第1話

文字数 8,586文字


繊月
第一装【終わりにしよう】

 登場人物



          斎御司 さいおんじ

          叨場 とうば

          檜呉 ひご

          弩野 どの

          神楽咲 かぐらざき

          眞戸部 まとべ

          将烈 しょうれつ

          忠峯 ただみね

          矢浪 やなみ































 第一装【終わりにしよう】



























 「鼇頭が解散って、どういうことですか!?」

 それは、ごく当然のようにやってきたある朝の出来事であった。

 いつも通りゆっくり到着した火鷹が目にしたのは、壁に貼り出されている紙に対して、波幸が文句を言っているシーンだった。

 一体何をそんなに朝からイライラしているのだろうと思ってその紙を覗いてみると、そこには、将烈を始めとする警察とは別の組織である“鼇頭”と呼ばれる組織の解散が書かれていた。

 警察とも検察とも裁判所などなど、とにかくそれらのしがらみとは一切関係のないはずの組織に下された突然の解散宣告。

 波幸だけでなく、他の者たちもどういうことかと将烈に説明を求めているのだが、将烈もその紙を見たのはつい先ほどだと言う。

 詳しいことは何とも言えないが、どうやら警察のトップが無理矢理自分たちの組織と鼇頭を合併させ、そして自分の統治下に置いたところで解散させたということらしい。

 別の組織として成り立っているはずなのに、とその場にいる誰もが思っていたが、決定事項故に何も出来ずにいる。

 「とにかく、だ。それぞれ辞令が出てるから、そこに荷物まとめて行くように」

 雑用などの島流しのような状況にあっているのは彼らだけではないようだ。

 将烈たちが荷物をまとめて新しい職場へと足を向かわせている頃、高い位置にある部屋の中では、このような会話が成されていた。

 「上手くいったようだな。別組織とは言え、総監に吸収すると言われたら何も出来ぬか。やはり組織の人間だな」

 「他の者はどうなった」

 「あの生意気なガキらだけじゃなく、危険な芽は摘む予定だ。あいつと同期の鬧影、炉冀、榮志、櫺太たらも異動、さらには降格させた」

 「そうか。御苦労だったな」

 部屋の中には2人の男がいる。

 1人は椅子に座った状態で、白髪交じりのタレ目の男。

 もう1人はタレ目の男に対し立ったままで、黒のオールバックが綺麗に整えられている男。

 するとそこにノックが響き、タレ目の男が返事をすると部屋の中に4人の男たちが入ってきた。

 「おお、きたか。斎御司、紹介しよう」

 そうオールバックの男が言うと、4人の男たちは横に一列に並んだ。

 椅子の肘かけに腕を置いたまま斎御司が背もたれにもたれかかりながら4人を眺めたかと思うと、少し怪訝そうに言う。

 「叨場、こいつらは何だ」

 不機嫌そうにも聞こえたが、叨場と呼ばれた男はさほど気にせずに話し始める。

 「将烈とかいう男、そうとうしぶといだろうと思ってな。こいつらに協力してもらってな。あいつを辞めさせるのは並大抵のことじゃない、だろ?」

 「・・・・・・」

 叨場の言う事に納得したのか、斎御司は視線を並んでいる男たちに向けると、叨場が紹介を始める。

 斎御司から見て向かって一番右側の男は、黄土色のさらっとした髪に赤いイヤーカフをつけた、なんともチャラそうな男で、斎御司を見てずっとニマニマしている。

 「こいつは眞戸部だ。半年前くらいから俺の下で働いてる奴だ」

 「どーもでーす」

 なんとも適当な挨拶であったが、斎御司は特に関心を示すことなく瞬きだけをした。

 右から2番目の男は黄土色の短髪をしており、腰に何か巻いている。

 「こいつは神楽咲。元爆発物処理班の班長をしていた男で、いつも解体処理道具を持ち歩いてる」

 「どうも」

 その隣にいる男は、茶色で前が長く後ろは短めの髪型をしており、目は笑っていないが口角は上がっている。

 腕を後ろで組みながら、斎御司と目が合うとここでようやく目を細める。

 「こいつは弩野。SITやSATなんかの隊長をしてた男だ」

 「初めまして。まさかこうして総監にお目にかかれるとは思ってもいませんでした」

 本当に思っているのかいないのかは確認できないが、口からすらすらとそういうことが言えるのは大したものだと感心する。

 そして最後の1人は、黒髪なのだがなぜか右目の方が長いため、隠れてしまっている。

 「こいつは檜呉。エリートなんだが今はサイバーセキュリティのとこにいる。こいつらを使って、あいつをここから追い出すんだ。そのために今回、俺と協力してくれるんだろ、斎御司?」

 「ああ。膿を出しきる」

 「ははは!!そうこなくっちゃな。こいつら貸してやるから、好きに使ってくれ。役に立つと思うぞ」

 そう言うと、叨場はその場から消える。

 残された4人は、斎御司からどんなことをする心算なのかと問われ、叨場から言われたことやそれぞれ考えていることを述べる。

 「好きなようにして構わないが、あの男はそう簡単には落とせないぞ」

 「わかっています。だからこそ、やりがいがあります」

 斎御司の言葉に、にっこりと微笑みながら答えた弩野と、他の3名も微かに笑ったような気がした。

 「潰すなら徹底的に潰せ。いいな」

 4名は返事をすると、部屋から出て行った。







 《元秘密警察のS氏、機密情報漏洩疑惑!?警察内部の裏切り者か!?》

 《S氏の正体判明!!写真こちら》

 《S氏、夜の繁華街で政治家と密会か!?金と引き替えに情報を渡す!?》

 《自宅判明!!詳しい住所はこちら》

 《女性同伴!決定的瞬間捉える!!》

 《秘密警察時代にも数々の規約違反!金で解決か!?》

 《税金で夜遊びの瞬間!!》

 《犯人とも交渉していた!?S氏の部下が真実を激白!!税金で豪邸を建て、権力を買い、罪人を逃がしていた!!》

 『信じられねえ!!死ね!』

 『こういう人がいるから世の中ダメになる』

 『みんなでS氏を罰してあげましょう。それこそが国民の義務です』

 『なにこいつ、まじ死ねよ』

 『S氏を発見!!呑気に煙草吸ってる!写真添付』

 『誰か制裁を加えてください』

 『仕事してなくない?まじないわ。最低。税金返せ』

 『確かにイケメン』

 『女に金貢ぐ系?ウケる』

 『この世から消えてください』

 『住所確認!ここから近い!今から乗りこんで放火でもしてきます!』

 次々にコメントされていくS氏に関するサイトではお祭り状態。

 ネットには目の部分だけが隠されているS氏の顔写真が載っており、さらには個人的な住所まで書かれていた。

 S氏が暮らしていると思われるアパートの部屋もアップされており、さらには1日尾行して載せたようなものまであった。

 S氏のアパート付近ではボヤ騒ぎが相次ぎ、それだけには留まらず、嫌がらせの手紙がポストに沢山入れられていたり、どこから漏れたのか分からないがいたずら電話までかけたという情報も自慢話のように載せられていた。

 《S氏の部屋はこちら》

 ご丁寧に部屋番号まで載り、扉にはスプレー缶で文字が書かれた。

 『死ね!は俺が書きました!』

 『英雄!!救世主!!この世を正しくしましょう!一緒に頑張りましょう!』

 『まだ懲りずにいるみたいです』

 『精神図太い』

 『早く死ねよ』

 『この国がダメになるのはお前のような警察がいるからだ』

 『もっともっと世の中を正しく導きましょう。それこそが神の思し召しです』

 『神がこの男を殺せと言っている』

 「面白くなってきたな」

 サイバーセキュリティの一番隅のパソコンをいじっている檜呉は、書き込みを眺めながら親指を軽く噛んでいた。

 さらにカタカタいじっていると、パソコンにメールが届く。

 檜呉はこうしてパソコンをいじっていると夢中になってしまうため、携帯にメールや電話が来ても気付かないことが多く、就業中に限らず、パソコンにメールを送ってもらうようにしていた。

 そのメールを開けてみると、叨場から状況はどうかという内容のものだった。

 返事をするのも億劫だとは思ったが、とりあえず『順調です』とだけ送った。

 その頃にはすでにS氏に関する不祥事はニュース取りあげられるようになっており、毎日のように取り沙汰されていた。

 マスコミ各社はS氏に直接テレビに出て説明をし、謝罪をするよう求め始め、それはネットでも同様だった。

 《S氏に謝罪求めるも断固拒否!》

 《我々への誠意はどこへ!?》

 《国民の不満爆発!S氏と直接対決の日はいつ!?》

 『いい加減出てこいよ、クソ野郎』

 『死ぬか謝るかどっちかだろ』

 『なんで出て来ないわけ?やっぱやましいことしてるんでしょ?』

 『死刑執行希望』

 『きたーーーーー!!!死刑賛成!!』

 『ライブで流して欲しい』

 『電気椅子?首つり?斬首?』

 新聞の一面にも載るようになると、S氏はとある部屋に呼ばれる。

 「どうして呼ばれたかは分かっているだろうな、将烈」

 S氏、もとい将烈は、辞令によってどこかの暗い部署へと異動させられていた。

 そして今回のことがあって、斎御司と叨場、2人揃った部屋に呼ばれていた。

 呼ばれた将烈はその部屋でいつものように煙草を吸おうとしたのだが、ポケットに手を入れた時点ですぐに叨場に拘束され煙草を没収されてしまったため、煙草を吸う事は叶わなかった。

 将烈から奪い取った煙草をぐしゃ、と容赦なく握りつぶすと、使った形跡のない透明な灰皿へと放り投げる。

 将烈はその一連の叨場の動きを、首筋の裏をかきながら見ていた。

 叨場はニヤリと笑うと、将烈の周りをぐるぐると回るようにして歩きながら、話し始める。

 「マスコミの前に出て謝罪をする。たったこれだけのことが出来ないというのか?我々への恩というものはないのか?」

 「謝ってほしいのはこっちの方なんですがね。事実が1つもない記事やネットを信じた馬鹿なマスコミが騒ぎたてて、迷惑被ったのは俺です」

 叨場に対し、将烈も負けじと反論してみせるが、立場的にどう見ても不利だ。

 将烈の態度が気に入らなかったのか、叨場は将烈の両膝の裏を蹴り飛ばすと、将烈は両膝を床につけた格好となる。

 それを見ると叨場は満足気に笑う。

 「これは命令なんだよ、わかるな?」

 「・・・・・・」

 顔を下に向けたままの将烈に近づいて行くと、叨場は腰を曲げて耳元で囁くように言う。

 それでもうんともすんとも言わない将烈に対し、叨場はぴくっと眉を潜め、それから勢いよく将烈の髪の毛を掴んで顔をあげさせる。

 表情を歪ませた将烈は叨場を睨みつけると、叨場はそれも気に入らずに掴んでいた腕に力を込めてさらに上を向かせる。

 ふう、とため息を吐いてから斎御司は口を開いた。

 「例え正しいのがお前だろうが、世の中に与えた影響は大きい。それは分かるな」

 「知るか。被害被ったのは俺だっつったろ」

 「穏便に事を済ませ、物事を丸く収めるにはどうするべきか、それがわからないほど馬鹿な男ではあるまい?我々の職務は国民の信頼があってこそのもの。それを失くしたお前が信頼を取り戻すには、謝罪という誠意を見せねばならない」

 「誠意?そりゃ誠意じゃなくてただの自衛だろ。てめぇらがてめぇらの立ち位置守るためだけの謝罪なんて、俺はしねぇ」

 「自分の立場をわきまえろ。お前は今、ただの一職員にすぎないのだ。拒否が出来ると思うな」

 「・・・!!」

 悔しさがにじみ出る将烈の表情に、叨場は掴んでいた指を緩める。

 そして将烈の頭を前に叩きつけるようにして思い切り腕を放すと、斎御司は椅子を回して窓の外を眺める。

 「叨場、マスコミ各社に連絡をして謝罪会見を行うと伝えろ」

 「わかった」







 眞戸部と神楽咲によってマスコミ各社に連絡が届き、さらにはネットでの生配信もされることになった。

 将烈が読む謝罪文は弩野が文面を用意し、それを叨場に確認してもらった後、将烈に手渡された。

 謝罪会見は警察署の玄関付近で行うこととなり、交通規制をしながらも、一般の人も参加出来るようになっていた。

 新品同様のスーツに身を包んだ将烈は、持たされた謝罪文に軽く目を通すと、時間を確認してマスコミの前へと登場する。

 元々警察と別の組織にいた人間ということで、将烈1人での謝罪会見となった。

 【それでは、問題となっているS氏の謝罪会見を始めます】

 そのマイク放送と同時にネットでも中継が始まり、ネットの中では将烈が出て来ただけで大盛り上がりしていた。

 『史上最低の罪人登場!!』

 『さすが税金泥棒』

 『スーツ姿も似合う』

 『はよ死ね』

 『土下座しろ土下座。全世界に向けて頭下げろ。靴舐めろ』

 『死んで詫びろ』

 コメントが次々に投稿されている頃、マスコミの前で一礼をした将烈は、立ったまま用意された謝罪文を広げる。

 パシャパシャと、眩しいばかりのカメラが向けられ、並べられているマイクに向かって口を開こうとしたその時、観覧していた一般人が将烈に近づいてきた。

 まだそれほど寒くないというのに、厚手のパーカーを頭からすっぽり覆い被り、ぼろぼろのスニーカーを履いたその男は、一度足を止めたかと思うと、徐々に呼吸を荒げ、一気に将烈に襲いかかった。

 『きたーーーー!!天誅!!』

 『死刑執行きたーーーー!!』

 『まじ?やらせ?』

 『死んだな、これ』

 ナイフを隠し持っていたその男は、将烈の腹にナイフを突き刺したかと思うと、将烈を押し倒して上に跨り、何度も何度もナイフを振り下ろしていた。

 すぐに救急車を呼ぶ者は少なく、カメラでずっと写真を撮っている者や、実況中継のように話している者、そしてネット中継では国民を喰い物にしていた男に罰が当たったと大騒ぎだった。

 わーわーきゃーきゃーと色んな叫び声が響く中、ネット中継にはこんな声が入っていた。

 『神がお前を殺せと仰ったんだ!!お前なんかこの世にいる意味がない!生贄として死ね!!!!』

 フードを被った男が取り押さえられたのは少し経ってからのことで、救急車が到着したのはそのもう少し後のことだ。

 テレビやネットに晒されたのは、ぐったりと横たわる将烈の身体と、そこに広がっている真っ赤な血。

 取り押さえられた男は、将烈が載りこんだ救急車に向かって発狂を続けていたそうだ。

 謝罪会見は中断となってしまい、このことは大きく取り上げられたのだが、当然の報いだという声が多くあがっていた。

 刺した男は正しいと擁護する声まであがっており、すぐに精神鑑定に回された。

 集中治療室に入って治療が行われ、なんとか一命は取り留めたらしいのだが、未だ回復は見込めない状態で、面会謝絶。

 「あの、将烈さんの容体は」

 病院に様子を見に来た弩野が、担当した医師に確認をしてみると、医師は苦い顔をしてからこう答えた。

 「とても危険な状態です。意識が戻るかも微妙なところです」

 「そうですか」

 直接将烈の容体を窺う事は出来なかったが、医師から聞いたそれを連絡すべく、弩野は病院内の公衆電話から叨場に電話をかける。

 2コール目にはすぐに出た叨場に将烈の状況を伝えると、満足したように笑っているのが電話越しにも分かった。

 弩野は壁に背中をくっつけ、受話器を持っていない方の手をポケットにつっこみながら、叨場と話を続ける。

 「で、この先は?この病院防犯カメラあるんで、下手に病室入るとバレるかもしれませんよ」

 『ああ、そっちは考える。将烈が終わったから、次だ』

 「じゃあ、今日はもう見張り無しってことでいいんですね?」

 『ああ、構わない』

 弩野は叨場に言われた通り、すぐさま病院から去って行った。

 弩野からの電話を切ったあと、叨場は直接将烈のもとへ向かい、誰も面会していないことを確認した。

 そしてその帰り、1人の男とすれ違う。

 「どうして会えないんですか!!将烈さんは無事なんですか!?お願いです!一目でいいんです!!」

 「申し訳ありませんが、今はどなたも会う事は出来ないんです」

 「じゃあ、どのくらいで意識は戻りそうなんですか!?大丈夫なんですよね!?いつ目覚めますか!?」

 「申し訳ありません、それはわかりかねます」

 将烈に会う事が出来ないとはっきり言われたその男は、肩を落とし、とぼとぼと歩いて帰路につこうとしていた。

 その男が叨場の前を通り過ぎようとしたとき、叨場が声をかける。

 「君は波幸くんだね?」

 自分の名前を呼ばれ、波幸は足を止めて男の方を見る。

 しかし、叨場の顔などそれほど見たことがなかった波幸が、その男が警察組織のナンバー2だと気付くのに多少の時間がかかった。

 目を丸くさせ驚いた顔になった波幸は、苛立ちなのか不服なのか、それとも軽蔑なのか、そういった類の目つきをしながらも、頭を下げて挨拶してきた。

 会釈という形での挨拶をしていた波幸に対して、叨場はその下げられた頭を見下すように目を細めて見ていた。

 波幸が顔をあげたことでようやく視線が交わると、叨場がにこやかに話しかけてくる。

 「君はとても優秀な部下だったそうだね。なんとも惜しい。俺の下で働くなら、あいつの下にいた頃よりもずっと良い条件で、良い待遇で迎え入れたいと思っているんだ。どうかな?」

 「・・・・・・」

 それから少し話しをしていた2人だったが、話しが終わると先に叨場がその場から去って行った。

 波幸はその背中を眺め、見えなくなると小さくため息を吐いた。

 そして波幸も帰ろうと思うと、また声をかけられた。







 《S氏刺した犯人は無罪!》

 《精神鑑定によって正義が証明された!》

 《神の名のもとに罰が下った》

 『当然無罪でしょ』

 『死に損ない』

 『あなたは正しいことをしました!自信を持って!!』

 『死んで当然』

 「やれやれ。今回はどんなことを頼まれるのかと思っていたら、まさかこんなことだとはね」

 『忠峯、君には感謝しているよ。裁判官として良識的な判断だ』

 「それはどうも。精神鑑定は矢浪が?」

 『ああ。これから連絡するところでね』

 叨場が電話をしているのは、忠峯という裁判官の男だ。

 ブリーチのかかった長めの髪で、史上最年少で裁判長を務めている男なのだが、見た目はそんな厳格な仕事をしているようには見えない。

 そしてもう1人、叨場が電話をかけたのは検事をしている矢浪という男だ。

 黒髪で優秀な男なのだが、自分以外の人間はみんな馬鹿だと思っているところがある自尊心の高い面がある。

 世間の注目度が高い事件だけでに留まらず、有罪にしようと思えば確実に有罪に出来るだけの力を持っている一方、頼まれれば有罪にしてしまうため、無罪の人間からすれば地獄のような相手だ。

 今回の件に関しては、これまでの世間からの批判や非難などがあったため、精神鑑定をすることで無罪へと持ち込んだ。

 さらには宗教に陶酔していた部分やネットに流された部分もあるのだと主張した。

 捕まったはずの男はすぐに釈放されることとなり、釈放のときには正義の象徴だの、神の所業だのと称えられていた。

 それはすぐさまネットもアップされ、コメントが殺到した。

 『神の使い参上!!』

 『勇敢でした!感動!!』

 《S氏重症、面会謝絶状態!意識も戻るか分からない》

 『てか生きてるの?あれで生きてるって化物?』

 『死んでないけどそのうち死ぬっしょ』

 『誰か病院行って殺してこい』

 『みんなで行っちゃう?』

 《S氏の運ばれた病院と病室アップ》

 『放っておけば死ぬでしょ』

 『探せばもっとダメな奴はいるはず。そいつも同じ目に遭わせてやろう』

 『国民が警察を正してあげなくては!!』

 『俺達の方がスキル上』

 『あいつらマジで全員死ね』

 ヒートアップするネットと同様に、テレビでも刺されたことに対する同情よりも、刺されたことの正当性を示すものが多かった。

 しかし、それは日に日に落ち着いて行き、将烈という男についてのことも忘れ、政治家たちの汚職事件やアイドルとマネージャーの結婚などで持ち切りだった。

 そして熱が収まった頃、またしても新しいターゲットが見つかる。

 《警察のトップが不祥事!?闇取引現場を目撃した者も多数!!》

 《史上最悪の時代!?S氏に続き真っ黒なトップもS氏!》

 《暴力団と癒着!?金の流れは!?》

 《続く不祥事、警察としてのけじめは?》

 『まじか、クソだな』

 『ダブルS氏(笑)』

 『トップが不祥事起こすとか、この国終わったな・・・』

 『またしても制裁すべき警察官』

 《トップのS氏の本名と住所アップ》

 《顔写真とこれまでの経歴アップ》

 《給与明細の流出!?国民を喰い物にする奴は許さない!!》

 カタカタとパソコンをいじっている檜呉のもとに、あるメールが届いた。

 しかし見知らぬアドレスからで、どこからのものか調べてみたのだが、海外を経由して送られてきたものらしく、誰からかは分からなかった。

 それでもメールを開けてみると、そこには怪しげなアドレスがあった。

 何かウイルスでも仕込まれているのかと思った檜呉は、そのアドレスをクリックすることはなかった。

 そしてメール画面を消すと、再びそこに映し出されているサイトに書き込みを繰り返す。

 「・・・よし、メールを受け取ったか」


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