第5話「腸活」がもたらしたもの

文字数 879文字

一日一回、「甘粥」を食べ続けること二週間。
食後の習慣として根付き始めた頃に、トイレから出てきた夫がつぶやいた。
「おなら…臭くない」
ん?なんだって?
「おならが臭くないよ!」
夫の輝く笑顔。

こうじが勝利した瞬間だった。

夫のお腹とこうじの相性は良好だったらしく、お通じも改善、おならの臭いも軽減し、体調を崩すことも少なくなった。
結婚したばかりの頃、夫はたびたび不調を感じては寝込んでいたので、その頃と比べると随分と元気になったと思う。
人と食べ物にも相性があるのだと知り、「その人に必要なもの」を知る大切さを痛感する。
もちろん、必要なものを美味しく食べることができる、これが最善であることも。
何より、「おならが臭い」という夫の悩みを軽減できたこと、それによって彼が笑顔になったことが、私にとっての大きな収穫だった。

「甘粥」との付き合いはそろそろ三年を超えるが、その間にもいろいろと試行錯誤している。
デザートとして食べるだけでなく、料理にちょこちょこ使ったりもしてみた。
それでレパートリーが増えた…というところまではいかないのだが。
料理への苦手意識は、そう簡単に薄れてくれるものではないらしい。
トッピングに関しても模索し、結果私は「甘粥+きなこ」の一択なのだが、この点に関しては夫がチャレンジ精神を遺憾なく発揮しているのだ。
便通の改善を期待して粉末の青汁を入れたときには「あんまり変わらない…」と不満げになり、蜂蜜はお気に入りでよく使うようになった。
練乳にも一時期ハマっていたようだが、しばらくして「おなら」の臭いが復活したため、泣く泣くあきらめていた。
つくづく乳製品との相性が悪いらしい。

人には個性がある。
良きにつけ悪しきにつけ、それはその人を形作るものだ。
たとえその一つが、「おならが臭い」という悩みであったとしても。
結婚してからの私たちにとって、夫のこの特殊な個性は夫婦共通の攻略対象になった。
「腸活」という言葉でくくってしまえば伝わるものではあるけれど、そこには挑戦と挫折、紆余曲折とたくさんの笑いが含まれている。
とりあえず、明日の平穏のために「甘粥」を作ろう。



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