#8月11日限定1日で5詩書いてます

文字数 576文字

-— 夏 —-


なあ、蟋蟀、少しは静かにしてくれ
まだこんなに暑いんだから
まだこんなに夏なんだから

暦の上では秋だって?

俺の夏はまだ始まっていない

(No.1)



熱に揺れる道路の先に
踏切が上がって走り出した
汗に蒸せるシューズなんて
全く気にもしなかった

追いついた僕を見上げる君の丸い瞳も
ホームで聞いた騒がしい蝉の声も
そこに紛れる君の気配も
塗り替えられた駅の柱のその奥の
錆びた鉄柱にまだ残っているだろう

(No.2)



言葉は現象を残す
言葉は記憶を写す

言葉に永遠を望み
言葉に刹那の夢を託す

終わりを知ったその時から
僕らは言葉を必要としたのだろう
そしていつかそれもまた
砂の城のように風が運び去るのだ

今年も永遠のような夏が終わる

(No.3)



例えばそれは
ふと目覚めた時の蒸した空気
その中をそっとやってきて肌をなでていく風
目を射抜く電柱の灯
重い雲が流れゆくその隙間の小望月
忘れられた扇風機のタイマー
何処かからちりーんと風鈴
横から君の寝息
瞼の裏の花の色

僕は満足して世界の底に沈む

(No.4)



過ぎていく夏
残っている夏の暑さを語る

過ぎ去った
去年の夏の暑さを語れるか?
いつだって
そんな言葉は持っていない

今年もまた
夏の始まりも夏の終わりも知らぬままに
また
言葉を失うだろう

(No.5)



(Twitter 企画に参加して—No.5は過去作の改編ですがこれを出したくて参加したのでこちらでも載せます)




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