第27話  白竹さん家のお母さん

エピソード文字数 4,097文字

来るのが遅かったわね。


じゃあじいじ。ちょっと出掛けて来るね

ちょっと待ってよ母さん。ちゃんと掃除だけはしていってよ


それにこんな時間から何処行くの?

魔樹が母さんという辺り、白竹さんのお母さんで正解だ。

ちょっと昔の友人に会ってきま~~す!


えへへへ……

声も似てるし、ノリも似てるし、テンションも笑顔も「えへへ」も全部一緒じゃねぇか!

麻莉奈! ちょっとは手伝いなさい。


子供らに店をやらせておいて……じいじはむっき~怒るぞい

 おおっ! じいじがご立腹だぞ。


 でもあんまり怖くないのはつるっぱげで小太りだからな。ぱっと見ると何やらしても可愛いというか……多少むかつく事もあるけど。


 というか。じいじの遺伝子がこのお母さんのどこに入っているのか、非常に疑問である。

ごめんごめん。ちょっと今日だけお願い。とっても大事な日になりそうなの

 頼み込む白竹ママに、じいじもモジャモジャ眉毛を八の字にして「しょ~がないのお」と、あっさり折れてしまう。

 


 ってか若いママだなマジで。

 俺の親父とそう変わらない若さであり、同年代っぽくも見えてしまう。


美優。魔樹。ごめんね。お願いなの。来週からちゃんと手伝うし……ん? え?
 途中で疑問っぽい台詞になったのは、俺を見てからだ。

 口を開けたままやたら驚いているので、こちらも「え?」と漏らしてしまった。

彼女は今週からバイトに来てもらってる楓蓮さんです
そうなんですよぉママ。とっても美人さんでしょ?

 美優ちゃんと魔樹が説明してくれるが、白竹ママはずっと俺の顔を見ているので、どうしていいか分からなくなってくる。


 すっげーガン見だから次第に怖くなってきた。

 

し、白峰楓蓮です。あの……よろしくお願いします
 苦し紛れに自己紹介で凌ぐと、白竹ママはようやく「そうだったのね」と優しく答えてくれた。
楓蓮ちゃん。来週からは私もお店を手伝いますから。よろしくね

 凄い笑顔で返されると、こちらも自然と笑顔を見せていた。

 さっきのガン見には驚いたが……大丈夫そうだな。

そっか……これも運命なのね。きっと

 白竹ママはそう言いながら、美優ちゃんや魔樹にも視線を移すと、最後にとっても微笑を下さった。

 

 っつーか。すっげー目がキラキラしてるんだけど!

お母さん。何の事?
いずれ……わかるわっ
一人でうんうん納得している白竹ママに、俺達は何の事かサッパリだった。


 

 ※

そうだわっ。行く前に一曲弾いていこうかな

 そう言って白竹ママはピアノの椅子に座ると、鍵盤の蓋を開ける。



 そっか、あのピアノは前から気になってたんだが、お母さんの物だったのか。

 誰も使わないし、場所を取ってるだけだろと思ったけど、これで納得できた。


 

 白竹ママは音の確認の為か、少しだけピアノの試し弾きをしてるが、これ絶対凄いヤツだと直感した。



 なんというか。白竹さんと同様の美的オーラが凄まじいからな。

 ただピアノの前に座ってるだけで、絵になっちまうのが凄い。


 しかし。何故ナース服なのか。それだけが疑問である。

美優っ! 魔樹! あなたたちも久しぶりにどう? やるわよっ!


歌いなさい。私のピアノで。誇らしく。歌ってしまいなさいっ!

 え? 白竹姉弟はママのピアノに合わせて歌えるの?


 とか思ってる間に白竹さんが「やる~」と言いながら出て来ると魔樹も無言のままピアノの前に来ていた。


 二人は結構やる気なのか、発声練習してやがる。


その間にじいじが俺の横にやってくると、小さな声で囁く。
楓蓮ちゃん。凄いのが見れるから、ここに座って見ておきなさい

言われるがままテーブル席に座るとじいじも横に座る。


これから何が始まるんだ?
じいじも凄いとの演奏に、俺はじっと三人を見守っていた。


 


 結論から言うと、じいじの言う通りだった。


 初っ端から白竹ママのピアノに圧倒され、視線は強制的にピアノを弾く彼女に固定された。


 

 ほんのり笑顔を見せながら、目を閉じて弾き語るシーンは、完全にピアノと融合しているかのようであった。その鍵盤から奏でられる音は喫茶店全体に鳴り響き、俺を別世界へと誘う。


 そしてここから更に凄かった。



 白竹さんと魔樹が発した声は、幾分の狂いも無く、シンクロするのだ。ピアノの曲に合わせ、男と女の声が同時に合わさると、俺の身体からぶわっと鳥肌が立ってしまっていた。



 まるで現実ではないどこかの世界へと飛ばされたようだった。

 テレビで見るような協奏曲を、至近距離で鑑賞しているような錯覚に陥ってしまう。



 曲は進み、今度は白竹さんと魔樹が同時に高音を発すると、とんでもない声の高さに、再び鳥肌が立った。



 ありえない程の高い声はとても真っ直ぐで透き通るようなクリアな声に、思わず「すげぇ」と漏らしてしまっていた。



 オペラ歌手顔負けの歌唱力に、プロの犯行とも思える白竹ママの演奏はやがて小さくなり、白竹さんのソロになってゆく。


 天井を見つめ、両手を横に上げる白竹さん。

 その姿はまるで、歌姫と言わんばかりな至極華麗なものであった。



(白竹さん……すごい)


 歌いながらもにこやかに笑う彼女。


 その笑顔は、見たもの全てを魅了するほど凄まじく、俺でさえ一撃で持っていかれた。そう思ってしまうほどだった。



 天に叫ぶような、しっかり芯の通ったような声はブレる事なく喫茶店を包み込み、やがて小さくなり……耳に聞こえなくなってゆく。




 お、終わったのか? それすら分からない。

 ようやく眼球を動かせるようになると、俺ずっと固まっていた。




 静寂が店内を包む。演奏を終えた三人も目を閉じたままで、白竹さんと魔樹の息遣いがここまで聞こえてくるほど、何も聞こえなかった。




ブラボー。さすがワシの娘達じゃ
じいじが拍手をすると、俺も見開いたまま、手が勝手に拍手を送っていた。
すごい。マジで……感動しっぱなしです

そうじゃろ? 昔からワシらは音楽一家でな。


家族でこうやって……歌ったりするんじゃよ

 か、格好いい。素直な感想だった。


 家族で歌ったりするとか、凄い憧れてしまうじゃないか。

ありがと。美優。魔樹。久しぶりで気持ちよかったわっ!


昔の友人に逢いに行く前に、とってもパッピーになったわよっ!


 その横で「緊張しちゃった」と白竹さんが言うと「僕も。久しぶりだったから」とお互いを労わってる。


 白竹さんと魔樹。その横顔は、俺が今までに見たことのないような、優しい笑顔だった。




 あぁ、いいなぁ音楽一家か。マジで憧れる。


あの……本当に凄かったです。めちゃ感動しました。凄すぎてずっと鳥肌が……

 お世辞でもなんでもない。率直な感想だった。


  

 クラシックっぽい音楽は詳しくないが、ありゃ誰でも分かる。 

 これは凄いと。格が違うと。プロ集団じゃないのかと。 

あぁ。まだ余韻が来てます。白竹さんと魔樹さんの透き通る声が脳内でリピートされてます

楓蓮さん。凄かったじゃろ?


この二人はちっちゃい頃からずっと歌ってきたからの。

凄すぎです。白竹一家は素敵すぎでしょマジで


 するとじいじがクネクネするので、俺も一緒にクネクネと腰を左右に振ってしまっていた。


 その様子を見た三人もクネクネしだすという異常事態が発生したが、全員がとても笑顔になっていた。




 やべぇこのファミリーマジ面白れぇ。



じゃあじいじ。行ってくるね


しょ~がないの。麻莉奈。


たまにはパーっと遊んできなさい。

楓蓮ちゃん。今日はこれで失礼するけど……


これからも私の娘共々よろしくおねがいします~~~!

 娘共々? ここは「娘と息子共々」じゃねーのか?

 

は、はいっ! こちらこそよろしくお願いしますっ!

 白竹ママが元気に店から出て行くと、ようやく掃除が始まる。


 さっきまでの別世界は既に無く、地味な作業が行われるが、掃除している最中も双子の二人は笑顔が絶えない。




 いいなぁ音楽一家。

 何度も言うほどマジで羨ましい。そう思った。 


 家族との仲も良さそうだし、最高の関係じゃないか。



 ※




あぁまだ脳内再生されてます。あまりにも強烈すぎて
えへへっ。昔からね、ママと一緒に歌ってたの

 テーブル拭き拭きしながら白竹さんと喋っていた。


 今日の話題はもう音楽一家で決まりだと思っていたが、どこでどうなったのか不明だが、彼女はこんな事を言ってくる。

ねぇねぇ楓蓮さん。あのね。楓蓮さんって……


魔樹みたいな子はどおですか? タイプでしゅ?

えっ? そ、それは……でしゅね……
 急に振ってくるから驚いたが、その後ろから魔樹がにょきっと生えてくると、速攻フォローしてくれる。
そんな事言わないでよ。ね? 楓蓮さん
ほら。困ってるじゃないか。と言わんばかりの魔樹に俺も続ける。
私に魔樹さんは勿体無さすぎますよ。格が違いすぎます

ええっ? そんな事ありませんよ。


楓蓮さんの方が……

あっ! 魔樹ったら顔が赤いのでぇす~ いや~ん
もうっ余計な事言わないでっ! 怒るよ。

 じゃれあってる二人を見て、やっぱ双子だから仲がいいんだろうな。

 

 学校では見せない二人の関係。俺にはとても羨ましく思えた。

でもお二人とも、先ほどの演奏は本当に凄かったですよ。


思わず聞き惚れてしまいましたし……今でもずっと心に残っているようです

本当に素敵でした

 あ、ごめん。素で感想言っちゃった。空気読めずにごめん。


 でも、これが本音だし間違ってはいないので許してくれ。



 こうやって何度も言うってことは、それだけ凄かったのだと。自分自身でもそう思う。

あ、ありがとうございます。何だか照れちゃいますよ

僕も……そこまで言ってもらえると……


ありがとう楓蓮さん。素直に嬉しいです。

 滅茶苦茶照れてる二人に、これ以上褒めるのはやめておいた。

 本当はもっと感想を述べたいんだが、あまりに持ち上げると変だと思われるのも嫌だしな。



 でもそれだけ感想を述べたいと思うのは、俺は心から凄いと思い、その気持ちを是非二人に分かって欲しいと思うからだ。  


 


――――――――――――



 登場人物紹介 


 白竹 麻莉奈 (しらたけ まりな)


 白竹美優と、白竹魔樹のお母さん。


 美人でとてもスタイルが良く、ピアノの腕もプロ級。

 楓蓮の第一印象はとても良いお母さんだが……

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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