第三話
文字数 8,683文字
そんな衝撃的過ぎる出来事から一夜明け、あたしはいつもと変わらない朝を迎えた。
いつもの様に兄に叩き起こされ、朝食を詰め込み弁当を鞄に詰め込まれ送り出される。これが皐月家の朝の風景である。
「ちゃんと真っすぐ学校へ行けよ?喧嘩はするなよ。」
「は~い。」
兄にいつもと同じ台詞を言われ家を出る。春の爽やかな風が吹いて気持ちが良い。
そう言えば、四月も終わりに近いんだっけ。もう少し行けばゴールデンウィークだ。
普通ならワクワクするだろうこの時期、あたしはいつもにも増してどんよりとしていた。体が重く苦しいのだ。
ああ、体質的なものって今じゃ諦めているけど……
それに加え昨日の変な
約束
のせいで寝不足気味。それが気怠さに更に負担をかけていた。最悪だ。「はぁ~……面倒臭い事になったなぁ…」
あの時
は無理矢理押し切られ頷くしかなかったけど……。どう考えても胡散臭すぎる!あの如月紫乃という祓い屋は!!そ、そりゃ……。あの人爽やかな笑顔がとっても素敵なイケメンお兄さんだし、人気の作家先生でもあるみたいだし?寄って来られて悪い気はしないけど。
い、いやいや!!何を考えてるんだあたしは!!あの顔と雰囲気に騙されてはいけない!!
イケメンでも
あんな
恰好の人怪し過ぎる!!「……でも、近づかなければ真相には迫れないって言ってたなぁ。お兄ちゃん……。」
刑事だった頃の兄の言葉をふと思い出すと足が止まった。
真相って……なんかそれはとても恐ろしく面倒臭そうだなぁ……。
ズシッ…
「うっ!?」
突然肩に感じる重み。これは憑いている霊の重みではない。リアルな方の重みだ。ちゃんと目に
視えるもの
の。「にゃん…」
「ね、猫?」
あたしの肩の重みの正体は黒猫であった。それも琥珀色の綺麗な瞳をした中々の美猫さんだ。首輪をしているから飼い猫の様だけど。
「びっくりさせないでよ~……!!」
「にゃっ…」
あたしの言葉に首を傾げまた一声。それはまるであたしの言葉が解っている様に…謝っている様にも見えた。
「はは、まさかね……。」
「にゃん?」
「はは、お前可愛いね。人馴れしてるのかな?ほれほれ。」
黒猫って賢くて警戒心が強いって聞いた事あるけどこの子は違うみたいだ。
あたしがのど元を摩ってやると気持ち良さそうに目を閉じゴロゴロ喉を鳴らしてくれる。やっぱり猫は可愛い。凄く。
「琥珀、こんな所にいたのかい?」
びくっ!!
こ、この声は………
肩をびくつかせ振り返ると、そこには妙な和装のお兄さんが一人。あたしの憂鬱の原因の一つ、謎の祓い屋さんの紫乃さんであった。
この猫ちゃん、紫乃さんの愛猫ちゃんだったのか……。
「さっそく珠ちゃんに懐いてるね。ははは、仕方ない子だなぁ。」
「琥珀ちゃんって言うんですね……。可愛いです。」
「ああ、正確には『琥珀君』だけどね。可愛いだろ?」
「はい、イケメン猫ですね。」
ちょっと肩は重いけど。成猫だし。
あたしを見てあの爽やか過ぎる笑顔を浮かべる紫乃さんは、どう見てもイケメンの好青年にしか見えない。この服装を覗けば。
「……今日は普通の袴姿なんですね。」
「ああ、今日は少し暖かいからね。こら、琥珀。そろそろ降りなさい。」
「……」
昨日の恰好は黒のハイネック…今日は普通に白の着物に渋めの緑色の袴姿。神社の巫女さん…いや、男性なら確か
「紫乃さんは洋服は着ないんですか?」
「普通の服よりこっちの方が落ち着くんだ。あとはほら、雰囲気にもね?」
「祓い屋さんの?」
「そう。スーツ姿よりはこっちの方が信憑性があるだろ?」
「……確かに。」
どっちにしろ胡散臭い事には変わりないんだけど。
紫乃さんの言う通り確かにスーツ姿のイケメンが『祓い屋です』と言われるより、この姿で『祓い屋です』と言われた方が信じられる気もするけど。
目の前で黒猫を抱っこして微笑む紫乃さんを見ていると、なんだかまた憂鬱になって体の重さも増していくような……
「珠ちゃん、今日も辛そうだね。」
ぽんぽん。
「あ……。体が軽くなった!?」
「本当憑かれやすいんだね。君は……。気を付けないと駄目だよ?」
「すみません……。」
昨日と同じ様に、あたしの肩を軽く叩き簡単に憑き物を祓ってくれたようだ。これは本当に凄いと思うし、むしろその技を伝授して欲しいくらいだ。
伝授……?あ、そうだ!!これだ!!
「紫乃さん!その技、あたしに是非教えてくれませんか!?」
「え?」
「その肩叩きで除霊すると言う素敵な技ですよ!!そしたらわざわざ守って貰う必要もなくなるし、あたしも
こんな風
にならなくて済むし。そうだ、なんで昨日それをすぐ思いつかなかったんだろう……。」そうだ。あんな頼りないハリセン除霊法が出来たって自分に使えなければ意味は無い。だったら、この祓い屋の先生に伝授してもらえばいい。
まぁ、胡散臭い事この上ないけど……。
この技
は本物みたいだし。「……あのね、珠ちゃん。そう簡単に出来るものじゃないんだよ?これは。」
「大丈夫ですって!あたし
そっち
の才能あると思いますから!!」「向き不向きの問題じゃ無くて……。まぁ、君なら向いているとは思うけど。」
「じゃあ!!」
「でも!祓い屋は簡単になれるような生業じゃないんだよ。それなりに修行して色々な段階を踏んでようやくなれるんだよ。」
「……まさか……!!あの……、やっぱり祓い屋さんにも資格試験とかそんなものがあったりするんですか?祓い屋検定とか?」
「いや、そんなものはないけど。でも俺は君を
こっち側
の人間にするつもりはないよ。普通に楽しく元気に過ごして欲しいよ。」「いや、この体質でどう普通に楽しく過ごすんです?」
「そのために俺がいるんだろう?」
と、にっこり。この春晴れの青い空よりも爽やかだ。
昨日はそんな事言っていなかったのに……。あたしはてっきり紫乃さんが『将来優秀な祓い屋の育成』をするためにあんな約束をしたのかと思っていたんだけど。ほんの少しだけど。
胡散臭いし恰好が妙なのはともかく、この人はどうやら本気であたしを心配してくれているのか。この笑顔からその真意は読み取ることが出来ない。
「別に弟子入りとかしたいんじゃないんですけど……」
「珠ちゃんが俺の?……悪くは無いけど……。」
「さっき『こっち側の人間にするつもりはない』って言ったのに!?」
「冗談だよ。冗談。とにかく、君の事は俺が守るから安心して?お兄さんを少しは信用しなさい。」
ぽんぽん。
ほら、その頭撫でる所とか笑顔とか!!胡散臭い!!
けど……。何だろう。紫乃さんにそう言われると何か信じたくなってしまう様な。あたしってそんな単純な性格だったっけ?疑り深い方ではないけど。
「……わかりました。とりあえず学校行きます。」
「はい、良い子だね。いってらっしゃい。」
「そうやって子供扱いして……!紫乃さんて誰にでもそうなんんですか?」
「ん?ああ、珠ちゃんが可愛いからつい。気を悪くしたら謝るよ。」
「べ、別にいいんですけどね……」
笑顔で平然と『可愛いからつい』って頭撫でるかな。この人って実は相当女好きで遊び人とか?そうは見えないけど……。
笑顔であたしを見送る紫乃さんに背を向けながら、まだまだ謎深いそのお兄さんに振り回されることのない様しっかりしようと誓ったあたしは、駆け足で学校へと向かって行ったのであった。
う~ん……。やっぱり今一信用出来ない。こうなったらやっぱり徹底的に紫乃さんを調べ上げて調査するしかない!!一つでも怪しい疑惑が見つかったら突き付けてその爽やか笑顔を崩してやるんだから!で……弱みを握ったところで
あの技
を教えてもらう!!祓い屋にはなるつもりなんて全くないが、あたしはそんな誓いも立てた。自分の身は自分で守らないと。
「……とはいっても。どうやって調べるか……。」
学校に着くと、あたしは早速『如月紫乃調査』に向けて無い知恵を絞り出そうとした。
やっぱりここは聞き込みからか。元刑事の兄もよくやっていた。これは調査の基本。でも紫乃さんの知り合いって一体……??
ノートを開き、とりあえずアイディアを箇条書きにしてみる。
【紫乃さん調査ノート】
・まずは尾行。バレない様変装する手もあり。
・聞き込み。とりあえず商店街の人達に手あたり次第聞いてみる。
・見張って観察してみる
・行動日記を書いてみる
・苦手なものを置いてみる(要聞き込み)
う~ん……。こんなもんか。なんか在り来たり過ぎてつまらないなぁ。でもこういった地道な調査が事件の解決へ繋がるんだってお兄ちゃんもよく言ってたし。
「……紫乃さんは五年前まで星花町に住んでいたって言ってたっけ。なら商店街の人達に話を聞くのはいいな。うん。さっそく買い物の時にでも……」
でも……。これがバレたらなんかとても恐ろしい事になりそうだな。特にお兄ちゃんとか。何より紫乃さん本人にバレるのがなんか凄くヤバそう。
「いや……待てよ?でもお兄ちゃんも怪しんでたしもしかしたら協力して……無理かぁ~!」
兄はイケメンで星花町でも人気者であるが、頭の堅い真面目な男だ。それがとても残念なんだよな。冗談がたまに通じない時あるし。ユーモアってもんが無いんだよね。遊び心っていうの?
「……とにかく、あの堅物は無いな。ないない。」
首を振って頭を抱えて再び考え込んだ。
休み時間、本来ならば友人同士お喋りなど楽しんだりするのだろうが生憎あたしは一人だ。いや、別に霊感がどうのとかでいじめられている訳ではない。普通に話せばみんな普通に笑顔で接してくれるし。
入学早々あたしは少しやらかしてしまった。あれはそう、入学式の翌日。登校しようと通学路を歩いていたら何故か良く分からない柄の悪い人達に囲まれ……仕方なくストリートファイト。いつもの様に勝利し、急いで学校へ向かおうとしたら思いっきり足を挫いて運悪く川にドボン。それでもなんとか起き上がり登校した。
『皐月珠惠!入学早々遅刻とは……お前どうしたんだ!?』
教室に入るなり固まる担任そしてクラスメイト達。それはそうだろう。なにせあの時のあたしは足を引きずりながらずぶ濡れ状態で現れたのだから。しかも遅刻したし。
『ちょっとのっぴきならない事情がありまして……』
『と、とにかく着替えて来なさい。話はあとでゆっくり聞きます。』
男勝りな凛々しい担任も思わず敬語になるくらい、あの時のあたしの状態は酷かった。クラスメイト全員を凍らせてしまう程に。
それ以来なんかちょっと変なレッテルを張られてしまったらしく……。声を掛けようにも掛けづらく、向こうから声を掛けて来る優しいクラスメイトも悲しい事に全く現れず……今に至る。
ああ、入学してもう結構経つのにぼっちって……。寂しい。自業自得なんだけどさ。
でも、別に避けられている訳じゃないし!うん!!それに虐められている訳でもない。これからよこれから。
「あ、あの……皐月さん。」
何だか涙が出て来そうになった時だ。クラスメイトが遠慮がちに声を掛けて来たのは。
奇跡が来たか!?
「な、何?」
「えっと……先生が呼んでるんだけど……」
「え?……あ、ああ……またか。」
教室のドアを指さした先には確かに担任の
「ありがとう。えっと……」
「姫川だよ。えっと
「え?う、う~ん……。特に何もしていないと思うんだけど……何だろ?」
「わたしに聞かれても……」
「だ、だよね~!!あ、ありがとう姫川さん!」
「う、うん……気を付けて……」
『何かあったの?』か……。姫川さんじゃなくても皆そう思っているに違いない。視線が痛い程突き刺さっているのがわかる。
に…しても……。可愛い子だったなぁ。名前もだけど。あたしの平凡な名前と容姿とは大違いだな。羨ましい!!
「…お前はまたぼんやりしてたな?」
「あはは、すみません。」
氷頭先生はあたしを見下ろす(長身だから)と腕を組んでため息を吐いた。これもいつもの事である。彼女は男勝りで恰好良いので我が藤桜女学院の生徒達に大人気の教師だ。厳しいがこうしてたまにあたしの事を気にかけてくれる今時珍しい生徒想いの教師でもある。
「今日は顔色が良いじゃないか。いつも青白い顔してどんよりしているだろ?」
「ああ、はい。色々とあって。」
何せ霊感体質なもので。なんて言えるわけがない。今度こそ本当に引かれてしまう。
「色々な……。そう言えば皐月はお兄さんと二人暮らしだったな。何か悩みでもあるのか?」
「いえ全然。」
兄との二人暮らしに不満なんてない。いや、まぁあるけど。そんな悩むほどのものはない。
それよりも何とかして欲しいのは……この
体質
だ。昔はあたしだって無邪気で純粋な子供だった。だから視えることが普通で『あ、あそこに何かいる~!!』といって驚かせていた時期もあった。それが
普通
ではないことは、それから暫く経って思い知らされたから、今は勿論隠しているわけで。霊感云々は人に言うべきではない。視えても無視。何事も無かった様に冷静に振る舞うべし。これがあたしの学んで得た事なのだから。
しかもここは女子校だ。下手にそんな事を口走ったらなんと言われるか。ただでさえ今のポジションが微妙なのに!!
「お兄ちゃん…兄とは仲が良いので大丈夫です。」
「そうか?ならいいが。そうだな……、お兄さんはしっかりとした良い人みたいだな。昨日電話でお前の事を少し話したのだが……」
「え!?先生お兄ちゃんに話したんですかぁ!?」
これはやばい!!ああ、でも昨日は紫乃さんの事もあったから何も言われずに済んだのか…。ちょっとは感謝しよう。ありがとう紫乃さん!!
「なんだ?聞いてなかったのか?皐月の遅刻が多すぎるから一度家庭訪問してお話ししようと話していたんだよ。あ、ちなみにお兄さんは了承済みだ。」
「な、何で!?」
「入学早々から気になってはいたんだ。それにクラスにも馴染めていないだろ?友達は出来たか?」
「そ、それは……ぼちぼち作る予定です!!」
「…その意欲があればいいがな。でもほぼ毎日のように遅刻するし、体調は悪そうだし居眠りはするし生傷は絶えないし……。他校の柄の悪そうな生徒達によく囲まれているだろう?負けてはいなかったようだが……。」
「な、何故それを!?」
「たまたま見たんだよ。皐月は小柄な癖に強いんだな?私は少しスッとしたよ。あ、こんな事言ってはいけないんだが……。」
「なら助けて下さいよ~……」
先生格闘技とかやってませんでした?入学式の自己紹介の時言ってましたよね?
ああ、でも他校の生徒に手を出したら問題か。
「お前の強さも知っているが……。もう少し我が校の生徒としての自覚を持って欲しい。」
「……と柏崎先生が?」
「……そうだ。」
柏崎先生とは生徒指導の先生で、厳格な性格と美貌から『藤桜の美鬼』と呼ばれている。綺麗な容姿の上に常に無表情で淡々とした話し方なので余計に怖い。素行の悪い生徒は勿論、彼のブラックリストに入っているはずだ。勿論あたしも。
ああ、あの目と声……。思い出しただけでも怖い。しかもあの先生、あたしの事何かと言ってくるし!!自業自得だけどさぁ。
「私もあまり煩くは言いたくないのだがな。この年頃の子供は男だろうが女だろうが少しやんちゃな方が良いと思うぞ。そうそう、先生が皐月の年頃にはよく……」
「先生もやんちゃしてたんです?」
「ふっ……。懐かしいな、あの頃が。当時私と並ぶ強者がいてな……よくやり合ったものだ。」
先生、いいんですか?生徒にそんな事言って??
雰囲気を出す為か、窓を開けて遠い目をする氷頭先生の瞳はキラキラ輝いていた。青春って素敵ですね。どんな形であれ。
「まぁ、そう言う事だ。お前の家に行くことになるからな。」
「はぁ~い……」
別に家にお邪魔される分には良いんだけど、あたしのお話をお兄ちゃんにするのはなぁ…。勘弁してほしいです!!
颯爽と去って行く氷頭先生の凛々しい後ろ姿を眺めながら、あたしは無意識に胃を抑えていた。何となく痛む気がしたのだ。
「はぁ。しかしどうしたもんか……。」
紫乃さんの正体を暴こうとノートにまでまとめたのはいいが、ここからどうしたらいいのか。星花町で紫乃さんの事情に詳しい人って一体……?
お昼休み。あたしはいつもの様にぼっちランチをすべく人気の無い屋上を目指し廊下を歩いて頭を抱えていた。
旧校舎の屋上。建物は物凄く古いけど誰もいないから落ち着くんだよねぇ。静かだし。たまに幽霊さんが居たりするけど悪い人達じゃないし。良い話し相手になってくれるんだよねぇ。
「あ、珠惠?」
「蕾ちゃ……蕾先輩。」
そんな時だった。長身の中々の美少女が現れたのは。長い黒髪が綺麗な。
「お、ちゃんと
先輩
って呼べるじゃん。」「うん、一応ね。」
彼女は
あ……。そうだ。蕾ちゃんなら何か知っているかもしれない。何せ彼女は星花町にずっと住んでいるのだから……。
「蕾ちゃ……先輩は如月紫乃って人しって…ます?イケメンなんだけどなんかこう…変わった感じの……」
「爽やか好青年で笑顔が素敵な大正ロマン風の恰好をしたお兄さんの事?」
「知り合いなの!?」
やった!ビンゴ!!
しかもこの感じ、結構仲良さそうだし。もしかしたら何か重要な事が聞き出せるかも!!
「確か東雲青嵐って名前で作家もやってるって……」
「ああ、うん。趣味と実益を兼ねた副業って言ってるわ。昔お金に困って今までの経験を物語調にして書いたんだって。その原稿を出版社のコンテスト?みたいなのに送ったら運良く賞取ったって。さすがというか……」
何その偶然!?奇跡過ぎるじゃん!!
で、でも……。紫乃さんがあの東雲青嵐先生で間違いはないようだ。
「じゃあ、祓い屋って?」
「え?それも聞いたの?あたしはそっちはあんまり……。でも実家が
「今もそうなのかな……?」
「さぁ?あたしそっちは知らないんだって。けど複雑そうな家庭だからねぇ……苦労人なのよ、紫乃さんって結構。妹馬鹿だけど。」
「…そういや妹がいるってむめ乃さんが言ってた。」
「そうそう、あたしと同い年のね。今は実家の方に住んでるんじゃないかな。紫乃さんが一緒に暮らそうって説得してるんだって。まぁ、あたしもその方が良いと思うけど。何せあの人妹馬鹿だから。あはは!!」
「…妹馬鹿。」
蕾ちゃん二回も言った。相当だなこれは。
けど、聞いてよかった。思わぬ収穫!!蕾ちゃんがそんなに紫乃さんと親しい間柄だったなんて!!しかも妹さんとも仲良しって感じ?
わかったことは……。紫乃さんの言っていた事が本当って事。胡散臭い話は本当で証拠もある。あの曲がった事が大嫌いな蕾ちゃんが口裏合わせでこんな事言う訳もないしね。
意外なのが苦労人って事。妹さんと別々に暮らしているのも何か理由がありそうだ。紫乃さんの妹さんも祓い屋さんなのかな?着物とか着て。
「う~ん……でも何か後悔しているのは……なんで?」
引っかかっているのは『複雑な家庭』ってところだ。そこまで知りたかったわけじゃないからなんか勝手に覗き見てしまった気がして……。
それに、あたしを救いたいって言う気持ちも本当らしい。親切にそう言ってくれていたのだ。それなのにあたしは胡散臭いって疑ってしまった。
『紫乃さんはあんたを妹と重ねて見ているのかもね。
別れ際に言った蕾ちゃんの言葉を思い出した。紫乃さんとその妹さんとの間に何があったのか。それはあたしが踏み込んで良い事ではないけど気にはなる。