第1話 目覚め

文字数 796文字

 始まりは新入生宿泊研修の際に起きた事故であった。
蘭! 蘭っ! しっかりして!
……
 川で行われていたカヌー体験中に、常盤蘭が溺れて意識を失った。
起きて蘭!
 友人の山口千代見が叩いて呼びかけるも、返事はない。

 呼吸もしていなかったのか、胸骨圧迫(心臓マッサージ)を始める。

お願いだから息をして!
 その光景を見て、
代わろう。

胸骨圧迫は強く早く確実に、絶え間なくやらないと駄目だ

 カヌーガチ勢で半裸の地主梅辰(じぬしばいたつ)と、
これ人工呼吸の手引き。

技術とその意思がなければやる必要はないんだけど

 ジャージ姿で見学していた音雅竹(おとまさたけ)が動いた。
見せて!
 差し出されたスマホを取り、千代見は食い入るように見る。
ふんっふんっ……
慣れてるようだけど、人工呼吸はできないのか?
やったことはない。

そういうおまえは見ているだけか?

先生に報告したさ。それと救急車とAEDも頼んである
……技術がないのはお互い様だが、彼女は俺よりも強い意志を持っている
非科学的だけど違いない
それに胸骨圧迫(こっち)のほうが俺向きだ
確かに適材適所か
 覚悟が決まったのか、千代見が人工呼吸へと動く。

 気道を確保してから鼻をつまみ、マウスツーマウス。

ふー……ふー……
 2回ほど息を吹き込んでから、
ふんっふんっ……
 30回胸骨圧迫を行う。
ふー……
 そうして再び人工呼吸へと移り――
次、代わろうか? 

手引きには1~2分毎に交代したほうがいいって書いてあるけど

問題ない。

悪いがおまえに代わったほうが質が下がる気がする

違いない
 自分の細腕を見てから、雅竹は自嘲する。
――蘭っ!
 ――と、どうやら意識が戻ったようだ。
っほっ……げっ……
よかった! よかった……!
 千代見は泣きながら抱きしめる。
……千代ちゃん
 応えるように蘭も泣いていた。
 
 
 その光景を見て、2人の男子は思うのだった。
(なんかイイ。混ざりたい)
(尊い。ずっと見ていたい)
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