縁胡桃(えんぐるみ)

文字数 389文字

都会に出稼ぎに出る子もいないような小さな村“ゆかり村”で、村特産の胡桃が栽培されていた。

ある日、観光客が村に訪れ、直売所で胡桃を齧った。
「故郷を思い出すような味だ…母さん、元気にしてるんかなぁ」
すると翌月、なんと家族ぐるみで村に移住し、胡桃を栽培したいと農家に懇願した。
又ある日、市長が視察で訪れた際、胡桃がふるまわれた。
すると翌週、特殊納税の返礼品として胡桃が猛プッシュされた。
又又ある日、政治家が選挙活動で訪れ、帰りに市内のデパートで胡桃料理を食べた。
すると翌日に、その秘書が買い付けにベンツに乗ってやってきて、大御所への手土産になった。

村ぐるみで栽培していたはずの胡桃は、気づけば市ぐるみ、国ぐるみで栽培され海外にも渡り、
一部の発展途上国の貴重な食糧源にもなって国民の飢えを支えている。

こうして村では名前もなかった胡桃は“縁胡桃”の愛称をもらい、今も世界中で愛されている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み