第1話

文字数 1,087文字

 2020年4月に施行された改正健康増進法により、飲食店は店内完全禁煙となった。しかし、客席面積が 100 ㎡以下の小さな飲食店は、条件を満たせば既存特定飲食提供施設とされ、経過処置として店内での喫煙が認められている。
 その店のカウンターに二人の女性が並んでレモンハイを飲んでいた。向かって右側の中年女性はマスクをしていた。左隣の若い女性と話が弾んでいる。右手には火のついた煙草を持っていた。
 マスクをしてどうやって煙草を吸うのかなあ…、と私は興味津々であった。
 とその時、彼女は左手で右耳に掛かったマスクのゴムを外した。左耳のマスクのゴムは掛けたまま、カパッ!と蓋を開けるようにマスクを開けて、右手の煙草を一服。ふ~っと煙を吐いて、左手で右耳にマスクのゴムを掛けた。ひとしきりしゃべったところで、また左手で右耳のゴムを外してマスクをカパッ!右手の煙草をスパ~、左手で右耳にゴムを掛けてマスクを閉じる。カパッ!スパ~、閉じる。左手で持った右耳のマスクのゴムと、右手の煙草は常に離すことなく、鮮やかな一連の動作にしばし我を忘れて見入ってしまった。
 そして時々、カパッ!の後、右手でレモンハイをグビッ!マスクを閉じる、の応用編もあって、さらに感動した。
 新型コロナウイルス感染は収束どころか、二次感染拡大が懸念されている。カウンターでマスクをして煙草を吸い、レモンハイを飲む光景は、感染拡大以前には想像もつかなかった光景だ。
 一時、品切れでパニックに陥ったマスクも、今や「夏用」「ひんやり」「エアリズム」「超立体」「超快適」「呼吸のしやすい」など様々な工夫をしたマスクが売られている。
 ダーウィンの名言、「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い物が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。」
 皆、確実に進化している。

 さて写真は2013年3月に撮影した地元産の焼酎「(さわやか)」の水割りである。ライムシロップを少量垂らしてある。


 当時は7年後の新型コロナウイルス感染など微塵も想像せずに、「美味い!」とがぶがぶグラスを傾けていた。
 進化はどの方向に進化するか誰にも予想できない。こうあるべきだと計算しても計算通りにはいかない。「あっ、これ便利だ。」「本当だ。」と小さな工夫が積み重なって大きな変化となり進化に繋がる。
 マスクをしてレモンハイを飲む、飲み方の工夫もいい。
 いや、マスクをしたまま飲める吸い飲みのようなグラスもいいかな? ストローで飲むのもいいか?
 一杯のレモンハイの飲み方がいつどう進化するか? 楽しみでもある。
 んだ。
(2020年9月)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み