第8話

文字数 1,463文字

11

空は何処までも晴れ渡っている。雲一つ無い。快晴といって良いだろう。
 「いやぁ、こんな事って有るんだねぇ。・・・しかし・・・お兄ちゃん、もっと注意して歩いた方が良いんじゃない?命の恩人に恩を仇で返すなんてさ。それに比べて白金の騎士様は格好良かったなぁ!いつか、俺もああいう風になるんだ!!」
エピは上から目線で、フェーデに話かけている。丁度、生意気盛りなのだから、仕方が無いのだろう。勿論、白金の騎士の正体は秘密である。
 しかし、その様子を見ているアイバァは、内心、苦笑いが止まらない。無論、フェーデの命の恩人と思っている、エピの命の恩人が自分なのだからだ・・・。
 「まったく、その通りだね。もっと気をつけて歩かないとね。」フェーデは肯んじた。
 「そうよ。そのうち、犬も歩けば棒に当たる、フェーデも歩けば因縁をつけられる・・・なんて、落首も詠まれるわよ。」
 「いちいち、うるさいな!!だいたい君が、この店の甘酒は格別だから、普通の店と比べて飲んでみろ・・・とか言うからだろうが!!・・・・そもそも、今日は昨日、連れて来れなかった友人を、連れてくる筈だったんだろ!!その事自体、を忘れてノコノコやって来た、君はなんなんだよ!!」
 まったく間抜けな話であるが事実であった。剽盗や土匪の賞金首を、熟柿首の様にしか見えない三界火宅の職能に就く、この娘は、自由業独特の野放図さが有り、普通の肉体労働で、血税を支払う若者には、理解不能に陥る事がかなり有る。
「まぁまぁ、落ち着いて。ジョークよ。ジョーク。・・・少しは冗談が通じる様になって来たと思ったんだけどなぁ・・・。」
その2人のやりとりに対し、疑惑の眼差しをしながら、エピが口を開けた。
「まあ、キャベツの事は弁償してくれたから、良いけど・・・、お兄ちゃんとお姉ちゃんどういう関係?」
「戦友よ!!共に何度も何度も死線を潜った!!」間髪入れずにアイバァが返答する。
「軽く聞き流してくれ、エピ。また、質の悪い冗談だ。・・・って言うか完璧にでっち上げられた嘘だ。この人のお陰で今日も予定が無茶苦茶だ。昨日の天気より酷い。ハッキリ言って。」フェーデが白い眼でアイバァを睨む。
「ふーん。・・・2人とも仲が良いんだね。」
「なんでそーなる(んだ)(の)よ!!!!!」
「いやぁ、持つべき物は友よねぇ!やっぱり!」
「おい!!何、勝手に話し進めてるんだよ!!迷惑だ!!」フェーデが語気を荒げる。
「あははは・・・本当に単純よねぇ!」アイバァは思う。しかし・・この他愛の無い雑談だが・・・この若者の内面には、自若とした何かが、有るような気がしてならない。
 この若年の女戦士は本能的に何かを、嗅ぎ取ろうとしていた。それが、フェーデの事に興味や関心を持つ、根元の様な物かも知れないのだが・・・どうしてだろうか・・・?。
 「そういやあ、エピ、君は家には戻らなくて、良いのかい?」
 「うん、今日はおじさんが出張で帰りが遅くなるし、おばさんも教会の集会に行ってるから、家に帰っても一人なんだよ。」
 「なるほどね。独りぼっちは淋しいわよね。」この大陸を縦横無尽に踏破した、アイバァは孤独の厳しさは身に沁みている。
 「・・・ところで、俺達はあんたの友人の所に向かってるんだよなあ?」少し前から気になっていた事を、話柄が暗くなりそうになったので、フェーデがアイバァに尋ねた。
 「もう見えて来る筈よ・・・ほら!!・・・あれ!!あの建物!!」
 「あれって・・・」古めかしい厩舎の様である。アイバァの友人とは、馬子か何かなのだろうか?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

フェーデ…記憶喪失の若者。出生から背景から係累から全て謎。ただ、社会通念上の常識は兼ね備えている模様。


ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み