混沌の山:3

文字数 1,832文字

眩い輝きは徐々に収まってきた。
真っ白だった私の視界も戻ってきて……
やがてロッジの壁も床も、全てがもとのままになった。
私の身体も光っていない。
いったいなんだったんだろう?
そうだ!!
郷たちは!?
私の前にはリリが作りだしてくれた画面ももうない。
外の様子を知る術はなかった。
光が爆発するかのように輝くまでは外のことがまるで私の中に入ってくるように感じたのに……
輝いた瞬間から私の頭も真っ白になって、気がついたら光は収まってきていた。
子供達は相変わらず寝息を立てている。
そのときロッジのドアが開いた。
そこには郷とリリと白神先輩が立っていた。
「終わったぞ」
郷は一言いうとロッジの外を見るように促した。
出てみると原っぱには化物の姿はなく、園長夫妻をはじめとしたラマシュトゥに吸収された人達が倒れていた。
「気を失っているだけだよ。間もなく気がつくだろう」
「念のために記憶はちょっといじったけどね」
白神先輩とリリが言った。
「みんな無事なのね…ありがとう…ありがとう!!」
嬉しさのあまり涙がこみ上げてきた。
みんな助かった。
郷もリリも白神先輩も無事にこうして私の目の前にいてくれる。
そのすべてが嬉しくて堪えることだ出来なかった。
「礼には及ばねえよ。全部オマエがしたことだしな」
「えっ」
「なんだよ?美味しいとこ総取りのくせに覚えてねえのか?」
なんのこと?
首を傾げた私に郷が呆れたように言う。
「もしかしてあの光と私が関係あるの…?」
「関係あるもなにも、あれが“主”の力よ」
「あれが…?」
「そう。あれだけのエネルギーなのに悪霊以外には全く作用していない。私達があんな力を放出したらこの辺一帯消し飛んでるわ」
リリが原っぱと向こうにある森を指しながら言った。
「私は…わからないの。ただ、あのとき祈ったわ。みんなが無事に帰ってきて欲しい……こんな戦い終わって欲しいって…そうしたら急に私の体が光りだして、壁や床も光って…… 光がすごいことになって目の前も頭の中も真っ白になったの」
三人は黙って私の話を聞いていた。
「でも、その直前まで不思議とあなた達のことは見えたの。見えたっていうか感じたっていうか……郷が危ないときも…… 」
「ここにいながら外の俺達を全部感知してたっていうのか?」
郷が聞く。
「それだ」
白神先輩が言った。
「マリア。今の力こそ“主”の力。願いを、思いを結果にする宇宙で唯一の力なんだよ」
「思いを結果にする…」
「ああ。だから宇宙を創りたいと思えばそれが結果として実現する」
「じゃあマリアはもう主として覚醒したの?」
リリが郷と白神先輩の顔を見比べながら聞いた。
「感じない… 今のマリアからは何も感じない」
「オイ?どういうことだよ?」
郷が聞く。
「偶々、偶然に発動しただけだということだよ。マリア自身も自在に扱えないということさ」
「じゃあ私はまだ神様になってにっていうこと?」
「そうなるね」
私はまだ人間のままだった。
「とんだ期待外れね」
そう言うとリリは人間の姿に戻った。
「あれ?どうして人間に戻れるの?」
たしか郷と白神先輩は一度本体に戻ったら人間の体にはなれないと言っていた。
「この人達は人間になるために、その身体に同化したの。私は単に変身してるだけ。その違いよ。レントゲンでも撮れば一発で私が人間でないってわかるわ」
はあ… そういうことか。
「まあ、なんにせよ皆が目が覚めたらハイキング再開かな」
「またガキのお守りかよ?」
白神先輩の言葉に郷がうんざりしたように言った。
「私はそこまで嫌いじゃないかな」
リリが私を見て言う。

私達はみんなの目が覚めるのを待ってからご飯にした。
みんなは悪夢のような戦いを全く覚えていなかった。
ご飯を済ませてからさらに歩いて頂上に登った。
「うわ―!スゲエ!」
「綺麗!!」
山の頂上から子供達が口に出す感嘆の言葉。
私たちの眼下には緑の森と澄んだ川、青い空が広がっていた。
この下に私達の暮らしている街がある。
私はこの美しい風景を心に刻んだ。
感動した。
美しいものを見れるこの世界に。
この瞬間、私達は幸せなのだと。
美しいものを見て「美しいと感じる」ことができる幸せ。

その四日後だった。
再び黒い雨が降ったのは。
私達がハイキングで行った山は……
あの自然は四日後には無残にも破壊されてしまった。

黒い雨によって。

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