第4話 4/4 

文字数 1,587文字

 野口博士は部屋から研究室に戻ると、そのまま浜田の席に向かた

「日本政府による検疫での阻止率を調べるように、ホプキンス大の予測では70パーセントらしい」
「私も調べてみました、シンガポール大付属微生物研究所ではオリンピック期間中の阻止率は70から75パーセントとの予測です、あとでリンク先アドレスメールしておきます。ほぼ同じ結果です」
「予想以上に不味いな、感染者から2割以上のウィルスが持ち込まれることになる」

「良いニュース二つと悪いニュース二つを見つけました、」
「良いニュースから訊かせてくれ」

「一つ目のニュースは、アフガニスタン政府は、λ(ラムダ)型の変異型ウィルスが発見された、街の半径10kmの区域を物流を含むロックダウンすることを決定しました。さらに50km圏内は物流の搬入を認めるが人流を完全に禁止するレベル2のロックダウンを行うことを決定しました。一部首都のプノンペンを含みますが、アセアン共同体から3億ドルの協力金を受け取ることで、同意したようです、軍と警察の全面協力の約束も取り付けています。これでラムダ型の変異ウィルスは東南アジアでは拡散する可能性は非常に低くなりました」
 そこまで言うと浜田は、ファイルを指さすと、「数日中に整理しておきます」と言った

「二つ目は、南米で広がっているラムダ型ウイルスに特化したRnaワクチンの試作品がアメリカとドイツの製薬会社で完成しました、理論上安全性は問題ありませんので、すでに量産体制に入っているそうです、ブラジルで効果試験を2~3日中に始めるそうです。今回発見されたラムダ プラス、にも間違いなく有効でしょう」

「悪いニュースを訊かせてくれ」

「カンボジアのロックダウンですが、オリンピック関係者は特例で免除されています、専用バスと航空機のチャーター便を利用することで一般のアセアン国民とは完全に遮断することが可能になりますので、アセアンは特別に許可したようです。
 それと新しくできたワクチンですが、EU。アメリカともに輸出を禁止しました。来年3月まで日本に入ってくることはありません」
 浜田は窓の外に見える駅から出てくる帰宅途中の大勢の市民が、院生のとき毎日見ていた、モルモットの大群と重なって見えた。

「カンボジアから選手団が来日するのは何日後だ」
 野口は事務員の小日向に尋ねた。
 小日向はPCでカンボジア選手団の到着日時を検索して野口の方を向いて答えた
「選手団は二日後16時到着予定です、PCR検査で全員陰性と判定されれば競技団体ごとに分かれて、受け入れ協力自治体に向かうことになります。おそらく明日には関係者の一部と報道関係者が数十名まえのりで成田に到着すると思います。」

 浜田は博士に尋ねた
「政府に頼んで、今日中にカンボジア政府と交渉して到着を遅らすことはできませんか」

「選手団の予定を変更依頼するには、事前に文科省・スポーツ庁、厚労省・検疫、それに法務省配下の入局管理局と事前に打ち合わせを済ませた後、外務省に依頼しカンボジア政府と打ち合わせをしなければならない、不可能だ」

「かなり危険だな」
 博士のあきらめにも似た言葉に浜田は答えた
「はい」

 明治政府は一省庁の独裁を防ぐ名目であらゆる決定を単独で行えないようにしてきた。しかしそれは建前で、なにかトラブルが起きても誰も責任を取らなくて済む政策でもある。それは為政者に都合がよく、このシステムは戦後も変わらず続いた、何度か政権交代があったが特定の省庁や個人が責任を取らなくて済むというシステムを変更しようとするものはいなかった。
 但し防疫など緊急対応が必要な事態が起きたときは、最悪の足かせになる。

 二人の浮かない顔を見比べた後、事務の小日向が言った
「大丈夫です、日本は島国です万が一のときは、日本列島を封鎖すればアジアにも世界にも迷惑をかける心配はありません」





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浜田

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