第3話

文字数 2,029文字

エマがメイク室を出て撮影現場に入ると、クリスティーンとシャーロットの長い見学の1日が始まった。
まずたった数分のシーンの撮影で数時間費やす。
1シーンが終わればまたセット変更などの準備が入る。
テレビの前の劇的で軽快な時間運びはなく、ただひたすらに台本を読み、演技して、耐えるという地味な作業の連続である。
クリスティーンとシャーロットはすでに午前中でヘトヘトになっている。
「こんなに重労働なのか・・・」
二人は学校の机を掃除の時間に運ぶことなどいかに楽な仕事かをこの時初めて思い知った。
すでに12時をだいぶ過ぎてから昼食の時間を迎える。
スタッフの気遣いで、クリスティーンとシャーロットもエマと同じ昼食のメニューが配られた。
「さあ、食べましょ!」
エマは手を叩いて嬉しそうにしている。
3人の手元には3つのサンドウィッチがある。
その3つを見てエマは何かに悩んでいる様子を見せる。
「どうかしたんですか?」
シャーロットがそう尋ねた。
「そうね・・・どれを食べようかしら・・・」
1つ1つのサンドウィッチはそんなに大きなサイズではないものの、3つは流石に多いのかとシャーロットは納得した。
しかし、エマはそのうちの一つを取り上げ、小さくかじり始めたが、サンドウィッチを半分食べたところで手を止めた。
シャーロットが不思議そうに見ているのを感じたエマは、彼女の方を向き、微笑んだ。
「食べる量少ないなーって思った?」
「はい・・・」
「仕方ないわ・・・太っちゃうと仕事にならないし、眠くなるし。これは女優ならあきらめなきゃいけないことなの。もう少し若い時は苦痛だったけど、今はもう慣れたわ!」
シャーロットは数回うなづいてみせた。
一方、クリスティーンもシャーロットと同じくうなづいたが、その振れ幅は少なく、エマの表情に注目していた。

昼食が終わると、エマはスマートフォンで少しゲームをし始めた。
ゲームをしている間、エマは頻繁にあくびをしてみせた。
数分ゲームをした後、エマは立ち上がった。
「さあ、次にいきましょ!」
現場の移動のため、3人は車に乗り込み、別の現場に向かった。
今度はC Mの撮影のようだ。
すでに見学しているクリスティーンたちでさえ疲れているのに、エマは全く疲れた様子もなく、元気よく笑顔でスタッフに挨拶をしている。
「すごいなー・・・」
シャーロットがそう言った。
「そうね・・・私なら、あんなに元気に振る舞えないわ・・・」
クリスティーンがそう言うと、
「クリスティーンはいつも落ち着いてて、元気なイメージはないかも・・・」
とシャーロットと反応した。
何か言い返そうと思うも、『その通りだ・・・』としか思えなかったので、クリスティーンは小さくうなづいた。

一方で、エマはまた新しい衣装とメイクをまとい、さっきまでのエマとは別人のような雰囲気で商品を手に取り、撮影ディレクターの説明を聞いている。
二人はその様子をまじまじと見た。
スパイ映画のかっこいい主人公のようなその姿に二人を黙らせた。
さっきまで隣にいた人がこうもかっこよくなるのかと二人は驚いたのだ。
エマは緊張の様子もなく、淡々と撮影をこなしていく。
全てのカットが撮り終わり、エマの周りからカメラマンが離れていく。
エマは少し肩を落とす。
一呼吸すると、エマは二人の方に歩み寄ってきた。
「今、C Mの撮影は終わったわ!また映画の撮影の現場に戻りましょう!」
二人は『まだあるのか!』と目を丸くしながらも、エマについて行く。
そして再び映画の撮影現場に戻った。
今朝の格好にエマは再び戻る。
二人は本当に007かミッションインポッシブルを目の前で見ている気分になる。
エマはまた元気よく挨拶すると、撮影を再開させた。
夜18時。
この日の撮影は終わった。
しかし、エマはこれからテレビの収録があるという。
そこには関係者は入れないということで、ここで二人は解散となった。
「どうだった?」
エマはそう尋ねた。
「大変ね・・・時間もそうだし、体力的にも・・・」
クリスティーンがそう言うと、エマは深くうなづいた。
「本当よね・・・私もこんな生活が続くって女優になる前から知ってたら、こんな仕事してないかも・・・」
そう言いつつ、なぜかエマは笑顔だった。
エマは笑顔のまま手を振って、次の場所へ向かう車に乗り込んでいった。
二人はあまりの速さに呆気に囚われていると、後ろから車のライトを感じた。
ちょうどよく、クリスティーンの母が迎えにきたのだ。
「ちょうどね!」
クリスティーンの母は車のドアを開けるとそう言った。
クリスティーンとシャーロットはうなづいた。、
「でもあなたたち本当に羨ましいわ・・・写真撮った?あとエマちゃんに使っていいか許可とってもらえる?」
クリスティーンは黙り込んだ。
しかし、母はそれでもめげない。
帰りの道中クリスティーンとシャーロットはクリスティーンの母の質問攻めに合い、さらに疲労が蓄積されることとなった。
結果として、翌日、二人は各自の家で一日中寝ているはめになった・・・・


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