第17話  押忍! 龍子さん

エピソード文字数 3,691文字

え? 今日。ですか?

うん。すまないけど、出れるようならお願いしていいかな?

忙しくて困っちゃってて

分かりました。急いで準備しますね

 ピっ。と通話を切ると、俺は急いでバイトに行く準備をしていた。

 ただいま午後六時過ぎ。さきほどの会話はじいじである。



 どうやら人が足りないらしくヘルプして欲しいとの事だった。

 本来なら出勤日ではないが、お願いされてしまっては行くしかない。


すまん。今からバイト行ってくる
えぇ~~! 今日は休みだからクエストやってくれるって言ったじゃん!

ごねる華凛。しょうがねぇだろ?

クエストはまた今度手伝ってやるから、勘弁してくれ。

髪の毛を括り、外行きの準備をする間も、華凛からのブーイングが鳴り止まない。
親父にやってもらえよ。もうすぐ帰ってくるから

無理だよ! お父さんじゃ全然戦力にならないし。役に立たないもん!


お姉ちゃんじゃなきゃクリアできないよっ!


散々な言われようだな。

確かに家族でソシャゲーをやってるが、親父の下手糞さには脱帽するぜ。


だけど誰も居ないよりマシだろ?

明日やってよ! 絶対だからね。イベントは明日までなんだから
はいはい

華凛はソシャゲーの達人である。

とんでもなく上手だが、俺の方が上手いと断言させていただく。


二人でやれば大抵のステージはクリアできるからな。




そんな会話をしてる間に親父が帰ってきた。

丁度いいタイミングだ。ごねる華凛は任せたぞ。


おかえり。ちょっとバイト行ってくる

【黒澤 玲斗】

ああ、気をつけろよ。

ってかお前ら……服をそこらじゅうに脱ぎ散らかすなよ。洗濯籠にちゃんと入れろ

親父だって一緒じゃねぇか。

乳出したままウロつくお前よりもマシだっつーの

これが黒澤家の会話。俺は親父にもタメ口である。

【黒澤 玲斗】

ったくお前は……華凛も下着姿でウロつくなよ。


ちゃんとパジャマを着ろ

だってお風呂上りだもん。それよりもお父さん。ご飯してよ。お腹すいた
ソシャゲーしながら要望を伝える華凛に、げっそり顔の親父だった。

【黒澤 玲斗】

おいおい! 俺は疲れてんの! 今帰ってきた所なんだから、ゆっくりさせてくれよ。


おい楓蓮! ラーメンでも作ってやれ

残念だが。もう出かけなくちゃならん。そのくらい親父がやれよ
お父さん。味噌ラーメン 。卵入れてね

【黒澤 玲斗】

もぉ~~~しんどいんだって。疲れてるんだよ!

がんばれ親父。

お前が居ない間、華凛の世話は俺がやってるんだぞ。

足の裏が痛くて歩けねぇ……もう一歩も動けねぇ。


か、かれ~~ん! ヘルプミぃー味噌ラーメンプリーズ

嘘つけ。ってか、いつの間にか女に入れ替わりやがって。
分かったよ。そんかわり華凛のクエスト手伝ってやれよ

じゃあラーメン。俺の分もお願いっ!


あ~あ~~~っ、かれんはとっても優しきおんなのこ~~~♪

くっ……こいつ。

最初からそのつもりだったろ。


ソファーに寝転がる親父。というかおふくろと言った方が正しい。


しかも女になってるのに薄いシャツ一枚で、トランクス姿。そんな風景をいつも見てるから、子供が皆同じようになっちまうんだよ。


しょうがないのでラーメン作ってから行くか。

どうでもいいが、でかい乳の中心が浮き出てるから。何か着ろよ! ったく!




ささっと味噌ラーメンを二人分作ると、親父と一緒にソシャゲーをやってる華凛のクレームが聞こえてくる。

だから突っ込んじゃダメだって。

お姉ちゃんいないから回復できないのっ!  ああもうっ逃げ回って!

ちょ。待って。何だこいつは……あっ。


何か飛んできたぞおいっ! え? 何このダメージ。痛すぎじゃね?


あ、し、死ぬぅ~~~!

ああっもうっ!

みんな生きてないと、次のステージ進めないのにぃ!

すまん華凛。ワンモアチャンスをくれぃ!


まぁ親父はヘタクソだけど、時間かけるとちゃんと順応するからな。


俺はテーブルの上にラーメンを運ぶと、ソシャゲーに夢中な二人に「行ってくる」と告げる

準備が出来た俺は家を出る。


家でのキャラと、外でのキャラを切り替えて、喫茶店へと向かうのだった。

いらっしゃいま……おぉ、楓蓮ちゃん!
すみません。遅れました

喫茶店に入ると、じいじには手短に挨拶を済ませる。


忙しいのはすぐに分かった。

店内はやたら客が入っており、魔樹もじいじも走り回っていた。



これは挨拶より先に着替えたほうが良いと判断した俺は、さっさと更衣室に入る。

急いで服を脱いで、背中のボタンを無視して、カチューシャを装備すると、そのまま店内へと出陣した



慌しい店内で誰に付くのかを考えるよりも、手を上げる客へと駆け寄り、注文を聞きオーダーを通す。




俺はそれしか出来ないからな。

だが、出来る事は出来るだけやらないと。



じいじも魔樹も白竹さんも、入れ違いに挨拶と感謝をされる。

後はもう無心で注文受け取りマシーンへと変貌するだけだ。



俺がオーダーや配膳を出来るや否や、じいじが厨房にヘルプしに行く。

表では魔樹と俺が客の対応をしていると、ようやくオーダーが満遍なく行き届いてゆくのであった。



助かったよ。ありがとう楓蓮さん
いえいえ。たまたま暇だったんで……良かったです


そういえば……何で魔樹が客の対応をやっているんだ?


お前は厨房担当で、白竹さんが客の対応するのがセオリーじゃねぇの?



それを聞こうとすると客に呼ばれてしまい、そこから再び戦場と化していた。


客が帰った後でも、次から次に客が入ってくる。

そんな時、ふと厨房から出てくる白竹さんに一声掛けていた。

白竹さん! ちょっとすみません。背中のコレお願いできます?
あはっ。まだ付けれない?
そうなんです。背中のボタンを付けようとすると、多分めちゃ時間が掛かると思うんで。
覚えようとしても中々手強くて
ごめんなさいね。慌しくって……はい。出来ましたよぉ
ありがとうございます!

元気よく挨拶すると、ニコニコしながらクネクネしだす白竹さん。あぁそれを見ると癒されるんですよ。



それなのに、今日の魔樹はクールだな。


初日に見せたオネエ系など微塵も感じさせず、的確にオーダーを通すと、やたら素早いし、顔だってずっと真剣そのものだった。




そんな魔樹をぼーっと見ていると、その時喫茶店に入って来たのは……

遅れてすんません!

おおっ。龍子さんじゃないか。

相変わらずの教師風なスーツでガーターベルトも変わってない。

あっ。龍子さんも来てくれたんですね
と、魔樹が駆け寄ると龍子さんは「すぐ着替えてきます」と言って俺と同じように更衣室へとダッシュしていた。
ふぅ。何とかなりそうじゃな
いつの間にか横にいたじいじがそう言うと、俺もうんうんと頷いていた。
こんなにお客さんが来るなんて。じいじもさ、もっとアルバイト入れないとヤバイよ
と魔樹。ちょっと怒ってる感がある言い方だった。

わかっとるわい、だけど中々募集が来ないんじゃよ。


困ったのお。麻莉奈(まりな)も帰って来ないし……

ぶつぶつ言いながら両手で頭をおさえるじいじ。


しゅんと落ち込むその姿はちょと可愛く見えるのだった。

お待たせしました

龍子さんが着替えて出てくると、俺の時と同じように白竹ファミリーから感謝されていた。

そして魔樹も厨房へとシフトすると、俺と龍子さんが最前線で戦う事となった。


龍子さんとバイトするのはこれが初めてである。

楓蓮さん。ちょっとすみません。この背中のボタン。つけてもらっていいですか?
……はいっ!

これね。難しいんですよ。一人で付けれなくて


ぜってー無理って位置にあるし

ですよね? これ絶対一人で無理だと思うんですよ。

何か龍子さんって……俺に似ている部分が多いよな。

バイトに来てからの対応も一緒だし、ボタンだって全く一緒じゃないか。

楓蓮さんは今日で何日目でしたっけ?

二日目ですね。

龍子さんは? 昨日出てたんでしたっけ?

うん。そうそう。じゃあ楓蓮さんと一緒ですね

などと話している内に、客から「すみません」と呼ばれると、二人とも与えられた仕事をこなしてゆく。


特にヘルプする事無く、俺と龍子さんで客の対応をしていると、ふと気が付いたのだが……



龍子さんもやたら気合が入っているのか、素早く動きやがるじゃないか。

俺も負けじと、出来る女を見せ付けるべく、店内を動き回る。



バイトを始めた時期が一緒なので、龍子さんには妙なライバル意識があるというか、そんな気持ちがメラメラと燃え上がるのだった。




そう。俺はとんでもなく負けず嫌いなのである!




最終的にちょっとしたオーダーの取り合いに発展したり、配膳の取り合いになったり、険悪っぽい雰囲気も漂ったが、それは忙しい時に限る。



龍子さん。素早いっすね
いやいや。楓蓮さんもやりますね
私はがむしゃらに動いてるだけですよ。とにかく必死でやるだけです
俺達これしか出来ませんからね
え? 今、俺って言いました。よね?
うんうん。龍子さん。一緒に頑張りましょう
押忍!

ちょ! 押忍って……


この人結構面白いじゃないですか。


なんとなく男口調なのも、俺を妙に落ち着かせると言うか……

仲良く喋るのは仕事以外の時だけでいい。


とにかく……同期である龍子さんには負けてられん!

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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