読書嫌いとか言ったら読書好きは群がるわけですーー読書嫌いのための図書室案内

文字数 1,503文字

 読書が好きで好きでたまらない。もちろん本も漫画も雑誌もまとめて好きだ。書籍代だけ家計簿つけているが、貧乏のくせに半年で何万円も書籍に使っていたことが発覚した。本という嗜好品に、本屋というワンダーランドに惑わされて狂わされているわたしは完全なる活字中毒者(ジャンキー)だ。

 わたしはゆとり世代末期なのだが、『読書離れ』という言葉をよく耳にしていた。
 だが最近知ったが、親世代も小学生のころから『読書離れ』を社会問題として取り上げられていたらしい。母親曰く、
「バブルの時なんて、読書しないよ。そんな時間ないの」
 時は中西圭三の『Woman』がカメリアダイアモンドのCMソングだった頃。夜勤をし、終われば弾丸で雪山に行き、スキーで滑りまくる生活してたのだからそりゃ読めんだろう。バブルの生き様がまぶしい。それより上の世代の祖父母は終戦後で生きていくのに精一杯、読書どころではなかっただろうし、やはりいつ読書と蜜月だったのか、さっぱり分からない。

 確かなのは読書は万人にいつだって愛されている訳じゃないこと。でもわたしは『読書嫌い』なんていう人があながち嫌いじゃない。というか、面白い。
「だれが書いたか分かんないもの、読みたくないじゃん」
 昔クラスメイトに言われて、わたしは眼が輝いた。何それ! そんなこと考えたことなかったよ! その感性で本読んだら絶対面白い感想出るって!
 その無垢すぎる眼で読んだ、本の世界を覗きたいって思ってしまう。
 

 『読書嫌いのための図書室案内』は読書嫌いな高校2年生の荒坂くんと、「本のムシ」である藤生(ふじお)さんはともに図書委員。図書新聞の編集を何故か頼まれてしまった荒坂くんは読書感想文を友達や先生に依頼。しかし、その読書感想文と引き換えに様々な“条件”を出されることに。

 この話は「読書嫌い」の人や、出てくる作品も『舞姫』、『赤い繭』など中高の教科書で載っていた作品が多いことからティーンエイジャー向けの作品だと言える。でも、「読書嫌い」の荒坂くんの独特の感性や「本の虫」の藤生さんの新解釈などもおもしろいので、読書好きの方は止まらなくなる本だと思う。

 本をどうして読むか、というのは本を読まない人に説明するのは難解だ。本読みは「楽しいから」読むだろうけど、読書嫌いからしたら「楽しくない」のだから、話は平行線になる。しかし、この本ではできるだけ読書嫌いの為にもわかりやすく本を読むことへのメリットを解説している。

 ある日、読書嫌いの荒坂くんに司書の先生はこう聞いた。
「出版技術が発達して、市民に小説が流行ったら殺人事件が減ったらしい。どうしてだと思う?」
と聞いた。あなたならなんと答えるだろうか。読書によって倫理観を知ることができたから? でも答えはきっとあなたの斜め上を行くものだ。

「一般庶民はね、小説を読んで初めて、自分以外の人間にも感情があることを知ったんだよ」

 その段階の話…! でも確かに自分以外の人間にもそれぞれの人生があって、感情がある、そう思えば、握りしめたナイフをひっこめることができるかもしれない。これを聞いた荒坂くんは思う。僕が思っているよりも、

なものであるらしい、と。

 そう、読書ってスリリングなのだ。一見大人しそうなあの本の虫だって、どのくらい悪行を重ね、どのぐらい人を(あや)め、どのくらい艶っぽい経験を頭の中でしているかわからないのだ。現実にはできないことができるって、すごく刺激的。だからこそ本の世界から抜け出せられず、中毒になるのだ。
 
 それにしても。本が教育にいいなんて、わたしは信じてないけどなあ。


今回の物語:青谷真未著『読書嫌いのための図書室案内』
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