孤独な女王6~ただ、プロレスラーとして~
文字数 1,093文字
楓が意識を失っていたのは、ほんの少しの間、時間にするとわずか数十秒の間だったろう。
姫子の一撃は確かに楓の顎を的確に捉えていた。
が、その刹那、楓は無意識のうちにスウェーで微妙に打撃点をずらしていた。
目を覚ました彼女の視界にはロープにもたれかかって、自分を睨みつけている姫子の姿が映った。
わずか数十秒とはいえ、追撃の時間は十分にあったはずだ。
それはもはや、姫子に反撃の力が残っていないことを物語ってもいた。
楓は頭を振りつつ、マットをもう一度、踏みしめる。
軽い目眩がした。
もう一度、身体に力を込めた。
ようやく、意識がはっきりとしてくる。
ふと見上げた楓の視線の先では、姫子が折れた足を引きづりながら楓に向かってきていた。
その顔は苦痛で歪み、歩くというよりマットの上を這っているように見えた。
だが、姫子は姫子なりにまだ、戦おうとしていた。
苦悶の果てに姫子は楓の目の前についに辿り着いた。
が。ついに力つきたのか、前のめリに倒れ込む。
楓が受け止める。
姫子はただ一言。
「手加減無用」
しっかりと抱きとめる。
それは愛しい恋人を抱擁しているように見えた。
楓は姫子の身体を抱えて、しっかりとクラッチした。
本当は、もう、投げたくなかった。
もはや、姫子には受け身を取るだけの力さえ残ってはいないだろう。
でも、それでは姫子の信頼を裏切ることになる。
彼女の誇りをもう一度、傷つけることになる。
それだけはできない。
彼女の願いを最後に叶えてやるしか、楓の選択肢は残されていなかった。
意識を奪い去らなければ、姫子は何度でも向かってくるはずである。
最後は、せめて最強の技で終わらせたい。
楓は両手に力を込めた。
一瞬、姫子の身体から重力が消え去った。
サイドワインダー。
サイドスープレックスで抱え上げてから、肩口からマットに真っ逆さまに落とすという危険な技である。
間違いなく姫子を再起不能へと追い込む技であった。
楓は泣きながら、叫んだ。
「うわぁぁぁぁぁ!」
絶叫が頂点に達した時、急角度で姫子の肩がマットに激突した。
骨の砕ける嫌な音がした。
楓の泣き声はいつまでもマットに響いていた。
あまりの光景に、会場は静まり返っていた。
だけど、ふたりの想いはひとつだった。
ただ、プロレスラーとして。
姫子の一撃は確かに楓の顎を的確に捉えていた。
が、その刹那、楓は無意識のうちにスウェーで微妙に打撃点をずらしていた。
目を覚ました彼女の視界にはロープにもたれかかって、自分を睨みつけている姫子の姿が映った。
わずか数十秒とはいえ、追撃の時間は十分にあったはずだ。
それはもはや、姫子に反撃の力が残っていないことを物語ってもいた。
楓は頭を振りつつ、マットをもう一度、踏みしめる。
軽い目眩がした。
もう一度、身体に力を込めた。
ようやく、意識がはっきりとしてくる。
ふと見上げた楓の視線の先では、姫子が折れた足を引きづりながら楓に向かってきていた。
その顔は苦痛で歪み、歩くというよりマットの上を這っているように見えた。
だが、姫子は姫子なりにまだ、戦おうとしていた。
苦悶の果てに姫子は楓の目の前についに辿り着いた。
が。ついに力つきたのか、前のめリに倒れ込む。
楓が受け止める。
姫子はただ一言。
「手加減無用」
しっかりと抱きとめる。
それは愛しい恋人を抱擁しているように見えた。
楓は姫子の身体を抱えて、しっかりとクラッチした。
本当は、もう、投げたくなかった。
もはや、姫子には受け身を取るだけの力さえ残ってはいないだろう。
でも、それでは姫子の信頼を裏切ることになる。
彼女の誇りをもう一度、傷つけることになる。
それだけはできない。
彼女の願いを最後に叶えてやるしか、楓の選択肢は残されていなかった。
意識を奪い去らなければ、姫子は何度でも向かってくるはずである。
最後は、せめて最強の技で終わらせたい。
楓は両手に力を込めた。
一瞬、姫子の身体から重力が消え去った。
サイドワインダー。
サイドスープレックスで抱え上げてから、肩口からマットに真っ逆さまに落とすという危険な技である。
間違いなく姫子を再起不能へと追い込む技であった。
楓は泣きながら、叫んだ。
「うわぁぁぁぁぁ!」
絶叫が頂点に達した時、急角度で姫子の肩がマットに激突した。
骨の砕ける嫌な音がした。
楓の泣き声はいつまでもマットに響いていた。
あまりの光景に、会場は静まり返っていた。
だけど、ふたりの想いはひとつだった。
ただ、プロレスラーとして。