第3話-①

文字数 768文字

私の姉上は大和国(やまとのくに)石榴(つば)(いち)というところにおり、

田辺たなべかねただという商家しょうかに嫁いでいた。

そんなことが・・・・・・豊雄、随分と酷い目に()うたのねぇ。

心休まるまでうちにいなさい。

私は姉上の優しさにすっかり甘えてしまった。

そしてそのまま年が明けてしまい、二月に入った。

石榴つばいちは長谷寺に近い。

長谷寺観音のご利益と言えば、遠く唐土もろこしまで知られるほど。

時節柄方々ほうぼうから旅人が訪れ、みな宿を求めて集まっていた。

姉上はというと、いざ書き入れ時とばかり、

灯明灯心を売るのに熱心だった。

あまりに多くの人が押し入るので、私は気後れしてしまい、

奥へ引っ込んだ。

と、そのときだった・・・・・・

お嬢様、旦那様を見つけましたよ。


耳に覚えのある声がした。

振り向くと、そこに‘まろや’がいた。

あら、ほんとに。
そして、その後ろには・・・・・・
うわぁあああ!

私は腰を抜かしてしまい、

這いつくばって姉上のもとへ・・・・・・

豊雄、どうしたんだい?
あれが、あれがいたんです!
あれじゃわかりませんよ。
ま、真女子です。私を、迎えに来たんだ!

真女子? あぁ、話に聞いた、あの女のことですね?

どこにいるんだい?

あ、あそこ・・・・・・

みな、あれは人に非ず、と言うのです。

姉上は、真女子とまろやをまじまじと見つめた。

まぁ、なんと綺麗なお嬢さんに、可愛らしい童女(わらわめ)ですこと。

豊雄、馬鹿言ってんじゃないよ。これが物の怪だって?

姉上、(かお)(かたち)に騙されてはなりませぬ。

あれに、私はたぶらかされたんです。

可哀想に、幾日も牢に入れられて、

頭がどうかなっちまったんと違う?

旦那様、どうか怖がらないでくださいまし。

真女子がひたひたと寄ってきた。

姉上は怪しむこともなく・・・・・・

さぁ、こちらへ。
奥へ通してしまった。
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登場人物紹介

豊雄(とよお)

真女子(まなご)

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