第二一話 この道の遙か彼方
文字数 1,756文字
でも魔王って、勇者の話によれば、既存の秩序の破壊者なわけでしょう? つまり、そんな教皇庁までぶち壊そうとしてるんでしょうね。大銀行の頭取ほどの権力者ともなれば、教皇庁や神の真相だって知ってるんだろうし、教皇庁との結託を企んだ形跡はないから……魔王は本当にこの世界を変革しようとしているわけよ。
破壊工作が私の任務だもの。まして、敵が魔界をまとめるほどの意志と能力と資金力を持った大敵となれば、教皇庁の歴史上最高のプロフェッショナルと謳われた私を送り込むのは当たり前。
……でも、まさか私に少しは匹敵するかもしれない戦闘員が他に存在しているとは予想外だったけど。それが私より若いなんて……そこが悔しい……。
軍団を相手にしたときの殲滅力では私のほうが正直かなり上だけど、一対一なら勇者のほうが少し上なのよ……。一対一で私が劣るその理由は結構シンプルで、アンタのほうが足が速いのよね。だから私が単体の敵と当たる前に、相当な戦闘力を持ってるアンタが勝手に倒してしまう。魔王戦のときに、そのことを見せつけられたわ……。しかも腹立たしいことに、私より2歳も若い……ぐむむ……。
私には僧侶さんと張り合うつもりなんてありません……! 魔力でも打撃力でも、私では僧侶さんに敵いませんし!
……とっ、とにかく、武器屋『ドリームアームズ』を経営して、生き残りのために必死で動き回りはじめたことで、いろいろ世界の構図が見えてきたように感じます。人間の世界には陰謀がそこかしこにあって、ややこしくて複雑で、でもでも、その究極はみんな利益を追求してて意外とシンプルなんだなって気もして……あの、その、上手くまとめられないんですが……。
私たちも、何か世界を変えるような戦いに挑みたいですね。ちょっと前までは、魔王さんを打倒して世界に平和を取り戻そうって戦ってきましたが、どうもそれは違うような気がしてきました。別の方向から、一人でも多くの市民さんたちに幸せを用意してあげられるような何かがあるといいんですが。
武器屋『ドリームアームズ』で思い悩んだおかげで、少しずつ見えてきているのは事実です。今まで深いことは何も意識せずに生きてきましたけど、こんな風に人生が転がってきたおかげで、真実に近づいているような気がするんです。だから私たちは、今は必死で、ひたすらこの道を進んでみましょう。
この先には、きっと光が――
それなりに楽しけりゃ、先々もこのパーティーでやっていくことに不満はないさ。一時はどうなることかと思ったけど、これはこれでアリなんじゃねーか? 自分の人生をギャンブルの賭け金にしてみるってのも、なかなか味があるもんだ。