第17話 気まぐれな闘技場4

文字数 980文字

「おおおおおおおおおお」

 歓声。

「生き残ったぞおおおおおおおお!」

再び歓声。

「はっはっは。やったやったんだ俺様。どうよ貴様等。この世にあの速く重い爪と牙に勝てる人間などいないと思い……ふっふはははは」

 観衆もいいぞいいぞと囃し立てる。しかし生き残った男の立ち方は歪だった。何かが曲がっていて、腹には爪の痕があり、胸には噛みつかれた痕があり、その顔には死相が浮かぶ。

 瞬間、ごぼっと血を流して男は倒れた、幾重もの剣槍に串刺しにされた獣のそれにどさりと。

 それをみて、不平不満を零す観衆。

 更に天から声が降った。

「いやいや、皆々様御待たせして申し訳ない。時間の無駄でしたが、予選はこれにて終了とさせていただく。こやつらは所詮、金に目がくらんだだけの闘いの素人。それでは」

 やがて、アナウンスの男がいなくなり、死体清掃も終わって本戦が始まる。

 その内容は聞いていたものとはやや違う非常にあっさりしたタイマンの死合だった。

 予選よりはやや闘い慣れしている者達が自慢の体技を武器に戦う。勝つもの。負ける者。

 降参する者、死する者。

 特筆すべきもない戦闘が特別騒ぎ立てて取り行われている。

 観衆は盛り上がっていたが、正直、彼、としては予選の方が遥かに心がざわついたに違いない。

 彼女は、そう思った。

「おい、出番だ。早くしろ」

 生きるために稼ぐ。稼ぐためには、表の仕事はない。

 結果顔を隠して参加でき、銭にありつける可能性のあるのはここだけだった。

 扉に手をかける。少し開けるとつんざくような歓声が耳を叩いた。

「さあそれでは! 傭兵崩れの大悪党。今仕合最大の大穴。当闘技場スタッフでもあるサルマンこと死神の魔手に対するは! あの今噂の災害の権化。数々の人々を混乱に陥れてきた感染者。魔法を巧みに操り、時に暴走する死の使い魔喰い! そう、なんとあの魔喰いだ!」

 騒ぎが、急に止んだ。

 魔喰いの一言が出た瞬間、怖いもの好きで治外法権でルールの外で生きている地下闘技場の観衆でさえ止まった。

 でも彼女はなんともなかった。

 いつものことだった。

「むしろうるさくなくていいかな」

 フードの下の髪をかき分け、乾いた唇を舌で拭い、なんてことのない表情で扉を開け闘いの場へ。



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登場人物紹介

後々記載するにゃ

実は前に出した分を削除してしまったので再投稿にゃ

因みに吾輩は作中で喋る猫として登場するにゃ

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