ

 その瞬間、魔樹にぶん殴られると、気持ちいいくらいに吹き飛んだ。


 屋根付きベンチの外まで飛んだ俺は、一発で泥まみれになってしまう。

何が……何が美優に手を出さないだ! ふざけるなっ!

 あぁ。これ以上無いくらいボッコボコだ。

 ガードできる攻撃も、この時ばかりは出来なかった。


 こいつの一発一発が洒落にならんくらい重く感じた。

お前は美優を……穢したのか? 答えろ!

僕は絶対許さない……絶対許さないぞ!

 あぁ。そうか……

 襲い掛かった。って言ったからか。


 だが、襲い掛かったって言うのは事実だし、今更否定するにしても、ボコボコに殴られてるからな。



 もう口も開かねぇ。久しぶりにフルボッコだ。


君を……一瞬でも信用した僕が悪かった。


くそっ! くっそぉ~~~~!

 容赦なく顔面パンチを受けると、俺は何度も泥沼にダイブしていた。



 そんな時、急に俺の聴覚から美優ちゃんの声が聞こえてくるのだった。 

なんで? 何でこんなことに? 


や、やめて!  魔樹っ! やめてください!

どいてっ! 美優! 何故その男を庇うのよ!

違うっ! れ、蓮くんは何もしてない!


ね? 何も……何もしてない!

 あぁダメっすよ美優ちゃん。


 倒れる俺を庇うように……覆いかぶさっちゃうと、あなたが泥だらけになってしまう。


 仕方が無いのでふらふらと立ち上がると、美優ちゃんと離れた瞬間、横腹に思いっきり蹴りがめり込んだ。

魔樹っ!
うるさいっ! こいつは……こいつは絶対に許せない!

 今度は顔面から床ペロした俺は、脇腹を抑えながら立ち上がる。


 すぐに詰め寄ってくる魔樹を、美優ちゃんが後ろから抱きしめて食い止めていた。

もうやめて。やめてよお! お願い……ううっ!
離せっ!

 これ以上殴られちゃまずい。

 こんな場所で意識失っちまったら、もっと状況は悪くなる。

黒澤ぁ~~~! 二度と、二度と美優に近づくな!


この下衆がっ!

 土砂降りの中、俺はフラフラと公園から逃げようとした。

 その時、美優ちゃんの叫び声が聞こえてくる。

蓮くんっ! お、おは、おはなし……わ、わたし……
 ごめん。美優ちゃん。

 今はもう……お話できる。そんな状況じゃないです

な、なかよし。なか……う、うぇ……と、友達……私の……

美優! いい加減にしなさいっ! 

あいつに……あいつに何をされたのか、分かってるのっ?

蓮くんは何もしてない! 何もしないっ!


蓮くんはっ! 友達です! 蓮くんは……

ともう、うぇ~~~~~! うぇ~~~~!

早く帰ろう! こんな男。放っておけばいい
魔樹の……馬鹿っ! お馬鹿! 引っ張らないで!
み、美優!
友達。友達! 蓮くんは……わたしの……仲良し。おともだちぃ……。

 悲痛な叫びを何度も上げる美優ちゃん。

 魔樹も俺も……その様子を見守るだけとなっていた。


 雨の中へたりこんでしまった彼女を、俺は直視できず自然と背を向けていた

なかよく。なかよく……したい。なか、なかよく……

 その叫びに俺も反応する。だけど今の俺には振り返ることが出来ない。

 なぜなら、俺が美優ちゃんにした事に対し、罪悪感で潰れそうだったからだ。


 面と向かって、言葉を発することなんて、出来るわけがない。

蓮くん……蓮くぅん!

 気が付けば、背中に彼女がくっついていた。

 だけど俺の口から出た精一杯の気持ちは……

美優ちゃん。ごめんね……

う、ううぅ……れんく……うぇ。うぇ~~~~~!

 彼女の抱擁が解けると、俺は下を向きながら歩き出す。
 ごめん。



 ごめんなさい美優ちゃん……


 彼女の必死の叫びを背中から受けながら、俺はその場から逃げるように走り出していた。

おかえりお兄ちゃ……ど、どうしたの!
すまん凛。ちょっと寝かせてくれ

 って言っても無理か。


 顔もぼっこぼこだし、おまけに泥だらけで、びっしょびしょ。これ以上無いほどの敗残兵だからな。

何があったの? お兄ちゃん!
まぁ人生色々あるさ。気にすんな。ってか風呂入る

 あぁもう。凛が泣き出しやがった。

 何でお前は……そんな弱いんだよ。

お姉ちゃんに言う。せ、聖奈お姉ちゃんに言うもん!
あっ! 馬鹿! 待てつってんだろ!
お、お姉ちゃんも家族でしょ? お兄ちゃんがこんな……うぇぇ~~!
頼む凛。今日一日待て。これは……俺が解決しなきゃならんのだ

 あいつに本当のことを言ってみろ。

 それこそ……もっと大変な事態になっちまう。



 何とか凛を説得し、濡れ鼠の衣装を脱ぐとさっさとシャワーを浴びる。

いだぁっ!

 くっそ。思い切り殴りやがって。アザだらけじゃねぇか。

 マジくそ痛ぇ…… 

この顔じゃバイトにも行けねぇな。

ってか……もう。行けねぇよな……

 白竹さんは俺の入れ替わり体質を知ってるのなら、どの面下げて喫茶店でバイトできるんだよ。

 俺はそんな面の皮が厚い人間じゃない。



 シャワーを浴びながら目を閉じると、女の身体に入れ替わっていた。かなり早いが、バイトに行く気が無かったので、サイクルなんてどうでもいいと思った。


 鏡を見るとアザだらけの顔に、思わず笑っちまったが。

 ひでーなこれ。女の姿で街歩けねぇよ。


 風呂を出ると、凛がずっと洗面所で待ってたらしい。

お姉ちゃん……?
あぁ。今日はバイトに行かねぇよ。ってかこんな顔じゃ行けないだろ?

 甘えん坊な凛はすぐに抱きついてくる。

 いつもなら裸の楓蓮には、喜んで胸を揉んでくるのに、今日は抱きしめるだけだった。

ちょい寝かせてくれ
僕も寝る
 一人でゆっくり考えたいんだが、ダメらしい。
分かった。この甘えん坊め

 俺はニコっと笑顔で凛に頬キスすると、さっさと自分の部屋に戻る。



 さぁ……俺はこれからどうすればいいのか。そればかり考えていた。


 当然親父からの連絡は無く、思わずスマホを握りつぶしそうになったが、こんな事は一度ではないので、思い留まっていた。



 とりあえず喫茶店に連絡を入れる。今日は出れないと。


 美優ちゃんや魔樹が出れば切ろうと思ったが、運よくじいじが電話に出てくれた。


 急に熱が出てしまって、フラフラだと告げる。

すみません……ごめんなさい
いやいや。構わんぞい。ゆっくり身体を休めるんじゃぞ

 そこで通話を終える。

 じいじの優しい言葉が逆につらい。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

ごめんね。じいじ……本当にごめん

 精一杯の謝罪は自然と声に出ていた。



 そんな時ふと考える。

 じいじは俺の事を知っているのだろうか?


 今話した限りではそんな感じにも思えなかったが、白竹さん一家はどのくらい黒澤家の事を知っているのだろうか。

あぁ。だめだ

 考えるのはよそう。ショックすぎて頭が痛くなる。

 全員知っている。そう思ってた方がいっそ楽だ。



 それにもう……あまり関わりたくない。



 バイトも辞めなければならないし、学校だって……

 どの面下げて通えるって言うんだよ。



 ああっくそ。まだ冷静になりきれてないな。

 考えが纏まらん。とりあえず。一回寝よう。



 サイクルが狂おうがお構いなしだ。


 明日からGWで休みだし、学校も……別に行かなくていいんじゃないか?



 今度ばかりはやっちまった。

 俺の楽しい高校生活は、夢幻の如く。消え去った。



 いつもこのパターンだな。


 楽しい。その絶頂期に限って悪いことが起きやがる。

 

 小学生の時も、中学の時も、いつも……どん底に叩き落されるんだ。

――――――――――――――


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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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