第7話 明日なき試作

文字数 3,353文字

うむ。
総裁がハサミで工作を始めた。
まずホームを置く。
そして階段を作る。
使うのは学校用工作用紙なんですね!
考えながら作るにはこれが最適であるからの。方眼があるのはすごく便利であるのだ。
これ、半分エスカレーターで半分階段って感じかな。
うぬう、できればそうしたいのだが。
エレベーターもつけたいですね。下りだけ階段ってパターンだと、私、キャリー持って移動するときすごく大変ですから。
それはあとで検討であるのう。
さらに階段を積んでいくのだ。
両方に出られるようになったねー。真ん中は地下コンコースー?
さふである。このホームの真上のコンコースはあとでさらに使うぞ。
もう一層コンコース。そこに改札口をおくんですね。ヒドイっ。
ひどくないよー。でもどんどんできてきますね! 自動改札のダミーも置くんですね。
まあ、本番で設置するのもダミーなので、これはダミーのダミーであるのだ。
ついに地上に到達したのですね。コンコースももう一本。この深さがいかにも東京都心という感じですわ。
一瞬、新宿バスタかと思いました……。
ミエさん前に東京来たとき、バスタ探して見つかんなくて新宿で遭難しかかりましたもんね。そのトラウマぶり返しちゃうかも。
バスタ探して迷うなんて……あんな大きい建物なのに。
はいはい、私は田舎モンですよー!
東京ではほとんどの人間が田舎モンであるからのう。
元から東京に住んでる人は稀ですわね。失礼してすみません……。
え、詩音さんそんな。そこまで気にしてませんから!
うむ、詩音くんに他意はないであろうの。
しかし総裁が工作用紙を切って組み立てていく手は休まない。
最後に一番下にもホームを作ったのだ。
7層も立体交差が折り重なってる!
確かにこういう立体都市は東京っぽいかもしれませんね。
断面図楽しいー。子供にウケそうー!
さらに追加で高速の高架下に歩道橋。谷町ジャンクション風味なのである!
8層構造! 立体過ぎてヒドイっ!
すごい密集……東京っぽいかも!
この手前の建物は今よくある古い建物を改装して作ったいわゆる『腰巻ビル』って感じですね。ザ・三菱地所、って感じでヒドイっ。
でも大阪とは違うとはっきりする何かがもっと欲しいかも。
うぐぐ、ソレだ。ただの密集都市では他の大都市と違いが付かぬ……。
でも大阪とはかなり雰囲気が違いますよ!うまく言えないけど!
そうであれば良いのだが……。
なかなか壮観でヒドイっ!
ひどくないよー。東京っぽくなったよー。
もう一本地下鉄を追加しようと思ったのだが、付帯するコンコース考えるとあと3〜4層追加せねばならぬことが判明。
それはやりすぎだようー。
ゆえ、自重したのである!
この時点でとんでもなく多層構造ですわ。
迫力あるなー。
あちこち仮設であるので色々ガタガタである。モックアップであるからのう。
でもこれ、こうしないと全くわからないものですよね。
そう思うておった。3DCGでもこれはわからぬ。今回これで工作の順番なども検討したのである。
こういうものは手が届かなくて工作できないということもあり得ますものね。
さふなり。
なかなか壮絶だなー。やりすぎ感がいいよね。
やり過ぎるのは我が鉄研のいつものテーマであるからの。
でもこれ、人工物だから垂直水平が厳しいですね!
さふでありますセンパイ。ここは工夫と工作の見せ所でありますのう。
ペーパーじゃ無理じゃないかな! 木とか金属を使わないとダメじゃないかな!
うう、確かにそうでありますが、木や金属は使うと重たくなりますのう。やはりペーパーも使ってやる必要があります。木を使っても曲がったり傾いたりは避け得ないのは同じであります。
ペーパーを塗装するとボコボコになりませんか!
それはペーパーの塗装時に濡らしてしまうとそうなります。サーフェイサーを適正に使えばパリッとした仕上がりになるぞよ。
でも綺麗な直線、出るかなあ。
紙を折り曲げるのだ。折り曲げでできる線は必ず直線になるぞよ。
なるほどー。
あと地下といったら秘密基地欲しい!
うっ、さふでありますな。
地下といったら秘密基地! 地下はロマンですよ!
うう、そのためにスペースは用意してあるぞよ。2箇所あるので片方は機械室、片方は秘密基地あるいは結社のアジトとする予定なのだ。
なるほどー!
しかし秘密基地らしい演出がいまいち思いつかぬ。
赤の秘密結社の基地ですね!


あれっ、悪の秘密結社だった!

それでも意味が通じちゃいますね。赤ってのはどうしてもそういう感じになりますね。
なぜかそうであるのう。アジトは赤の電飾で照らすと良いかもしれぬ。ともあれこのモジュール、どっちにしろ電飾もかなりせねばならぬ。
なかなか骨が折れそうですね。
チマチマやるしかなかろうのう。
オレンジのチップLEDを持ってるからそれ使うと良さそうですね。
軍資金が少ないゆえ、電材も出来るだけすでにもっているものを活用せねばならぬのだ。
ぼくたち今は基本、ビンボーだもんねー。
しみじみ言ってもダメです! ヒドイっ。
ペーパー主体であるが、それでも1センチ角の角材とかも使わざるを得ないのである。
ペーパーレイアウトの人たちはこれはペーパーで全部作りそうですわ。
だが、こういう多層構造物では工作誤差が次第に累積することもある。そこでフレームを先に作ってしまえばその累積をクリアすることができるのだ。木も加工は難しいのだが、それぞれ得意とする使い方を見極めてそれぞれの強みを生かすことが工作の成否を決めるであろう。
そうですね……だいたい感じがつかめたと言っても、工作しやすい構造の組み立て難易度が高いですね、これ。
覚悟の上であるから仕方ないのだ。
総裁の口がきゅっと決意で結ばれている。
私たちもできるだけお手伝いしないと! JAM出展成功のために!
そうですわね。電飾にはPICを使った点滅も欲しいですわね。
PICのプログラム作成やLED点灯回路作成はぼくも手伝いますよ。
オール鉄研でとりくむよー。ぼくもご飯とかの用意手伝うよー。
あと奥行きを決定せねばならぬ。奥行きはありすぎると運搬も困難。しかしなさすぎると撮影したときに端っこが写ってつまらないぞよ。
そこはユニトラック規格に合わせればいいのでは。下のレールはS248の2本分、上はS248の長さで。高さも高架と同じにすれば立体交差させるときに楽ですよ。
なるほどである。それでいこう。奥行きは248ミリとしよう。
今より倍程度の奥行きですわね。それなら撮影してもモジュールの端がバレにくいですわね。
撮影して楽しいモジュールにしたいものであるからのう。
そっかー。インスタ映えねらいなんだねー。
現代、SNS時代の模型はその性能を重視せざるを得ないからのう。
でも上と下の地下駅が実際に列車走れるようになってるってのは模型としてのアドバンテージ大きいですよ。
たしかに『走らない鉄道模型は鉄道模型ではない』からのう。走行性能は大事であるのだ。
というか、ここまで来てようやく工作ネタでしたね。ぼくらのダベリ回が続いたので心配してました。
うっ、そうであったっ! 不覚っ!
しかたないよー。工作ネタもお金ないからなかなかできないよ―。
お金がないのはクビがないのと同じだもんねえ。
追い詰められておるからのう……。
でもきっと、なにかで逆転できますよ!
そういう可能性があればよいのだが。
私は期待してますよ! だって、総裁たちにはきっとその可能性があると思いますから!
うむう、センパイにもそう言われると、それは嬉しいことではあるのだが。
がんばるしかないですね。今できることを精一杯。
あとで困るのはあとででいいんだよー。今先取りして困ることないよ―。
う、そうであるのう。華子も御波くんもえらいのう。
てへー、ほめらりたー。
ともあれ、これで東京のテーマの片方はなんとかできそうな気がしますね。
さふである。しかし気を引き締めてやっていくぞよ。
はーい!
そして2週間に一回水曜日のYouTubeライブも頑張らねばならぬ。観てくれる人がいるのだからの。
依代の著者さんにも頑張ってもらわなきゃですね。
さふなり。体の具合が悪いというておる場合ではないぞよ、おりゃ。
でもすこし休ませないとまた轟沈しちゃいますよ。
さふであるのう。うう、頭がいたいぞよ。こんなことで出展が果たせるのか。
次回に続きます―。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

長原キラ ながはらキラ:エビコー鉄研の部長。みんなに『総裁』と呼ばれている。「さふである!」など口調がやたら特徴ある子。このエビコー鉄研を創部した張本人。『乙女のたしなみ・テツ道』を掲げて鉄道模型などテツ活動の充実に邁進中。


*総裁のびっくりヒミツ能力(順次公開)

・隠れオッドアイ。安いラノベのキャラだと思われたくないので視力は悪くないのにカラーコンタクトをはめて眼の色を合わせている。しかしこのオッドアイのその眼を見てしまうと自白させてしまう作用がある。あまりにも危険なのでそれを抑制するためにもカラーコンタクト。


 ほかにもまだまだあります。


葛城御波 かつらぎ みなみ:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。しかしイマジネーション能力は随一。


武者小路詩音 むしゃのこうじ しおん:鉄研内で、模型の腕は随一。高校入学が遅れたので、実は他のみんなより年上。鉄道・運輸工学教授の娘で、超癒し系の超お嬢様。模型テツとしての腕前も一級。

芦塚ツバメ あしづかツバメ:イラストと模型作りに優れた子。イラストの腕前は超高校級。「ヒドイっ」が口癖。

中川華子 なかがわ はなこ:鉄道趣味向けに特化した食堂『サハシ』の娘。写真撮影と料理が得意。バカにされるとすぐ反応してしまう。

鹿川カオル かぬか カオル:ダイヤ鉄。超頭脳明晰で、鉄道会社のダイヤをアルバイトで組んでしまうほどの『ダイヤ鉄』。プロ将棋棋士を目指し奨励会所属。王子と呼ばれるほどハンサムな女の子。電子回路やプログラミングが得意。


田島ミエ たじまみえ:総裁の古くからの友人。凄腕の模型テツ。鉄研のみんなと一緒に大洗などを旅行したものの、関西在住で滅多に会えない。なおかつその実像は不明。

小谷奈々 おたりなな


総裁の友人。凄腕のBトレ自動運転の模型鉄。地下アイドルをしているらしい。ウサミン星がどうとか言っていたが詳細不明。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色