一から勉強し直して来い

文字数 681文字

 周囲の学生達は俺の顔をジロジロと見ていた。
 明らかに40過ぎの男が、大学1年生向けの「共通科目」を受講しに来ているのだから。
 いや……俺が書いた一般向けの新書の中には俺の写真が載っているモノが有るので、俺が誰か判る学生も居るかも知れない……。
 気が重い……。
 俺は……ある研究機関に所属する研究者……大学なら准教授相当だ。
 そして、うっかり、twitterの鍵アカで、別の分野の女性研究者を「ブス」「フェミ婆ァ」だのと書いてしまった。
 ……実は、鍵アカと言っても、俺の書き込みを見る事が出来るヤツは数千人も居た。早めに気付くべきだった。そんな状態で「鍵アカだから何書いても良い」とか勘違いしてたら、遅かれ早かれ、誰かが不快に思うtweetをしてしまって晒されるに決ってる事に。
 俺のtweetが炎上した事は勤務先にも知られ……そして、ある大学で行なわれている「ネットリテラシー」と云う科目を受講して来い、と命じられたのだ。
 もちろん、ここで云う受講とは、試験や実習を受けて合格する事まで含む。もし、受講した結果が「不可」だった場合は……。
 もし……受講結果が「不可」だった場合は……。
 「不可」だった場合は……。
 場合は……。
 更に気が重くなった……いや……それどころじゃ済まない。
 担当の講師が教室に入って来た瞬間、俺の体は震え出し、全身から脂汗が流れ出した。
 パニック障害とは、こう云う状態の事なのだろうか?
 講師も俺の方を見た。教室に俺が居る事に気付いたらしい。
 冗談じゃない……あの「ブス」の講義を受講して……しかも「合格」しなきゃいけないのかよ……。
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